Day1-1 10月10日 日の傾き始めた午後
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「いやー、銀さん、それにしても今回の依頼人は、とても羽振りのいい御仁でしたね。報酬に加えてご祝儀までもらえるなんて。これで、先月の家賃まで完済できますよ。」
「だな、ぱっつあん、こいつを明日パチンコに突っこめば来月の家賃まで…」
「ふざけんな!あんたいい年して金銭感覚が欠けてるんだよ!大体、神楽ちゃんと僕の給料支払い滞ってるの非常識だって気づけよ!!」
そう怒鳴りながらも、僕の気分は法外な報酬と思わぬお土産のおかげで、浮足立っていたのは間違いない。
秋分の日を過ぎてから、日々、日没が早くなるのを実感する。
同じことを思ったのか、銀さんが早々にスクーターのライトを点けた。
街路樹のキンモクセイの香りが向かい風に乗って鼻をかすめていく。
季節のほのかな移り変わりを全身で受けとめられるのはライダーの特権だ。
正確には、僕じゃなくて、銀さんが運転してるのだけど…。
この先、とある事件に巻き込まれる事を知らずに、銀さんと僕は家路を急いでいた。
一週間にわたって約千人が招待された、ガーデンパーティーの依頼人の豪邸がある地区は、かぶき町からターミナルをはさんで、ほぼ対称に位置している。興味深いことに、街の雰囲気も正反対と言っていいだろう。
神社の門前町を由来として計画的に整備された大通りには、幕府の高弟が通うことで知られる寺子屋や、名に聞こえた道場、大規模書店が軒を連ねる。
どぎついネオンが照らし出す夜の街、かぶき町の、わい雑な賑わいとは趣が異なる。
と、まあ、ここはいわゆる山の手地区だ。でも僕は嫌いじゃない。
僕たちのスクーターは信号を左折して通称けやき通りに入った。
お通ちゃんのコンサートが開かれることもある、江戸随一の武道場が左手に見えてくる。
僕の腕にさげられている、賞味数キロのローストビーフと大量のケーキが待ちきれないのか、やや興奮気味の銀さんが立て続けにまくしたてる。
立食パーティで余った食べ物がもったいないと、豪邸のご主人から最終日のおまけに、ご厚意で頂いたのだ。
最後に牛肉を食べたのはいつだっけ。正直、ものすごく助かる。
「ぱっつあん。タッパーに詰めたケーキ、まっすぐ持ってるだろうな?結野アナがお気に入りの新進パティシエ、ほら、えーっと、Toshi Yaraizuka?だっけ?うちの貧乏娘にはもったいねーや。」
「僕が培ってきたタッパー詰めの技術をなめないでくださいよ。傾けてもずれようのないくらい、ぎっちぎちに詰めてありますよ。念のためタッパー持ってきたけど、こんなにもらえるとは予想してませんでした。世間では、気難しい社長だともっぱらの評判だけど、案外、腰の低い人でしたね。」
「だな、元は一介の団子屋から、一代で財を成した苦労人らしいからな。みたらし団子のありがたみを心底思い知ってるんだろーよ。」
銀さんの話は放っておくと、すぐ甘いものの話になってしまう。
っーか、団子と腰の低さは関係ねーよ。
「大体なー、糖分を甘くみるやつは大成しねーって、昔からの常識だろ、糖分を甘く…あれ?銀さん、うまい事言っちゃった?」
ハイテンションの銀さんは僕がそろそろうんざりしているのに全く気付いていない。
ごちそうが手に入った今日こそは、お通ちゃんの歌を口ずさみたいけど、銀さんから絶対やめてくれときつく言われている。
なんでだろう?あんなにいい曲なのに。
通りに面した、音楽レーベル会社のビルの手前で、銀さんは意識的にスピードを落としてくれた。
8F建てのビルの外壁が、お通ちゃんの新曲のポスターでラッピングされているのだ。
今日の銀さんは、ひどく気前がいい。
無意識のうちに、新曲のイントロが口をついて出てくる。
やっぱりお通ちゃんはサイコーだ。
「新八くーん。」
「新 八 くーーーん! 聞 こ え て る ー?」
いけないいけない、僕は腕にぶら下げた包みを曲のリズムに合わせて振り回していたのだった。
そうこうしているうちに、スクーターは右折して神社通りに進入する。
