ふたりだけの落下速度
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飛雄とは小学校から一緒だ。小学1年生のとき同じクラスになったのが出会いだった。家も比較的近いし、私たちはすぐに仲良くなった。なんとなく飛雄といるのが心地よかったのだ。飛雄が小2でバレーを始めてからは、放課後によくバレーボールで遊んだものだ。小学校高学年になるとお互いに同性の友だちと遊ぶことが増えて、公園で2人で遊ぶことはあまりなくなったが、週末や長期休みは2人で宿題をやることもあったし、誕生日のお祝いなんかもお互いの家でほぼ毎年やっていた。飛雄は男女というものには興味がないようで、中学2年生になった今でも相変わらず仲良くしてくれる。お互い好きなものはバラバラだけど、それが逆に適切な距離感でいられた理由なのかもしれない。
中学生になって背が伸びたころから、飛雄はそこそこモテるようになった。顔だけはいいから。飛雄が気になる、という女子の内緒話を聞くたびにもやっとした気持ちになった。しばらくその理由がわからなかったが、ある時クラスの女子たちが話しているのを聞いてはっきり自覚したのだ。
「影山くんて、イケメンだしバレーうまいし背高いし、かっこいいよね。」
「ね!スペック盛り過ぎ。」
「休み時間もきりっとした顔しててさ~。他の男子とバカ騒ぎしないし!」
「落ち着いてるよね!」
違う。飛雄が日常生活できりっとしてるときは特に何も考えてない。きりっとしてるのは顔だけだ。他の男子とバカ騒ぎしないのも、相手の発言に対するレスポンス機能がバグってるだけだ。ていうかバグってるから飛雄に友だちあんまいないし。
あんたたちは、飛雄のこと全然わかってない。でも私は知ってる。バレーばっかで勉強できないからいつも赤点ギリギリなところ。自販機の前で毎日ヨーグルトか牛乳かで悩むところ。空気も行間も読めなくて意外と言葉がナイフなところ。そして、悪いところと同じだけ良いところも知っている。これと思った道をまっすぐ進むところ。努力を惜しまないところ。バレーをしているときのわくわく顔がかわいいところ。バレーが大好きなこと。
そう思った時に自覚したのだ。
不器用なところもバレーばかなところも愛おしいと思ってしまうこの気持ち。
これが、恋だと。
◇
そう気づいて初めてのバレンタイン。来年は高校受験だからバレンタインあげる余裕ないかな、と思い今年のチョコは少し気合いを入れて手作りした。マフラーを首に巻いて家を出る。学校で渡すのは照れ臭くて、毎年わざわざ飛雄の家に出向いているのだ。
部活から帰った頃合いを見計らって飛雄の家を訪ねた。呼び鈴を鳴らすとインターホンから飛雄のお母さんの声がした。それに答えると、すぐに玄関が開いて飛雄が現れた。
「とーびーお。チョコあげる。」
「おー。」
飛雄にチョコマフィンの入った紙袋を渡す。感謝してほしくてあげてるわけじゃないけど、飛雄は毎回「おー」しか言わない。でもそんなところも好きなんだよなぁ。ねぇ飛雄、私は誰よりもあなたが好きなんだよ。どうせ気づいてないんでしょ。そう思ったら、口が勝手に動いていた。
「チョコ、あげてる意味わかってる?」
「バレンタインだからだろ。」
「あげてる男子は飛雄だけなんですけど。」
「・・・・?」
バレー以外のことは本当にわかってない。これくらいわかるでしょ。どんだけあほなの。
「ずっと好きだったよ、飛雄。そんで、これからもしばらくは好きだと思う。」
「・・・・・・へ。」
「そんだけ。じゃーね。おやすみ。」
言いたいことだけ言うと、私はさっさと身を翻した。冷静に考えたら、これは明日から気まずいのでは。しかしもう後には引けない。それに付き合うとかは抜きにして、好きってことは伝えてもいいと思う。好きな食べ物はカレーです、って普通に言うもんね。だから後悔はしない。
「おい、待て。送る。」
「へ。」
飛雄は一度家へ戻りコートを羽織って再び玄関から出てくると、「おら、行くぞ。」と私の前を歩き出した。
お互い気まずい気持ちで歩きながら、普段何を話していたかわからなくなってしまって、つい自分から繊細な話題を振ってしまった。
「・・・・。」
「・・・・。」
「飛雄、あのさ、気にしなくていいからね・・・?」
「何をだよ。」
「す、好きって言ったこと。」
「はぁ?」
飛雄が立ち止まり、私の方にぐるりと顔を向けてにらんでくる。
「ふざけんな。気にするに決まってんだろ。」
「デスヨネ。」
「俺だって、お前が、好きなんだから。」
「えっ。」
街頭に照らされた飛雄の頬はほんのりと赤くなっていた。か、かわいい。
