Day2-1 10月11日 昼 「お登勢」
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌朝、目を覚ましても、そこは夢の世界だった。
私は依然、大江戸病院にいた。
病室で朝食を食べてからお店の制服に着替える。汚れているけど他に着るものがないので仕方ない。
正体不明の誰かさんが置いていった、お見舞いのミスドの箱は、一人で食べきれない量だったので、手を付けずに万事屋さんに渡すことにした。
退院前に看護師さんがアイブローペンシルを貸してくれたので眉を描く。
女子にとって眉の有無は大きな違いだ、わかってくれてありがとう。
ちょんまげ医師の診察を終えた10時半頃、1Fロビーで迎えにきた志村くんと合流し、彼は治療費の会計を済ませた。
ふわふわ頭の坂田さんは、スクーターの修理で工房に赴いた、とのことだった。
彼の着物の袖からチラチラとのぞく腕に、あちこちばんそうこうが貼ってある。
視線に気づいた彼は、銀さんと僕は頑丈にできてますからご心配なく、と、さも当たり前のような顔をして笑っていた。
病院前で拾ったタクシーの道すがら教えてもらったのだけど、彼と坂田さんと、かぐらちゃんと言う女の子は、三人で「よろずや」を営んでいて、ペットの迷子探し、瓦屋根のふき替え、映画館の呼び込み、スズメバチの巣除去、用心棒など、ありとあらゆる仕事を請け負って生計を立てているらしい。
あと、家には「さだはる」という超大型犬がいるそうだ。
「過去には人探しも手掛けています、腕にはおぼえがあるので、僕らに任せてください。お店とご自宅は責任を持ってみつけますから。」
彼は、私の目をまっすぐ見て、自らに言い聞かせるようにはっきりと言った。
それにしても昨日から不思議なことに、志村くんは袴を身に着けている。
運転手さんはちょんまげだし、街を行き交う人々は揃いも揃って和服姿だ。
きっと、ここは夢の中の世界だ。そう決まっている。
そのうち目が覚めて、奇妙な夢の内容をすっかり忘れてしまうのだろう。
でも、なかなか目が覚めないから少し不安だったりもする。
私たちを乗せたタクシーはどこまでも走っていく。
そして、車窓から見える、「江戸」というテーマパークもどこまでも続いている。
それにしても、長い夢だ。
一体、どこまで行ったら終わるのだろう。
タクシーのカーラジオから急にノリのいい曲が流れてくる。
イントロからして覚えやすくて、みんなで盛り上がれそうな歌だ。
「お通ちゃんの新曲、知ってます?」
「おつうちゃん?」
「この歌、初めて聴くけど、すごく元気になれる感じでいいね。好きかも。」
「僕、つらい事があって落ちこんでいた時に、お通ちゃんの歌に救われたっていうか、こんな事、怪我させた僕が言うのもアレなんですけど、絶対、見つけ出しますから、だから…」
「だから…?」
「僕も歌うので聴いてください、名字さん、元気出してください。」
運転手さんにラジオの音量を上げるよう伝えるやいなや、彼はおつうちゃんの歌をラジオに合わせて歌い始めた。
すかさず、運転手さんがボリュームを歌声に負けないくらいに爆音にあげる。
張り合うように歌声も大きくなる。
すると、運転手さんがカーウインドーを全て開け放した。
志村くんはとても優しい。きっと、励ましてくれてるつもりなんだと思う。
おつうちゃんの歌は気分が上がってくるから、知ってたなら絶対一緒に私も歌う。
でも、はっきりいって耳が限界に近い、志村くんの方の歌が…。
バックミラーに映る運転手さんの顔が引きつってる。
反面、私を励まそうとしてくれる彼は、出会ってから一番、いい表情をしていた。
タクシーは大通りから路地に進入し、右折と左折を繰り返したあと、とある二階建ての日本家屋の前で停まった。
クルマを降りて、玄関正面から二階を見上げると、「万事屋銀ちゃん」と味のある書体で書かれた大きな看板が掲げられている。
あぁ、「万事屋」と書いて「よろずや」と読むのか。
「お登勢さんから、顔出せって言われてるので、先に入って銀さんを待ちましょう。神楽ちゃんも待ってます。」
1階の“のれん”のかかった店構えは年期の入った“たたずまい”だ。
―ガラッ、
