Day1-6 10月10日 消灯後 見舞客の正体
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半額セールのポンデリングがたんまり入った箱をたずさえて、再び俺が大江戸病院を訪れたのは、面会時間も消灯時間もとっくに過ぎた頃だった。
玄関の警備員も、廊下を歩く病人も、ナースステーションに待機する看護師も、隊服姿の俺を誰一人咎める(とがめる)ことはない。
すれ違いざまの決まり文句は、口をそろえて「ご苦労様です。」だ。
エレベーターの来る間を利用して、山崎の残した留守番メッセージを再生する。
どうせ泣き言に決まってるが、俺はイイ奴だから聞くことにする。
「沖田隊長~、勝手にいなくなるから、副長から隊長の分まで叱られちゃったじゃないですか~。それと、名字さん、事故のショックで記憶喪失になって今夜は病院に泊まるって…、すいません前回の留守電で報告してました!そうだ、俺、電話したのは、彼女の素性でおかしな…、ちょっと副長~!置いていか…」
- ピーッ、メッセージは1件です、もう一度メッセージを聴…
ザキの伝言はバカみてーなタイミングで途切れていた。
ドーナツ屋の行列が通りの角の次の角まで連なっていたのは想定外だった。
当初の予定だと、病院にもっと早く到着するはずだったがあとの祭りだ。
えっ、こんな夜更けに見舞いだってィ?
はァ?勘違いするな。
これは捜査の一環だ。だから、おめかしして隊服で会いに来てやってんだぜィ。
ナースステーションに、一人の病人の見舞いにしては不釣合いな大きさのドーナツの箱を預け、名字名前の病室へ足を急いだ。
面会の前に厠に寄ると一人合点した看護師は二つ返事で箱を預かったが、
コイツは俺専用のおやつだ。
事と場合によっちゃ殺っちまう相手に献上するスイーツなんぞねーよ。
あの時、旦那のスクーターが名字名前と衝突した瞬間、ざっと見積もって交差点で20人弱が信号待ちをしていた。
そのうち、事故の決定的瞬間を、ごく間近で目撃したのは、当の旦那と、車窓から旦那の前方を眺めていた俺の二人だけだ。
バランスを崩した体を旦那は立て直し、自身の行動の結果に合点がいかない風に首をかしげた。
そして、思い直したように、自分がはねた女のもとに駆け寄っていった。
無理もない、俺も目を疑った。
あの女、何者だ。
臭ェ。
セミの死骸を目がけて巣からうじゃうじゃ湧いてくる、アリみてーな目ざとい野次馬の整理にあたってる間も、ドーナツ屋の順番待ちの間も、目に焼き付いた事故前後の不自然な光景が絶え間なく脳内でリピート再生されていた。
万事屋の旦那は、全くつかみどころのねェ、ちゃらんぽらんな御仁だが、剣の腕は俺の認めるところだ。
数多(あまた)の死線をくぐり抜けてきた「伝説の白夜叉」殿に、小娘の飛び出しなんぞ見切るのは朝飯前ってモンだ。
そもそも旦那なら、テメーと俺がぐしゃぐしゃに潰れる覚悟で、スクーターをパトカーにぶつけてでも、一介の通行人を守るはずだ。
しかし、旦那は、衝突回避を失敗した。
見事なぐらい。
衝突時、徐行だったにもかかわらず。
ありえねェ。
あの瞬間、名字名前は、あたかも別世界から「出現」したように見えた。
生まれて初めて、俺は動きを全く見切れなかった。
断じて、あの女は道路を横切っちゃいねェ。
天人だ、でなきゃ、幽霊でィ。
そうじゃねーと説明がつかねェんでさァ。
玄関の警備員も、廊下を歩く病人も、ナースステーションに待機する看護師も、隊服姿の俺を誰一人咎める(とがめる)ことはない。
すれ違いざまの決まり文句は、口をそろえて「ご苦労様です。」だ。
エレベーターの来る間を利用して、山崎の残した留守番メッセージを再生する。
どうせ泣き言に決まってるが、俺はイイ奴だから聞くことにする。
「沖田隊長~、勝手にいなくなるから、副長から隊長の分まで叱られちゃったじゃないですか~。それと、名字さん、事故のショックで記憶喪失になって今夜は病院に泊まるって…、すいません前回の留守電で報告してました!そうだ、俺、電話したのは、彼女の素性でおかしな…、ちょっと副長~!置いていか…」
- ピーッ、メッセージは1件です、もう一度メッセージを聴…
ザキの伝言はバカみてーなタイミングで途切れていた。
ドーナツ屋の行列が通りの角の次の角まで連なっていたのは想定外だった。
当初の予定だと、病院にもっと早く到着するはずだったがあとの祭りだ。
えっ、こんな夜更けに見舞いだってィ?
はァ?勘違いするな。
これは捜査の一環だ。だから、おめかしして隊服で会いに来てやってんだぜィ。
ナースステーションに、一人の病人の見舞いにしては不釣合いな大きさのドーナツの箱を預け、名字名前の病室へ足を急いだ。
面会の前に厠に寄ると一人合点した看護師は二つ返事で箱を預かったが、
コイツは俺専用のおやつだ。
事と場合によっちゃ殺っちまう相手に献上するスイーツなんぞねーよ。
あの時、旦那のスクーターが名字名前と衝突した瞬間、ざっと見積もって交差点で20人弱が信号待ちをしていた。
そのうち、事故の決定的瞬間を、ごく間近で目撃したのは、当の旦那と、車窓から旦那の前方を眺めていた俺の二人だけだ。
バランスを崩した体を旦那は立て直し、自身の行動の結果に合点がいかない風に首をかしげた。
そして、思い直したように、自分がはねた女のもとに駆け寄っていった。
無理もない、俺も目を疑った。
あの女、何者だ。
臭ェ。
セミの死骸を目がけて巣からうじゃうじゃ湧いてくる、アリみてーな目ざとい野次馬の整理にあたってる間も、ドーナツ屋の順番待ちの間も、目に焼き付いた事故前後の不自然な光景が絶え間なく脳内でリピート再生されていた。
万事屋の旦那は、全くつかみどころのねェ、ちゃらんぽらんな御仁だが、剣の腕は俺の認めるところだ。
数多(あまた)の死線をくぐり抜けてきた「伝説の白夜叉」殿に、小娘の飛び出しなんぞ見切るのは朝飯前ってモンだ。
そもそも旦那なら、テメーと俺がぐしゃぐしゃに潰れる覚悟で、スクーターをパトカーにぶつけてでも、一介の通行人を守るはずだ。
しかし、旦那は、衝突回避を失敗した。
見事なぐらい。
衝突時、徐行だったにもかかわらず。
ありえねェ。
あの瞬間、名字名前は、あたかも別世界から「出現」したように見えた。
生まれて初めて、俺は動きを全く見切れなかった。
断じて、あの女は道路を横切っちゃいねェ。
天人だ、でなきゃ、幽霊でィ。
そうじゃねーと説明がつかねェんでさァ。