まあるく、やさしく
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「あれっ、月島くん」
夏休みももう終わろうとする8月下旬の某日。あずさは駅の改札を出たところでスマートフォンとにらめっこする月島を見つけた。Tシャツにジーパンというラフな格好だった。背が高いから、何を着ても似合うのだ。あずさは久しぶりに服や雑貨を買おうと、地元から一番近い都会へと繰り出してきたのだ。ひとりで来たとはいえ、今日はお気に入りである紺のストライプのワンピース。ややかわいめに仕上げておいてよかった、とあずさは思った。
「久原さん...どうしたの」
「買い物!あんまり街に繰り出してないから今日は遊ぼうと思って。月島くんは?」
「僕はテーピングとか部活のものを買いにきただけ」
お互いの疑問を解消すると、沈黙が訪れた。あずさが月島と会うのが先日の夏祭り以来であること、そして月島を好きであることがあずさを控え目にしていた。
人混みが苦手なのに一緒に遊びに行ってくれたこと、花火にも付き合ってくれたこと、他にも冗談を言い合ったりと、いろいろなことがこの数ヶ月あって、あずさはすっかり月島に惹かれていた。
見た感じ、どうやら月島はひとりのようである。もしかしたら誰かと待ち合わせかもしれないが、あずさは月島と遊びたくて、勇気を出して聞いた。
「「ひとり?」」
自分の声に被さって、あずさは月島の声を聞いた。月島がこんな質問をするなんて珍しい。これは、期待してもいいのではないか。そう思いながらあずさは答えた。
「ひとりだよ」
「僕も」
「では一緒に?」
「行ってあげる」
月島がにやっと笑った。その不敵な笑みにあずさの心臓が鳴った。それを悟られないよう必要以上に大きな声で久原は言った。
「まずは月島くんの用事を済ませよう!」
「こっちだからついてきて」
ふたりは仲良く並んで歩き出した。
◇
月島のスポーツ用品店での買い物を終えるとちょうど昼時だったのでふたりは昼食をとった。そのあとひと悶着あった末、ふたりは水族館にやって来たのだった。
本来あずさは服を買う予定だったが、月島がいるなら水族館に行きたいと言い出したのだ。
「久原さんは何を買うわけ」
「服買いに来たけど、やっぱりいいや。まだ服あるし」
「なんで」
「代わりに水族館行こうよ。月島くん生き物好きだよね?」
「それでいいの」
あずさは本当にそれでよかった。普段は制服だから、私服がどうしても必要というわけではないからだ。そこそこおしゃれは好きだけれどファッション誌を買うほどではないあずさにとって、服を新調することは急務ではなかった。
それをざっくりと月島に説明すると、月島は釈然としない顔をして「いいけど」と折れたので、ふたりはこうして水族館にいるのである。
主にあずさの「ペンギン見たい!」「イルカのショー!」と言う要求に月島が振り回される形となった。月島も生き物好きではあるので、問題ないようだが。
そんな中、クラゲや深海魚などがいる暗いエリアは、ふたりとも特に興味があった。
クラゲがゆらゆらと上下するのをふたりはしばらく黙って見ていた。
「クラゲって、不思議だよね」
先に沈黙を破ったのはあずさだった。考えるという概念がなさそうなクラゲのような生き物が、あずさは時々うらやましくなるのだった。
「そうだね」
月島はそれ以上のことを言わなかったが、月島も似たようなことを考えているのではないかとあずさは思っている。月島は世の中を俯瞰しているところがあるからだ。
ふたりはこのエリアをうろうろし、「こういう生き物好き」「うん」などと言い合って、水族館を後にした。
◇
家に帰ると月島はベッドに転がり、今日のことを思い出した。
人と出かけることを好まない月島だったが、今日は楽しかった。偶然久原と会ったことにも小さな喜びを感じ、水族館を出るのもなんとなく名残惜しかった。そんなこと思う自分に、月島はかなり驚いているのだった。
『時々、烏みたいに生きたくなる』
いつだったか久原はそう言っていた。今日のクラゲについての感想も、おそらく似た意味だろう。久原も月島同様、世界を遠くから眺めている時があるのだ。互いの哲学について深く話したことはないが、久原のそういう部分も月島は好きだった。