この道の行き止まりはターミナルを円状に囲んだロータリーにつながっている。ロータリーを180度まわると、かぶき町につながる道に入るのだ。
「だな、ぱっつあん、こいつを明日パチンコに突っこめば来月の家賃まで…」
「ふざけんな!あんたいい年して金銭感覚が欠けてるんだよ!大体、神楽ちゃんと僕の給料支払い滞ってるの非常識だって気づけよ!!」
そう怒鳴りながらも、僕の気分は法外な報酬と思わぬお土産のおかげで、浮足立っていたのは間違いない。
秋分の日を過ぎてから、日々、日没が早くなるのを実感する。
同じことを思ったのか、銀さんが早々にスクーターのライトを点けた。
街路樹のキンモクセイの香りが向かい風に乗って鼻をかすめていく。
季節のほのかな移り変わりを全身で受けとめられるのはライダーの特権だ。
正確には、僕じゃなくて、銀さんが運転してるのだけど…。
この先、とある事件に巻き込まれる事を知らずに、銀さんと僕は家路を急いでいた。
一週間にわたって約千人が招待された、ガーデンパーティーの依頼人の豪邸がある地区は、かぶき町からターミナルをはさんで、ほぼ対称に位置している。興味深いことに、街の雰囲気も正反対と言っていいだろう。
神社の門前町を由来として計画的に整備された大通りには、幕府の高弟が通うことで知られる寺子屋や、名に聞こえた道場、大規模書店が軒を連ねる。
どぎついネオンが照らし出す夜の街、かぶき町の、わい雑な賑わいとは趣が異なる。
と、まあ、ここはいわゆる山の手地区だ。でも僕は嫌いじゃない。
僕たちのスクーターは信号を左折して通称けやき通りに入った。
お通ちゃんのコンサートが開かれることもある、江戸随一の武道場が左手に見えてくる。
僕の腕にさげられている、賞味数キロのローストビーフと大量のケーキが待ちきれないのか、やや興奮気味の銀さんが立て続けにまくしたてる。
立食パーティで余った食べ物がもったいないと、豪邸のご主人から最終日のおまけに、ご厚意で頂いたのだ。
最後に牛肉を食べたのはいつだっけ。正直、ものすごく助かる。
「ぱっつあん。タッパーに詰めたケーキ、まっすぐ持ってるだろうな?結野アナがお気に入りの新進パティシエ、ほら、えーっと、Toshi Yaraizuka?だっけ?うちの貧乏娘にはもったいねーや。」
「僕が培ってきたタッパー詰めの技術をなめないでくださいよ。傾けてもずれようのないくらい、ぎっちぎちに詰めてありますよ。念のためタッパー持ってきたけど、こんなにもらえるとは予想してませんでした。世間では、気難しい社長だともっぱらの評判だけど、案外、腰の低い人でしたね。」
「だな、元は一介の団子屋から、一代で財を成した苦労人らしいからな。みたらし団子のありがたみを心底思い知ってるんだろーよ。」
銀さんの話は放っておくと、すぐ甘いものの話になってしまう。
っーか、団子と腰の低さは関係ねーよ。
「大体なー、糖分を甘くみるやつは大成しねーって、昔からの常識だろ、糖分を甘く…あれ?銀さん、うまい事言っちゃった?」
ハイテンションの銀さんは僕がそろそろうんざりしているのに全く気付いていない。
ごちそうが手に入った今日こそは、お通ちゃんの歌を口ずさみたいけど、銀さんから絶対やめてくれときつく言われている。
なんでだろう?あんなにいい曲なのに。
通りに面した、音楽レーベル会社のビルの手前で、銀さんは意識的にスピードを落としてくれた。
8F建てのビルの外壁が、お通ちゃんの新曲のポスターでラッピングされているのだ。
今日の銀さんは、ひどく気前がいい。
無意識のうちに、新曲のイントロが口をついて出てくる。
やっぱりお通ちゃんはサイコーだ。
「新八くーん。」
「新 八 くーーーん! 聞 こ え て る ー?」
いけないいけない、僕は腕にぶら下げた包みを曲のリズムに合わせて振り回していたのだった。
そうこうしているうちに、スクーターは右折して神社通りに進入する。
この道の行き止まりはターミナルを円状に囲んだロータリーにつながっている。ロータリーを180度まわると、かぶき町につながる道に入るのだ。