Day4-1 10月13日 ターミナル
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よかった。やっとあきらめてくれたようだ。
助かった…。
「あの…」
「もう大丈夫だ。どこから迷い込んじまったんだか…、嬢ちゃんのような普通の娘が、色街に来ちゃいけないよ。悪いヤローに絡まれてさぞかし怖かっただろう、それにしても俺が来るまでよく頑張った。いや~よかった。」
ほっとしたところで、追い払ってくれたサングラスのおじさんがさとすように話しかけてきた。
「ありがとうございました。この町に来たばかりで何も知らなくて、本当にどうお礼を言ったらいいか…。」
私が涙ぐんでいるのに気がつくと、おじさんは上着のポケットから広告が印刷されたお店のポケットティッシュを出してよこした。
「いいよいいよ~。こんな小汚いおっさんの事なんか気にすんなって。表通りに出られる信号の所まで一緒についてってあげるからさ。大人の男の悪所に長居は無用だ。」
「本当にありがとうございました。」
何度お礼をいっても言いたりない。
「じゃあ、嬢ちゃん行くか。」
おじさんは表通りに出るにはコツがいるんだと言うと、お店の看板を持ったまま歩き始めた。
「私の名前、何で知ってたんですか?」
「アレ?ありがちなの言っといたんだけど、同じだった??いやさ、知り合いのフリしときゃ兄ちゃんも引き下がると思ってさ。それにしても偶然だね~。」
おじさんの機転と偶然に救われたんだ。
神様、ありがとう。
信号が近づくにつれて、通りのいかがわしさがフェードアウトしていく。
別れ際に、
「本当に助かりました、あの、せめてお名前だけでも。」
と尋ねても、おじさんは首を振って
「いやいやいや、たいしたもんじゃないからさ。」
と、どうしても名乗ろうとしなかった。
何度もお願いすると、
「あっ、そうだな…、俺、仕事のない日はかぶき町の公園にいるからさ、もし会えたら缶コーヒーでもおごってくれる?もちろん缶コーヒーは冗談だけど。」
と笑ってから、
「長谷川。」
ぼそっと小さい声で名前を教えてくれた。
「長谷川さん、本当にありがとうございました。」
多分、持ち場を離れちゃいけないのに、長谷川さんは親切に次の信号のところまでついてきてくれた。
ここを右に曲がると大江戸デパートの通りに出ると教えてもらって別れた。
「嬢ちゃんー!都会には女の子を狙うオオカミがいっぱいだから気をつけるんだよ~!」
振り返ったら、長谷川さんはまだ見守ってくれていて、目が合うと看板を持ってない方の手を大きく振りながら叫んでくれた。
本当にありがとう。いつかお礼ができたらいいな。
角を曲がると、すぐに普通の街並みになった。
「名前ちゃーん!」
向こうから音を立てて神楽ちゃんを乗せた定春くんが突進してくる。
その後ろに新八くんの姿が小さく見える。
定春くんから降りた神楽ちゃんは泣き出しそうな顔をしている。
「名前ちゃん、ごめんネ。もう迷子にしないアル。」
神楽ちゃんが手をつないでくれた。
握力が強くてちょっと手が痛い。
「おいてけぼりにしてごめんなさい。」
追い着いた新八くんは、全力で走って汗をかいたのか額に手ぬぐいをあてている。
「今日は大江戸デパートで終わりです。足痛くないですか?」
「平気だよ、草履にもだいぶ慣れてきたし。」
「もうひと頑張りアル。銀ちゃんからおこづかいもらったから、デパ地下でスムージー飲むネ。」
雑踏の向こうに、大江戸デパートの看板が見えてきた。
2014年12月8日UP