2019.6.13
夏休みももう終わろうとする8月下旬の某日。あずさは駅の改札を出たところでスマートフォンとにらめっこする月島を見つけた。Tシャツにジーパンというラフな格好だった。背が高いから、何を着ても似合うのだ。あずさは久しぶりに服や雑貨を買おうと、地元から一番近い都会へと繰り出してきたのだ。ひとりで来たとはいえ、今日はお気に入りである紺のストライプのワンピース。ややかわいめに仕上げておいてよかった、とあずさは思った。
「久原さん...どうしたの」
「買い物!あんまり街に繰り出してないから今日は遊ぼうと思って。月島くんは?」
「僕はテーピングとか部活のものを買いにきただけ」
お互いの疑問を解消すると、沈黙が訪れた。あずさが月島と会うのが先日の夏祭り以来であること、そして月島を好きであることがあずさを控え目にしていた。
人混みが苦手なのに一緒に遊びに行ってくれたこと、花火にも付き合ってくれたこと、他にも冗談を言い合ったりと、いろいろなことがこの数ヶ月あって、あずさはすっかり月島に惹かれていた。
見た感じ、どうやら月島はひとりのようである。もしかしたら誰かと待ち合わせかもしれないが、あずさは月島と遊びたくて、勇気を出して聞いた。
「「ひとり?」」
自分の声に被さって、あずさは月島の声を聞いた。月島がこんな質問をするなんて珍しい。これは、期待してもいいのではないか。そう思いながらあずさは答えた。
「ひとりだよ」
「僕も」
「では一緒に?」
「行ってあげる」
月島がにやっと笑った。その不敵な笑みにあずさの心臓が鳴った。それを悟られないよう必要以上に大きな声で久原は言った。
「まずは月島くんの用事を済ませよう!」
「こっちだからついてきて」
ふたりは仲良く並んで歩き出した。
◇
月島のスポーツ用品店での買い物を終えるとちょうど昼時だったのでふたりは昼食をとった。そのあとひと悶着あった末、ふたりは水族館にやって来たのだった。
本来あずさは服を買う予定だったが、月島がいるなら水族館に行きたいと言い出したのだ。
「久原さんは何を買うわけ」
「服買いに来たけど、やっぱりいいや。まだ服あるし」
「なんで」
「代わりに水族館行こうよ。月島くん生き物好きだよね?」
「それでいいの」
あずさは本当にそれでよかった。普段は制服だから、私服がどうしても必要というわけではないからだ。そこそこおしゃれは好きだけれどファッション誌を買うほどではないあずさにとって、服を新調することは急務ではなかった。
それをざっくりと月島に説明すると、月島は釈然としない顔をして「いいけど」と折れたので、ふたりはこうして水族館にいるのである。
主にあずさの「ペンギン見たい!」「イルカのショー!」と言う要求に月島が振り回される形となった。月島も生き物好きではあるので、問題ないようだが。
そんな中、クラゲや深海魚などがいる暗いエリアは、ふたりとも特に興味があった。
クラゲがゆらゆらと上下するのをふたりはしばらく黙って見ていた。
「クラゲって、不思議だよね」
先に沈黙を破ったのはあずさだった。考えるという概念がなさそうなクラゲのような生き物が、あずさは時々うらやましくなるのだった。
「そうだね」
月島はそれ以上のことを言わなかったが、月島も似たようなことを考えているのではないかとあずさは思っている。月島は世の中を俯瞰しているところがあるからだ。
ふたりはこのエリアをうろうろし、「こういう生き物好き」「うん」などと言い合って、水族館を後にした。
◇
家に帰ると月島はベッドに転がり、今日のことを思い出した。
人と出かけることを好まない月島だったが、今日は楽しかった。偶然久原と会ったことにも小さな喜びを感じ、水族館を出るのもなんとなく名残惜しかった。そんなこと思う自分に、月島はかなり驚いているのだった。
『時々、烏みたいに生きたくなる』
いつだったか久原はそう言っていた。今日のクラゲについての感想も、おそらく似た意味だろう。久原も月島同様、世界を遠くから眺めている時があるのだ。互いの哲学について深く話したことはないが、久原のそういう部分も月島は好きだった。
2019.6.13