きみと謳う日常を
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「紅葉きれー!」
「ほんとにね!」
目の前の森を染め上げる紅を見て友人が感嘆の声をあげた。私もそれに同意せざるを得ないほどの美しさだった。
11月中旬、青葉城西高校では毎年2年生の修学旅行がある。3年生は受験生になるため、2年生のうちに行ってしまおうということらしい。その行先は京都と奈良だ。
3泊4日の日程で、1日目は移動、2日目は奈良で大仏を見たり鹿を眺め、その後京都に移動し清水寺や金閣寺をまわった。そして各地で何回撮るんだと言いたくなるほど集合写真を撮ったのだった。
そして今日は3日目、自由行動の日だ。自分の班で決めた見学コースを好きにまわれる日。班のメンバーだけで行動できるので、みんな昨日までより少しうきうきしているように見える。
とは言っても、全員が好きな班になれるわけではなく、私なんかは余りものを寄せ集めた班になってしまった。班員は6人で、私と友人、それにクラスでは控えめな男子3人組、そして京谷くん。穏やかなメンバーで喧嘩することもなく、結果的にはいい班だった。なにより、京谷くんがいるのが私はうれしい。友人は怖がっていたけれど。
今日は歴史の博物館やお寺をいくつか巡って、途中でおいしいご飯を食べ(壊滅的に会話がなかったけれど)、午後は嵐山を散策していた。有名な渡月橋やお寺、庭園があってとても風流なのだ。秋なので、紅葉もきれい。来れてよかったなー、なんて一人で思っている。
「京谷くん、ここきれいだね」
「・・・そうだな」
竹林の小径を歩きながら、みんなより少し後ろを歩く京谷くんの隣に並ぶ。
京谷くんは10月末までバレーの大会があった。青城バレー部は強豪で、全国大会出場を目指していたのだけど、準決勝で敗退したらしい。毎日練習する部活に所属したことのない私には、その世界がわからない。想像はできるけれど、わかるなんて軽々しく言いたくない。だから大会の翌日、京谷くんに「負けた」と言われたとき、「そっか」としか答えられなかった。たぶん、京谷くんも何か言葉を期待していたわけではないと思う。
私には何もできない。だけど、京谷くんに元気を出してほしくて、でもやっぱり何もできないから、私はこの3日間、京谷くんといつもの他愛のない会話をするにとどまっていた。
「久原」
京谷くんがふいに立ち止まった。その声に合わせて私も歩みを止める。班のみんなが遠ざかるのを見送って、私は京谷くんの方を向いた。
「なに・・・?」
京谷くんのまっすぐな視線が私の双眸を射抜く。いつもと同じように真剣な、でもいつもより切実な意思が感じられる。
「好きだ」
へ、と間抜けな声が出てしまった。だって、そんなこと、言われるなんて思いもよらなかったのだ。
でも次の瞬間、心の奥から温かいものがぽかぽかと沸き上がっててきた。うれしくて、どきどきする。
「・・・それだけだ。行くぞ」
あれ。京谷くんは再びみんなの方へ向かって歩き出した。言うだけ言って、そのまま。
待って。わたしも好きなの。少しずつ積もった好きが、すっかり大きくなってるの。言いっぱなしで逃げないで。私の言葉も聞いて。
「京谷くん!」
歩き出した京谷くんのブレザーの裾を引っ張る。思ったより大きな声が出てしまったからか、京谷くんが少しびくっとして振り返った。
私は深呼吸をして、小さく叫んだ。
「私も京谷くんが好きだよ!それだけ!じゃ、行こう」
お返しと言わんばかりに私も歩き出した。が、今度は京谷くんが私の手首を掴む。
「、付き合う」
京谷くんの頬にほんのり朱がさしている。か、かわいい。
一瞬なんて言われたのかわからなかったけど、京谷くんなりに「付き合おう」って言ったんだな、って噛み締めた唇を見てわかった。
「よろしくお願いします」