引き戸を開けて、お店の中に入るようすすめてくる。
ここで遠慮していると悪いので、とりあえず「お登勢」に入ることにした、
私は依然、大江戸病院にいた。
病室で朝食を食べてからお店の制服に着替える。汚れているけど他に着るものがないので仕方ない。
正体不明の誰かさんが置いていった、お見舞いのミスドの箱は、一人で食べきれない量だったので、手を付けずに万事屋さんに渡すことにした。
退院前に看護師さんがアイブローペンシルを貸してくれたので眉を描く。
女子にとって眉の有無は大きな違いだ、わかってくれてありがとう。
ちょんまげ医師の診察を終えた10時半頃、1Fロビーで迎えにきた志村くんと合流し、彼は治療費の会計を済ませた。
ふわふわ頭の坂田さんは、スクーターの修理で工房に赴いた、とのことだった。
彼の着物の袖からチラチラとのぞく腕に、あちこちばんそうこうが貼ってある。
視線に気づいた彼は、銀さんと僕は頑丈にできてますからご心配なく、と、さも当たり前のような顔をして笑っていた。
病院前で拾ったタクシーの道すがら教えてもらったのだけど、彼と坂田さんと、かぐらちゃんと言う女の子は、三人で「よろずや」を営んでいて、ペットの迷子探し、瓦屋根のふき替え、映画館の呼び込み、スズメバチの巣除去、用心棒など、ありとあらゆる仕事を請け負って生計を立てているらしい。
あと、家には「さだはる」という超大型犬がいるそうだ。
「過去には人探しも手掛けています、腕にはおぼえがあるので、僕らに任せてください。お店とご自宅は責任を持ってみつけますから。」
彼は、私の目をまっすぐ見て、自らに言い聞かせるようにはっきりと言った。
それにしても昨日から不思議なことに、志村くんは袴を身に着けている。
運転手さんはちょんまげだし、街を行き交う人々は揃いも揃って和服姿だ。
きっと、ここは夢の中の世界だ。そう決まっている。
そのうち目が覚めて、奇妙な夢の内容をすっかり忘れてしまうのだろう。
でも、なかなか目が覚めないから少し不安だったりもする。
私たちを乗せたタクシーはどこまでも走っていく。
そして、車窓から見える、「江戸」というテーマパークもどこまでも続いている。
それにしても、長い夢だ。
一体、どこまで行ったら終わるのだろう。
タクシーのカーラジオから急にノリのいい曲が流れてくる。
イントロからして覚えやすくて、みんなで盛り上がれそうな歌だ。
「お通ちゃんの新曲、知ってます?」
「おつうちゃん?」
「この歌、初めて聴くけど、すごく元気になれる感じでいいね。好きかも。」
「僕、つらい事があって落ちこんでいた時に、お通ちゃんの歌に救われたっていうか、こんな事、怪我させた僕が言うのもアレなんですけど、絶対、見つけ出しますから、だから…」
「だから…?」
「僕も歌うので聴いてください、名字さん、元気出してください。」
運転手さんにラジオの音量を上げるよう伝えるやいなや、彼はおつうちゃんの歌をラジオに合わせて歌い始めた。
すかさず、運転手さんがボリュームを歌声に負けないくらいに爆音にあげる。
張り合うように歌声も大きくなる。
すると、運転手さんがカーウインドーを全て開け放した。
志村くんはとても優しい。きっと、励ましてくれてるつもりなんだと思う。
おつうちゃんの歌は気分が上がってくるから、知ってたなら絶対一緒に私も歌う。
でも、はっきりいって耳が限界に近い、志村くんの方の歌が…。
バックミラーに映る運転手さんの顔が引きつってる。
反面、私を励まそうとしてくれる彼は、出会ってから一番、いい表情をしていた。
タクシーは大通りから路地に進入し、右折と左折を繰り返したあと、とある二階建ての日本家屋の前で停まった。
クルマを降りて、玄関正面から二階を見上げると、「万事屋銀ちゃん」と味のある書体で書かれた大きな看板が掲げられている。
あぁ、「万事屋」と書いて「よろずや」と読むのか。
「お登勢さんから、顔出せって言われてるので、先に入って銀さんを待ちましょう。神楽ちゃんも待ってます。」
1階の“のれん”のかかった店構えは年期の入った“たたずまい”だ。
―ガラッ、
引き戸を開けて、お店の中に入るようすすめてくる。
ここで遠慮していると悪いので、とりあえず「お登勢」に入ることにした、