Day5-1 10月14日 真選組屯所 副長室
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潜入捜査の中間報告と、ある報告書の差し替えを願い出るため、副長室に足を運んだら、お茶のお代わりを持ってくるよう命じられた。
伊東鴨太郎一派の反乱、そして粛清によって生じた隊士の大幅な入れ替えによって、真選組を立て直す任務が追加されたのが、副長の多忙な日々に拍車をかけている。
小姓をつけろ、という局長の再三の助言を副長は固辞している。
自分の力量で今のところ仕事はまわせるので心配いらないと答えたらしい。
実際あの人はこなしているけど、さすがにお茶を運んだりする小姓はいてもいいと思う。
「…ごくろうだった、ザキ。第一次潜入捜査はひとまず終了だ。明日中に撤退をすませろ。」
「了解です、もう一つの本題に入りたいんですが。」
「ああ、報告書を差し替えたいとか言ってたな。」
「多分、あっちの山の真ん中らへんに挟まってます。先日事故に遭った名字名前さんの件ですが。」
「アレか?そういや、あの娘さん、どうなった?記憶が戻って家に帰れたのか?」
「それが…まだ何も思い出せてない上に、今日になっても家族や職場から捜索願が出てないんですよ。行くあてがないんで、万事屋が預かってます。」
副長は飲み干した茶碗を盆に戻し、書類の山から報告書を見つけ一瞥した後、俺によこした。
「ったく、天パ野郎に関わったばかりに踏んだり蹴ったりだな。で、用は済んだろ、とっとと帰れ。」
「だから本題はこれからって言ってるでしょーが。」
副長は多忙なので、さっさと人を帰したがるのが常だ。
「名字さんの素性と事故現場で収集した情報をまとめました。」
用意した新しい報告書を提出する。
くわえタバコのまま報告書を片手で受け取ると副長は目を通し始めた。
「……顔写真と一致する捜索願は今日現在なし。自宅および職場の該当住所なし。自宅、職場、母親の電話番号は、全て存在せず。戸籍なし。出入国記録なし。すなわち、名字名前さんの過去の経歴は一切不明、もしくは抹消済み。何コレ?そこらのチンピラが霞んで見える不審人物じゃねーか。」
「江戸には、戦後の混乱で戸籍のない者や、住所不定の浮浪者が少なからずいますが、名字さんは、ごく普通の家庭で育った娘さんに見えました。それに、真選組の俺たちにスラスラと答えた個人情報がどれもデタラメってのは不自然です。だって自宅の電話番号なんて滅多に間違えるよーなモンじゃないでしょ。とはいえ、嘘をついている様子じゃなかったし、俺には、てんでわかりかねます。」
副長は俺の説明を聞きながら一枚目を読み終えた。
一旦、紙を文机に置いてから新しいタバコに取り換え、マヨライターで火を点けると、再び報告書をつかみ、話を続けるよう指示する。
「それとですね、現場の交通整理の応援にきた与力から通行人の調書があがってきたんですが、コイツも妙な点だらけでして。」
「ゆっくり読んでる暇はねーから、口で結論を言え。」
「事故直前の名字さんの立ち位置が不明なんです。目撃者の誰もが『自分の近くにはいなかった。』と、口を揃えるだけでして…。中には、『幽霊みたいに突然スクーターの前に現れた。』って証言もありました。あくまで酔っぱらいの戯言ですが。」
「あ、いけね、あと三分で松平のとっつあんが来るんだった。ザキ、この件で進展があったら逐一報告しろ。」
「本題っーのはこれからなんですが。」
副長は報告書を脇に置くと文机に向き直り、開きっぱなしの書類をまとめはじめた。
残された時間は三分弱だ、要旨を簡潔にまとめよう。
「事の発端は、おとといの夜に連続窃盗犯が逮捕されたんですが、何とソイツが『とっておきの情報がある。』と司法取引を持ち掛けてきたんですよ。で、与力からウチに護送されてきました。」
「どこの国のドラマの見過ぎだァ?江戸にはキツイ取り調べはあっても、司法取引なんて生ぬるい制度はねーよ。オイ、勝手に犯人と約束しちまった訳じゃねーよな?」
