Day5-1 10月14日 真選組屯所 副長室
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いや、まだ名字さんがテロリストと決まったわけじゃ…。」
「ゼロとは言い切れねー以上、油断は禁物だ。一見、人が良さそうだからって、だまされるんじゃねーぞ。ザキ、あんぱん食い飽きた頃に、女店主が差し入れた毒入りの肉じゃが食って病院に担ぎ込まれたのを忘れたのか?くれぐれも言っとくが、からくりに続き、今度も監視対象者に特別な感情を持ったら…」
「副長、信じてくださいよ…。ところで、メガネの領収書の宛名は『真選組』で…
「『山崎様』だ。テメーで撒いた種はテメーで刈り取れ。」
副長はここまで言うとタバコの煙を深く吸い込み、風味を楽しむように長く吐き出すと、ニヤリとした。
「重要な情報を得られたら経費として認めてやる。」
「助かります!」
「あくまでも、情報とバーターってのを忘れるな。」
「はい!」
副長は立ち上がり、ハンガーにつるしてあったジャケットをはおると襟元を整え、とっつあん達に会いに行く準備を始めた。
「うさん臭ェヤローの所には得体の知れねーヤツが集まってくるモンだな。元攘夷浪士の『白夜叉』殿の元に、過去を失くした女が転がり込んでいやがる。」
「名字さんは、悪い友達に稼ぎのいいバイトがあるとだまされて、自覚なしに犯罪の片棒をかついだ程度ですよ。大体、ブツのやりとりをするなら地味な服装でくるでしょ。あの洋服じゃ街中で目立ってしょうがない。直に記憶が戻って取り越し苦労に終わるに違いありません。」
「だとしても、天パ野郎の監視も兼ねられるんだから好都合だ。桂との関係を別にしても、あの女、どーにも解せねェ。過去を完璧に消せるたァ並の人間の仕業じゃネェ。こりゃァ、相当権力のあるヤローが裏で力貸してるぞ。ザキ、小娘の素性洗ってたら、知らぬ間に虎の尾を踏んでる事態もあり得る。この件、くれぐれも慎重に探れ。」
「了解です。」
「それと、」
「はい?」
「必要とあらば、二人とも斬れ。」
再び時計に目をやると、副長は足早に局長室に向かっていった。
またこれだよ。副長だって旦那に負けてるのに、俺が勝てるハズがないじゃないか…。
空の茶碗を盆にのせて、食堂に戻るまでの間、俺は明日以降の段取りを頭の中でほぼ立て終えた。
これから久しぶりにミントンの試合が待っている。
まったく、副長も心配性というか疑り深いというか。
名前ちゃん(こう呼ばせてもらおう、本人に許可取ってないけど)が、攘夷浪士のはずがない。
たった数分、男と立ち話するだけでカネが稼げる誘惑に乗ってしまった、上京したての世間知らずな娘だろう。
監察としての経験から出した結論だ。
それはそうとして、ウェイトレスの制服で取引現場に現れるなんてアホの子にも程がある。
どっちかっていうと深刻なのは、家族や職場から連絡がこないのと、過去がまるっきり空白なことだ。
社会で活動する以上、戸籍、銀行口座、学校、職場など、個人の存在が何らかの形で残る。
それらは、記憶の喪失でゆらぐものではない。
間者なら立派なニセの経歴をでっち上げるか他人になりすます。
データゼロの名前ちゃんは明らかに異常だ。
副長が「探れ。」と命令したのは至極当然と言える。
もしかすると、彼女はあらゆる意味で超越してる存在なのかもしれない。
でも、それが何なのか、今の俺にはわからない。
ユニフォームに着替えながらも俺は、思索を巡らしていた。
いけない、これじゃミントンに集中できないぞ。
そろそろ終わらせよう。
やれやれ、名前ちゃんの監視業務は、長期潜入捜査の振り替え休暇と考えれば悪くないか。
何より、あんぱんを食べなくていい。
しかも相手はむさくるしい野郎じゃないときてる。
かくいう俺も、仕事抜きで話をしてみたい。
メガネをかけた彼女を見てみたい。
翌日、旦那から電話があり、あさって16日に名前ちゃんが会ってくれることになった。
2015年1月9日UP
時系列の解説は次のページ