自然と笑みがこぼれて、私は手首を掴む京谷くんの手をそっと包み込んだ。
2019.5.6
「ほんとにね!」
目の前の森を染め上げる紅を見て友人が感嘆の声をあげた。私もそれに同意せざるを得ないほどの美しさだった。
11月中旬、青葉城西高校では毎年2年生の修学旅行がある。3年生は受験生になるため、2年生のうちに行ってしまおうということらしい。その行先は京都と奈良だ。
3泊4日の日程で、1日目は移動、2日目は奈良で大仏を見たり鹿を眺め、その後京都に移動し清水寺や金閣寺をまわった。そして各地で何回撮るんだと言いたくなるほど集合写真を撮ったのだった。
そして今日は3日目、自由行動の日だ。自分の班で決めた見学コースを好きにまわれる日。班のメンバーだけで行動できるので、みんな昨日までより少しうきうきしているように見える。
とは言っても、全員が好きな班になれるわけではなく、私なんかは余りものを寄せ集めた班になってしまった。班員は6人で、私と友人、それにクラスでは控えめな男子3人組、そして京谷くん。穏やかなメンバーで喧嘩することもなく、結果的にはいい班だった。なにより、京谷くんがいるのが私はうれしい。友人は怖がっていたけれど。
今日は歴史の博物館やお寺をいくつか巡って、途中でおいしいご飯を食べ(壊滅的に会話がなかったけれど)、午後は嵐山を散策していた。有名な渡月橋やお寺、庭園があってとても風流なのだ。秋なので、紅葉もきれい。来れてよかったなー、なんて一人で思っている。
「京谷くん、ここきれいだね」
「・・・そうだな」
竹林の小径を歩きながら、みんなより少し後ろを歩く京谷くんの隣に並ぶ。
京谷くんは10月末までバレーの大会があった。青城バレー部は強豪で、全国大会出場を目指していたのだけど、準決勝で敗退したらしい。毎日練習する部活に所属したことのない私には、その世界がわからない。想像はできるけれど、わかるなんて軽々しく言いたくない。だから大会の翌日、京谷くんに「負けた」と言われたとき、「そっか」としか答えられなかった。たぶん、京谷くんも何か言葉を期待していたわけではないと思う。
私には何もできない。だけど、京谷くんに元気を出してほしくて、でもやっぱり何もできないから、私はこの3日間、京谷くんといつもの他愛のない会話をするにとどまっていた。
「久原」
京谷くんがふいに立ち止まった。その声に合わせて私も歩みを止める。班のみんなが遠ざかるのを見送って、私は京谷くんの方を向いた。
「なに・・・?」
京谷くんのまっすぐな視線が私の双眸を射抜く。いつもと同じように真剣な、でもいつもより切実な意思が感じられる。
「好きだ」
へ、と間抜けな声が出てしまった。だって、そんなこと、言われるなんて思いもよらなかったのだ。
でも次の瞬間、心の奥から温かいものがぽかぽかと沸き上がっててきた。うれしくて、どきどきする。
「・・・それだけだ。行くぞ」
あれ。京谷くんは再びみんなの方へ向かって歩き出した。言うだけ言って、そのまま。
待って。わたしも好きなの。少しずつ積もった好きが、すっかり大きくなってるの。言いっぱなしで逃げないで。私の言葉も聞いて。
「京谷くん!」
歩き出した京谷くんのブレザーの裾を引っ張る。思ったより大きな声が出てしまったからか、京谷くんが少しびくっとして振り返った。
私は深呼吸をして、小さく叫んだ。
「私も京谷くんが好きだよ!それだけ!じゃ、行こう」
お返しと言わんばかりに私も歩き出した。が、今度は京谷くんが私の手首を掴む。
「、付き合う」
京谷くんの頬にほんのり朱がさしている。か、かわいい。
一瞬なんて言われたのかわからなかったけど、京谷くんなりに「付き合おう」って言ったんだな、って噛み締めた唇を見てわかった。
「よろしくお願いします」
自然と笑みがこぼれて、私は手首を掴む京谷くんの手をそっと包み込んだ。
2019.5.6