ふたりだけの落下速度
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季節は巡り、俺たちは中学を卒業した。あのバレンタインから1年と少し。俺たちの関係に変化はない。生活リズムが違い、受験生だったのもあって、一緒にいる時間があまりなかった。それに加え、俺は部活でうまくいかず、あずさに八つ当たりしたこともあって、部活を引退してからはあいつも必要以上に話しかけてこなかった。それからは挨拶くらいしかせず、写真は親に無理やりツーショットで撮られたものの、卒業式後に一緒に帰ろうとすら言えなかった。クソッ。
卒業式を終えて家へ帰ると、俺はさっさと練習着に着替えてルーティンのランニングに向かおうとした。
ピンポーン。
玄関で靴を履いているとインターホンが鳴った。ドアを開けるとさっぱりとした表情で口元にうっすら笑みを浮かべた私服のあずさがいた。その手には大きめの白い箱が入ったビニール袋を下げている。
「あ、ランニングに行くのかぁ。卒業のお祝いしようと思ってタルト持ってきたんだけど、お母さんいる?」
「・・・いる。」
「じゃあ家で待たせてもらおうかな。1時間くらいで帰って来るよね?」
「おー。」
あずさはいつも通りだ。何でだ?
俺は謝らなきゃいけないことばかりなのに、そっけない返事しかできない。
「いってらっしゃい。」
「おう。」
自分への怒りを地面にぶつけるように、俺は走り出した。
◇
ランニングを終えて家へ戻ると、あずさが「お帰り~。」とリビングからひょっこり顔を出して迎えてくれた。こいつマジでなんなんだ?怒ってねぇのか?
「飛雄!着替えたらすぐ降りてきなよー。あずさちゃんが持ってきてくれたタルトあるから。」
「おー。」
母親に返事をして階段を上った。
着替えてダイニングに行くと、そこにいたのはあずさだけで、母親はいなかった。テーブルには切り分けられたベリータルトがある。どっちが切ったんだろう。
「お母さん、スーパー行ってくるって。」
「そうか。」
「じゃあ紅茶淹れまーす。座って座って。」
「・・・あざす。」
「何ソレ。」
あずさがふっと笑う。そんな表情は久しぶりに見た気がする。この1年、あまりこいつの笑顔を見なかった。俺のせいで。
「はいっ。じゃあ食べよう。卒業おめでとー!」
「・・・・。」
「眉間に超しわ寄ってるけどどうした?ベリー系きらいだっけ?」
心配そうなあずさの表情が目に入った。眉間にこめる力がますます強くなる。でも、このままではいけない。俺はあずさの目を見た。
「・・・悪い。去年、部活のことで八つ当たりした。本気で悪かったと、思ってる。」
やっと謝れた。自分から話しかけに行くことができなくて、今日も結局あずさのほうから来てくれた。それに乗じて言うなんて、かっこ悪い。
ぐるぐるとそんなことばかり考える俺に、あずさは困ったような、でもふんわりとした笑顔で言った。
「じゃあ許す代わりに、ぎゅってして。」
「は?」
「・・・抱き締めてって言ってるの!私たち、一応付き合ってるんでしょ・・・」
語尾が小さくなった。ほっぺが赤くなる。クソッ、かわいい。
でも女子を抱き締めたことなんかねぇから照れてしまって、なかなか行動に移せない。
「おら。」
俺は椅子から立ち上がると、いつでもどーぞと言わんばかりに手を広げ、受け止める体勢を取った。あずさも立ち上がった。が、俺の思惑通りにはならなかった。
「だめ。飛雄が、抱き締めるの。じゃなきゃ許さない。」
「っ、んぐぅ・・・」
顔に熱が集まる。くそ、もうどうにでもなれ。
俺はあずさの手を引いて、自分に引き寄せた。ふわっといいにおいがした。
「ほんとに、わるかった。」
「えへ。そんなにね、怒ってないよ。お前に何がわかるって言われたのは傷ついたけど。謝ってくれれば許そうと思ってた。」
「ふつう、嫌いになるんじゃねーのか。」
「さぁね。私はそれでも好き。惚れた弱みなんじゃない?」
「頭おかしいだろ。」
「ほんっと失礼。飛雄に言われたくないし。」
俺の胸に顔をうずめて笑うあずさ。俺の腕にすっぽりと納まってるのが、なんかこう、かわいくて、俺はあずさの頭を優しく撫でた。あずさはふふ、と笑いながらそれに答えるように、俺を抱きしめる腕に力をこめた。
「仲直りね、飛雄。」
「おー。」
「じゃあ、タルト食べよっか。」
あずさは俺から離れて再び椅子に座った。あずさが「早く早く」と手招きするのを見て、俺はこいつのことしか好きになれないかもしれない、と思った。
本人には絶対言えねーけどな。
卒業式を終えて家へ帰ると、俺はさっさと練習着に着替えてルーティンのランニングに向かおうとした。
ピンポーン。
玄関で靴を履いているとインターホンが鳴った。ドアを開けるとさっぱりとした表情で口元にうっすら笑みを浮かべた私服のあずさがいた。その手には大きめの白い箱が入ったビニール袋を下げている。
「あ、ランニングに行くのかぁ。卒業のお祝いしようと思ってタルト持ってきたんだけど、お母さんいる?」
「・・・いる。」
「じゃあ家で待たせてもらおうかな。1時間くらいで帰って来るよね?」
「おー。」
あずさはいつも通りだ。何でだ?
