Day4-1 10月13日 ターミナル
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「君~、そんな怖がらないでよー。」
無視し続けていたら前に回られて“とおせんぼう”された。
「出演するかどーかは後で決めればいいじゃない~。」
怪しい男は、高級腕時計をつけて派手な指輪を両手に何本もはめている。
あと、香水がきつい。
絶対カタギじゃない。
かかわり合っちゃいけない類の人間だ。
じりじりと距離を詰めてくる。
「そうだ、君、おカネに困ってるでしょ?サインしてくれたらすぐに契約金あげちゃうよ~。ここだけの話、今いくら必要なの?借金チャラにして出直せるいいチャンスだよ。」
おカネ??
借金??
そうだ!!
ニュースのドキュメンタリーで、被害に遭った女の人がモザイク映像で涙ながらに告白していたのを思い出した。
男がくれるのは契約金にみせかけた借金だ。
それもヤクザの闇金融が取り仕切る違法金利の。
言われるままに事務所に行ったら、脅されて書類にサインするまで帰してもらえない。
そして、莫大な借金を背負わされて、返せなければ親に見せられない方の「女優」にさせられるか、監禁されて…そのあとは考えたくない。
「はい着いたー!事務所はこのビルの4Fだよ。ここまで来ちゃったら入っとくしかないよね~、君、怖がらないでよ~。すぐ終わるからさ~。」
かいくぐって抜けようとするけど逃げられない。
腕を絡めてきて、強引に雑居ビルに連れ込もうとする。
「ちょっと…何するん…そういうの興味ない…です…やめてくださ…、」
大声を出して助けを求めようとしても、口からは震えた小さい声が漏れるだけだ。
「だから嫌だって言っ…離してくださ…、やめ…」
涙でじわっと視界が曇ってくる。エレベーターに乗せられたら終わりだ。
男は足を止めて必死に抵抗する私をものともせずに、腕ごと力ずくで引きずっていく。
「あれ~?名前ちゃん??名前ちゃんじゃない!出勤遅いよ!!」
客引きの看板を持ったサングラスのおじさんが、大声で私たちの間に割って入ってきた。
「名前ちゃん~、うちは遅刻3分で罰金1万円だから気をつけてよ、ってマネージャーに言われたよね!いったい初日から何やってんの!!」
「ハァア?誰だアンタ??」
きつく腕をつかんだまま、男はおじさんをにらみつけた。
「兄さん~、うちの娘(こ)がご迷惑をおかけしちまってどうもすいません。実はこの娘、来週入店の新人なんです。今日は研修で来てもらったんですよ。」
「なんだよ!お宅の娘かよ。だったらもっと早く言いやがれ!貴重な時間無駄しちまったじゃねーか!!俺はぼーっと立って看板だけ持ってりゃいいアンタと違って忙しいんだよ!」
絡めた腕を乱暴にほどくと、私をおじさんの方に突き飛ばした。
「本当すいません!!まだ、イロハのイも仕込んでないズブの素人なもんで、勘弁してやってくださいよ~。今日からきっちり指導していくんで、どうか広いお心に免じて許してやってくれませんか。ほら、名前ちゃん!仏頂面してないで兄さんにごあいさつだ、どこの世界でも笑顔であいさつできないとやってけないよ!!」
おじさんは頭に手を乗せて無理やりお辞儀をさせた。
「チッ、やけにスレてないと思ったら、今時珍しい正真正銘の新人さんかよ。へぇ~、おたくの店、いい掘り出しモン見つけたな。」
おもむろにタバコをくわえてド派手なライターで火を点けると、男は私の全身を点検するようにジロジロ見回し、自分の脳内で納得したようにうなずくと、急に笑みを浮かべて猫なで声になった。
「じゃあな姉ちゃん、店のお給料で足りないなら気軽に相談してよ。あんたの器量なら、カネはいくらでもはずんじゃうから。いつでも寄りな。」
「兄さんも、ぜひごひいきにお願いしますよ。お時間とらせてすいませんでした!」
男は、平身低頭するおじさんをスルーしてさっさと雑居ビルに入って行った。