「付き合うとかよくわかんねぇけど、今日はとりあえずこれでいいか・・・?」
私と決して目を合わせない飛雄はそう言うと私の指に自分の指を絡めてきた。これはいわゆる恋人つなぎというやつでは・・・。
いいよ、という意味をこめて飛雄の手をぎゅっと握り返す。
思いのほか攻めてくる飛雄を、また一段深く好きになった。
中学生になって背が伸びたころから、飛雄はそこそこモテるようになった。顔だけはいいから。飛雄が気になる、という女子の内緒話を聞くたびにもやっとした気持ちになった。しばらくその理由がわからなかったが、ある時クラスの女子たちが話しているのを聞いてはっきり自覚したのだ。
「影山くんて、イケメンだしバレーうまいし背高いし、かっこいいよね。」
「ね!スペック盛り過ぎ。」
「休み時間もきりっとした顔しててさ~。他の男子とバカ騒ぎしないし!」
「落ち着いてるよね!」
違う。飛雄が日常生活できりっとしてるときは特に何も考えてない。きりっとしてるのは顔だけだ。他の男子とバカ騒ぎしないのも、相手の発言に対するレスポンス機能がバグってるだけだ。ていうかバグってるから飛雄に友だちあんまいないし。
あんたたちは、飛雄のこと全然わかってない。でも私は知ってる。バレーばっかで勉強できないからいつも赤点ギリギリなところ。自販機の前で毎日ヨーグルトか牛乳かで悩むところ。空気も行間も読めなくて意外と言葉がナイフなところ。そして、悪いところと同じだけ良いところも知っている。これと思った道をまっすぐ進むところ。努力を惜しまないところ。バレーをしているときのわくわく顔がかわいいところ。バレーが大好きなこと。
そう思った時に自覚したのだ。
不器用なところもバレーばかなところも愛おしいと思ってしまうこの気持ち。
これが、恋だと。
◇
そう気づいて初めてのバレンタイン。来年は高校受験だからバレンタインあげる余裕ないかな、と思い今年のチョコは少し気合いを入れて手作りした。マフラーを首に巻いて家を出る。学校で渡すのは照れ臭くて、毎年わざわざ飛雄の家に出向いているのだ。
部活から帰った頃合いを見計らって飛雄の家を訪ねた。呼び鈴を鳴らすとインターホンから飛雄のお母さんの声がした。それに答えると、すぐに玄関が開いて飛雄が現れた。
「とーびーお。チョコあげる。」
「おー。」
飛雄にチョコマフィンの入った紙袋を渡す。感謝してほしくてあげてるわけじゃないけど、飛雄は毎回「おー」しか言わない。でもそんなところも好きなんだよなぁ。ねぇ飛雄、私は誰よりもあなたが好きなんだよ。どうせ気づいてないんでしょ。そう思ったら、口が勝手に動いていた。
「チョコ、あげてる意味わかってる?」
「バレンタインだからだろ。」
「あげてる男子は飛雄だけなんですけど。」
「・・・・?」
バレー以外のことは本当にわかってない。これくらいわかるでしょ。どんだけあほなの。
「ずっと好きだったよ、飛雄。そんで、これからもしばらくは好きだと思う。」
「・・・・・・へ。」
「そんだけ。じゃーね。おやすみ。」
言いたいことだけ言うと、私はさっさと身を翻した。冷静に考えたら、これは明日から気まずいのでは。しかしもう後には引けない。それに付き合うとかは抜きにして、好きってことは伝えてもいいと思う。好きな食べ物はカレーです、って普通に言うもんね。だから後悔はしない。
「おい、待て。送る。」
「へ。」
飛雄は一度家へ戻りコートを羽織って再び玄関から出てくると、「おら、行くぞ。」と私の前を歩き出した。
お互い気まずい気持ちで歩きながら、普段何を話していたかわからなくなってしまって、つい自分から繊細な話題を振ってしまった。
「・・・・。」
「・・・・。」
「飛雄、あのさ、気にしなくていいからね・・・?」
「何をだよ。」
「す、好きって言ったこと。」
「はぁ?」
飛雄が立ち止まり、私の方にぐるりと顔を向けてにらんでくる。
「ふざけんな。気にするに決まってんだろ。」
「デスヨネ。」
「俺だって、お前が、好きなんだから。」
「えっ。」
街頭に照らされた飛雄の頬はほんのりと赤くなっていた。か、かわいい。
「付き合うとかよくわかんねぇけど、今日はとりあえずこれでいいか・・・?」
私と決して目を合わせない飛雄はそう言うと私の指に自分の指を絡めてきた。これはいわゆる恋人つなぎというやつでは・・・。
いいよ、という意味をこめて飛雄の手をぎゅっと握り返す。
思いのほか攻めてくる飛雄を、また一段深く好きになった。
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