「まさか。ちょっと脅したらすぐに口を割りましたよ。」
俺は一呼吸おいてから、本題を口にした。
「何と、あの桂が、名字さんがはねられた事故現場にいたって言うんです。」
伊東鴨太郎一派の反乱、そして粛清によって生じた隊士の大幅な入れ替えによって、真選組を立て直す任務が追加されたのが、副長の多忙な日々に拍車をかけている。
小姓をつけろ、という局長の再三の助言を副長は固辞している。
自分の力量で今のところ仕事はまわせるので心配いらないと答えたらしい。
実際あの人はこなしているけど、さすがにお茶を運んだりする小姓はいてもいいと思う。
「…ごくろうだった、ザキ。第一次潜入捜査はひとまず終了だ。明日中に撤退をすませろ。」
「了解です、もう一つの本題に入りたいんですが。」
「ああ、報告書を差し替えたいとか言ってたな。」
「多分、あっちの山の真ん中らへんに挟まってます。先日事故に遭った名字名前さんの件ですが。」
「アレか?そういや、あの娘さん、どうなった?記憶が戻って家に帰れたのか?」
「それが…まだ何も思い出せてない上に、今日になっても家族や職場から捜索願が出てないんですよ。行くあてがないんで、万事屋が預かってます。」
副長は飲み干した茶碗を盆に戻し、書類の山から報告書を見つけ一瞥した後、俺によこした。
「ったく、天パ野郎に関わったばかりに踏んだり蹴ったりだな。で、用は済んだろ、とっとと帰れ。」
「だから本題はこれからって言ってるでしょーが。」
副長は多忙なので、さっさと人を帰したがるのが常だ。
「名字さんの素性と事故現場で収集した情報をまとめました。」
用意した新しい報告書を提出する。
くわえタバコのまま報告書を片手で受け取ると副長は目を通し始めた。
「……顔写真と一致する捜索願は今日現在なし。自宅および職場の該当住所なし。自宅、職場、母親の電話番号は、全て存在せず。戸籍なし。出入国記録なし。すなわち、名字名前さんの過去の経歴は一切不明、もしくは抹消済み。何コレ?そこらのチンピラが霞んで見える不審人物じゃねーか。」
「江戸には、戦後の混乱で戸籍のない者や、住所不定の浮浪者が少なからずいますが、名字さんは、ごく普通の家庭で育った娘さんに見えました。それに、真選組の俺たちにスラスラと答えた個人情報がどれもデタラメってのは不自然です。だって自宅の電話番号なんて滅多に間違えるよーなモンじゃないでしょ。とはいえ、嘘をついている様子じゃなかったし、俺には、てんでわかりかねます。」
副長は俺の説明を聞きながら一枚目を読み終えた。
一旦、紙を文机に置いてから新しいタバコに取り換え、マヨライターで火を点けると、再び報告書をつかみ、話を続けるよう指示する。
「それとですね、現場の交通整理の応援にきた与力から通行人の調書があがってきたんですが、コイツも妙な点だらけでして。」
「ゆっくり読んでる暇はねーから、口で結論を言え。」
「事故直前の名字さんの立ち位置が不明なんです。目撃者の誰もが『自分の近くにはいなかった。』と、口を揃えるだけでして…。中には、『幽霊みたいに突然スクーターの前に現れた。』って証言もありました。あくまで酔っぱらいの戯言ですが。」
「あ、いけね、あと三分で松平のとっつあんが来るんだった。ザキ、この件で進展があったら逐一報告しろ。」
「本題っーのはこれからなんですが。」
副長は報告書を脇に置くと文机に向き直り、開きっぱなしの書類をまとめはじめた。
残された時間は三分弱だ、要旨を簡潔にまとめよう。
「事の発端は、おとといの夜に連続窃盗犯が逮捕されたんですが、何とソイツが『とっておきの情報がある。』と司法取引を持ち掛けてきたんですよ。で、与力からウチに護送されてきました。」
「どこの国のドラマの見過ぎだァ?江戸にはキツイ取り調べはあっても、司法取引なんて生ぬるい制度はねーよ。オイ、勝手に犯人と約束しちまった訳じゃねーよな?」
「まさか。ちょっと脅したらすぐに口を割りましたよ。」
俺は一呼吸おいてから、本題を口にした。
「何と、あの桂が、名字さんがはねられた事故現場にいたって言うんです。」