Day5-1 10月14日 真選組屯所 副長室
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副長は突然立ち上がり、俺にここで待つよう指示すると廊下に出て、近くを歩いていた隊士を捕まえて部屋に連れてくると、素早くメモ用紙に書きつけて局長室に持って行くよう命じた。
「近藤さんに桂の件で遅れると伝えた。」
副長は、どっしりと腰を据える。
瞳孔は全開だ。
「続けろ。裏はとったんだろうな?」
「ウチの取り調べが与力のソレよりキツイのが身に染みたのか、観念してペラペラとしゃべりました。ヤツの記憶は半端なく、過去の余罪の日付と場所、盗んだ物の詳細に至るまで、よどみなく自供して舌を巻きましたよ。」
「ったく、天から授かった折角の才能をロクでもねー事に使いやがって。」
「で、例の事故の一部始終はおろか、ヤツが目撃した女物のバッグが、名字さんが紛失したバッグの形、色、大きさ、柄とすべて一致しました。窃盗犯が現場に居合わせたのは間違いありません。」
副長が少し身を乗り出してきた。
「で、桂を目撃したっーのは一体どういういきさつだ?」
「バッグが自分の足元に転がってきたので、これ幸いと手を伸ばしたら、別の手が伸びてかっさわれた、コンチクショーと、憎い商売敵のツラを拝もうとしたら桂だったわけです。俺の稼ぎをかすめやがって、桂のヤロー覚えてやがれ、と実に悔しがっていました。泥棒らしいといっちゃ、らしい言い分ですが逆に信用できるかと。それに、野次馬の一人が、ストレートロングヘアーの若い男性が現場にいたと証言しています。」
副長は生き生きとした表情で、俺の説明に耳を傾けている。
フーッと、タバコの煙を吐き出してから、全てを射抜きそうな眼差しで、こう告げた。
「コイツはひょうたんから駒の一件になりそうだ。」
「スリ犯の証言から推測すると、桂は女のバッグの『中身』を必要としていたんだろう。」
「つまり…、副長は、桂が名字さんと取引しようとした、って言いたいんですか?」
「そういうことだ。」
「…。」
桂は、置き引きで日銭を得るようなセコイ真似は絶対しない。敵とはいえ誇り高い男だ。
攘夷とは名ばかりで、庶民からカネを巻き上げたり押し込み強盗が本業と化した不逞の輩や、要人暗殺や破壊活動に走る高杉一派と、桂は一線を画している。
俺たちにとっちゃ大迷惑な存在だが、ヤツが純粋に国の行く先を憂いて攘夷活動をしているように見えるからこそ、密かに支援し、かくまう者が後を絶えない。
そんな桂が、わざわざバッグを持ち去った証言を得られたとなると、名字さんは重要参考人に浮上してくる。
彼女が、住所不定、過去の経歴一切不明ってのがさらに心証を悪くする。
一端捜査線に上がった以上、完全なシロだと証明できるまで、もはや追及の手を緩めることはできない。
例え、ちょっとかわいい娘さんだとしてもだ。
副長が棚に並んでいる、検討・分析中のファイルから見覚えのある表を持ち出して、俺に見せた。
「ザキ、覚えてるよな。」
「先日のアジトのがさ入れで、押収した謎の数列表でしょ。それが、一体どうしたんですか?あっ…!」
「あの女の口走った数字は本当に電話番号なのか?っーか、この際、電話番号以外の可能性を視野に入れるべきじゃねーのか?」
「となると、存在しない三つの電話番号は…。」
「暗号だ。」
「暗号か…。」