ちょんまげ医師の診断によると、私は事故のショックで記憶が喪失したか、記憶が混乱しているらしい。
坂田さんと志村くんは心底申し訳なさそうにしている。
私は記憶喪失じゃない。
多分これは夢だ。
事故のショックでおかしな夢をみているんだ。

だって、ちょんまげの町人と和服の女性がわらわら出てくるはずはないし、山崎さんとタバコのお兄さんが警察官だって？きっとコスプレの一環だ。
お店が消えるわけない、コインパーキングだって？ふざけてる。
夢から覚めたらすべては元に戻る。きっとそうだ。


医師のすすめで、今晩は病院に泊まることになった。
坂田さんと志村くんが窓口で入院の手続きをしている間、玄関ロビーの公衆電話からお店と家とお母さんのケータイに電話した、何回かけてもつながらない。

心が折れそうだ。

不意に後ろから、ぽん、と肩を叩かれた。
山崎さんだった。

「名字さん、あせってもしょうがないから、少し落ち着こうよ。」

いつの間にか、私は受話器を持ったまま立ちすくしてたのだった。

山崎さんはジュースを買ってくれた。
みんな優しいし、気を使ってくれる。
でも、作り笑いをする余力はない。
のどはカラカラだった。