ヒーロー
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あずさは覚えてないだろうけど、俺があずさを知ったのは高校に入る前だった。
音駒高校の入試。第一志望だったのに、俺は本当にうかつだったとしか思えない。
試験が始まる前、シャーペンと消しゴムを取り出そうと筆箱を開けて目を見張った。
消しゴムが、ない。
昨日、部屋のテーブルの上に出したままだったんだ。最後に勉強したのはそこだから、絶対そうだ。どうしよう、あと15分で試験が始まるのに・・・!
「あの、どうしました?」
そんなはずはないのに、鞄の中に落としてるんじゃないかと鞄を漁っていたら、隣の席の女の子に声をかけられた。大きな瞳で俺の鞄を見ている。そんなに長くはない黒髪を1つに結んだ、真面目っていう言葉が似合う感じの女の子。俺がガタガタとうるさいから不思議に思ったみたいだ。
「消しゴム、忘れてきちゃって・・・」
そう言うと女の子は自分の筆箱から消しゴムを1つ出して渡してくれた。
「いーの!?ありがとう!でもないと困るだろ?」
「大丈夫です。私、消しゴムは3つ持ってるから」
俺が遠慮すると、女の子はほら、と持ってる消しゴムを見せてくれた。
だから俺はありがたーく、その消しゴムを借りたのだった。
入学式の日、同じクラスにその子がいた。
名前を知ったその日から、もう俺はあずさを意識せずにはいられなかった。
◇
「あー、あの時の」
夏休みの宿題を終えたあと、俺は脚の間にあずさを座らせ、腕の中に閉じ込めていた。やだ、恥ずかしい、とあずさは嫌がったけど、俺が抱えて強制的に座らせた。俺の思い出話で、あずさはなんとなくあの時のやりとりを思い出したみたいだ。背が高い子だなーとは思ってたんだけどね、と柔らかく笑うあずさの頭を撫でる。
「俺、結構目立つのになんで忘れるんだよー」
「だって、試験の直前で頭真っ白だもん。第一志望だったし、緊張してたからさ~」
俺がぷぅっと膨れるとあずさも口を尖らせる。
でも、そんなに緊張してたのに俺に消しゴムを貸してくれたんだ。やっぱり、あずさは優しい。テンション低めだしあんまり人と関わろうとしないけど、困ってる子がいたらなんだかんだで「どうしたの?」って聞いてあげる。そういう女の子だ。
「あーもう、あずさ、ちょう好き。大好き」
たまらずそう言ってぎゅーっとあずさを抱きしめると、腕の中から「うー」と声がした。照れてるっぽい。
この子を大切に、大切にしたいと思った。
2019.5.8
音駒高校の入試。第一志望だったのに、俺は本当にうかつだったとしか思えない。
試験が始まる前、シャーペンと消しゴムを取り出そうと筆箱を開けて目を見張った。
消しゴムが、ない。
昨日、部屋のテーブルの上に出したままだったんだ。最後に勉強したのはそこだから、絶対そうだ。どうしよう、あと15分で試験が始まるのに・・・!
「あの、どうしました?」
そんなはずはないのに、鞄の中に落としてるんじゃないかと鞄を漁っていたら、隣の席の女の子に声をかけられた。大きな瞳で俺の鞄を見ている。そんなに長くはない黒髪を1つに結んだ、真面目っていう言葉が似合う感じの女の子。俺がガタガタとうるさいから不思議に思ったみたいだ。
「消しゴム、忘れてきちゃって・・・」
そう言うと女の子は自分の筆箱から消しゴムを1つ出して渡してくれた。
「いーの!?ありがとう!でもないと困るだろ?」
「大丈夫です。私、消しゴムは3つ持ってるから」
俺が遠慮すると、女の子はほら、と持ってる消しゴムを見せてくれた。
だから俺はありがたーく、その消しゴムを借りたのだった。
入学式の日、同じクラスにその子がいた。
名前を知ったその日から、もう俺はあずさを意識せずにはいられなかった。
◇
「あー、あの時の」
夏休みの宿題を終えたあと、俺は脚の間にあずさを座らせ、腕の中に閉じ込めていた。やだ、恥ずかしい、とあずさは嫌がったけど、俺が抱えて強制的に座らせた。俺の思い出話で、あずさはなんとなくあの時のやりとりを思い出したみたいだ。背が高い子だなーとは思ってたんだけどね、と柔らかく笑うあずさの頭を撫でる。
「俺、結構目立つのになんで忘れるんだよー」
「だって、試験の直前で頭真っ白だもん。第一志望だったし、緊張してたからさ~」
俺がぷぅっと膨れるとあずさも口を尖らせる。
でも、そんなに緊張してたのに俺に消しゴムを貸してくれたんだ。やっぱり、あずさは優しい。テンション低めだしあんまり人と関わろうとしないけど、困ってる子がいたらなんだかんだで「どうしたの?」って聞いてあげる。そういう女の子だ。
「あーもう、あずさ、ちょう好き。大好き」
たまらずそう言ってぎゅーっとあずさを抱きしめると、腕の中から「うー」と声がした。照れてるっぽい。
この子を大切に、大切にしたいと思った。
2019.5.8
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