俺は謝らなきゃいけないことばかりなのに、そっけない返事しかできない。
「いってらっしゃい。」
「おう。」
自分への怒りを地面にぶつけるように、俺は走り出した。
◇
ランニングを終えて家へ戻ると、あずさが「お帰り~。」とリビングからひょっこり顔を出して迎えてくれた。こいつマジでなんなんだ?怒ってねぇのか?
「飛雄!着替えたらすぐ降りてきなよー。あずさちゃんが持ってきてくれたタルトあるから。」
「おー。」
母親に返事をして階段を上った。
着替えてダイニングに行くと、そこにいたのはあずさだけで、母親はいなかった。テーブルには切り分けられたベリータルトがある。どっちが切ったんだろう。
「お母さん、スーパー行ってくるって。」
「そうか。」
「じゃあ紅茶淹れまーす。座って座って。」
「・・・あざす。」
「何ソレ。」
あずさがふっと笑う。そんな表情は久しぶりに見た気がする。この1年、あまりこいつの笑顔を見なかった。俺のせいで。
「はいっ。じゃあ食べよう。卒業おめでとー!」
「・・・・。」
「眉間に超しわ寄ってるけどどうした?ベリー系きらいだっけ?」
心配そうなあずさの表情が目に入った。眉間にこめる力がますます強くなる。でも、このままではいけない。俺はあずさの目を見た。
「・・・悪い。去年、部活のことで八つ当たりした。本気で悪かったと、思ってる。」
やっと謝れた。自分から話しかけに行くことができなくて、今日も結局あずさのほうから来てくれた。それに乗じて言うなんて、かっこ悪い。
ぐるぐるとそんなことばかり考える俺に、あずさは困ったような、でもふんわりとした笑顔で言った。
「じゃあ許す代わりに、ぎゅってして。」
「は?」
「・・・抱き締めてって言ってるの!私たち、一応付き合ってるんでしょ・・・」
語尾が小さくなった。ほっぺが赤くなる。クソッ、かわいい。
でも女子を抱き締めたことなんかねぇから照れてしまって、なかなか行動に移せない。
「おら。」
俺は椅子から立ち上がると、いつでもどーぞと言わんばかりに手を広げ、受け止める体勢を取った。あずさも立ち上がった。が、俺の思惑通りにはならなかった。
「だめ。飛雄が、抱き締めるの。じゃなきゃ許さない。」
「っ、んぐぅ・・・」
顔に熱が集まる。くそ、もうどうにでもなれ。
俺はあずさの手を引いて、自分に引き寄せた。ふわっといいにおいがした。
「ほんとに、わるかった。」
「えへ。そんなにね、怒ってないよ。お前に何がわかるって言われたのは傷ついたけど。謝ってくれれば許そうと思ってた。」
「ふつう、嫌いになるんじゃねーのか。」
「さぁね。私はそれでも好き。惚れた弱みなんじゃない?」
「頭おかしいだろ。」
「ほんっと失礼。飛雄に言われたくないし。」
俺の胸に顔をうずめて笑うあずさ。俺の腕にすっぽりと納まってるのが、なんかこう、かわいくて、俺はあずさの頭を優しく撫でた。あずさはふふ、と笑いながらそれに答えるように、俺を抱きしめる腕に力をこめた。
「仲直りね、飛雄。」
「おー。」
「じゃあ、タルト食べよっか。」
あずさは俺から離れて再び椅子に座った。あずさが「早く早く」と手招きするのを見て、俺はこいつのことしか好きになれないかもしれない、と思った。
本人には絶対言えねーけどな。