まあるく、やさしく
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7月にもなると、日が暮れた時間でも蒸し暑い。部活を終えて1度はシャワーを浴びた月島だったが、公園で久原を待っている間にまた汗をかいてしまったのだ。
月島は約束の10分前ついてしまい、久原はまだそこにはいなかった。これではまるで自分がこの祭の日を楽しみにしていたみたいだ。月島はそう思いながら足元の小石を蹴っていた。
「ツッキー!お待たせ!」
久原は時々山口のように月島を「ツッキー」と呼んだ。久原はからかっているわけではなさそうなので月島はいつも何も言わない。実際、久原が呼ぶのはその1回きりで、あとは一貫して「月島くん」と呼ぶのだった。
「ドウモ」
月島はいつにも増してそっけなくなった。それは、久原が浴衣を着ていたからである。男兄弟しかおらず、浴衣を着ている女の子を街中でたまに見るくらいの月島には新鮮だった。
「これおばあちゃんが縫ってくれたの!かわいいでしょ」
「へぇ」
かわいいとは口が裂けても言えない月島である。それがたとえ浴衣のことでも。
そんな月島をやはり気にする様子もなく、久原は「行こう!」と祭の会場へ向かって歩き出したので、月島もそれに倣った。
◇
祭りはすごい人だった。ゆっくりと流れる人の群れを見て、月島は来たことを若干後悔した。
「月島くん、何食べたい?あと何したい?」
人混みに合流する前、久原が月島に聞いた。何したいとは、金魚すくいや射的のことだ。
「お好み焼きと焼きそば。あとは何でもいいよ」
「おっけー!私はわたあめとりんご飴とあんず飴も食べる!」
わたあめは、4月から久原が食べたいと言っていたものだ。久原はこの日を意外と楽しみにしていたのかもしれない、と月島は思った。
「何か面白いものあった?」
月島は久原に言われて初めて自分の口角が上がっていることに気が付いた。どうやら知らぬ間に微笑んでいたらしい。
「なんでもない」
照れ隠しのためにそっけなく言おうと思ったのに、浴衣を着た久原がなんだかかわいくて、思ったよりも柔らかい声で月島は答えてしまった。
◇
「休憩しよう!」
1時間ほど通りを歩き、買いたいものを買うと、久原は集合場所だった公園に月島を連れて行った。
「もうお祭りはいいの」
お好み焼きについていた割りばしを割りながら月島が聞くと、久原もお好み焼きを広げながら言った。
「月島くん、人混み苦手でしょ?山口くんに聞いた。それに私も苦手だし」
意外である。だったらなんで誘ったんだ、と月島は思った。月島の表情にその疑問が表れていたようで、久原は続けて言った。
「お祭りの食べ物が食べたかったの!わたあめとかりんご飴とかはその辺で売ってないもん」
月島が非難したわけでもないのに、久原は頬を膨らませた。その顔が食べ物を口いっぱいに詰めたリスのようで、月島は思わず吹き出した。
「子どもっぽいとか思ってるんでしょ!」
「うん」
子どもっぽいとは思っていなかったが、むくれている久原がかわいくて月島は肯定した。
笑っている月島が本気で久原をばかにしているわけではないことを久原もわかっており、久原もむくれるのをやめて笑った。
月島と久原はこのような部分の感覚が不思議と合うのだった。
「食べ終わったら花火やろう!うちに花火セットとバケツあるからこのあと持ってくる」
「いいよ」
久原の楽しい誘いは断らない月島だった。
2019.6.10
月島は約束の10分前ついてしまい、久原はまだそこにはいなかった。これではまるで自分がこの祭の日を楽しみにしていたみたいだ。月島はそう思いながら足元の小石を蹴っていた。
「ツッキー!お待たせ!」
久原は時々山口のように月島を「ツッキー」と呼んだ。久原はからかっているわけではなさそうなので月島はいつも何も言わない。実際、久原が呼ぶのはその1回きりで、あとは一貫して「月島くん」と呼ぶのだった。
「ドウモ」
月島はいつにも増してそっけなくなった。それは、久原が浴衣を着ていたからである。男兄弟しかおらず、浴衣を着ている女の子を街中でたまに見るくらいの月島には新鮮だった。
「これおばあちゃんが縫ってくれたの!かわいいでしょ」
「へぇ」
かわいいとは口が裂けても言えない月島である。それがたとえ浴衣のことでも。
そんな月島をやはり気にする様子もなく、久原は「行こう!」と祭の会場へ向かって歩き出したので、月島もそれに倣った。
◇
祭りはすごい人だった。ゆっくりと流れる人の群れを見て、月島は来たことを若干後悔した。
「月島くん、何食べたい?あと何したい?」
人混みに合流する前、久原が月島に聞いた。何したいとは、金魚すくいや射的のことだ。
「お好み焼きと焼きそば。あとは何でもいいよ」
「おっけー!私はわたあめとりんご飴とあんず飴も食べる!」
わたあめは、4月から久原が食べたいと言っていたものだ。久原はこの日を意外と楽しみにしていたのかもしれない、と月島は思った。
「何か面白いものあった?」
月島は久原に言われて初めて自分の口角が上がっていることに気が付いた。どうやら知らぬ間に微笑んでいたらしい。
「なんでもない」
照れ隠しのためにそっけなく言おうと思ったのに、浴衣を着た久原がなんだかかわいくて、思ったよりも柔らかい声で月島は答えてしまった。
◇
「休憩しよう!」
1時間ほど通りを歩き、買いたいものを買うと、久原は集合場所だった公園に月島を連れて行った。
「もうお祭りはいいの」
お好み焼きについていた割りばしを割りながら月島が聞くと、久原もお好み焼きを広げながら言った。
「月島くん、人混み苦手でしょ?山口くんに聞いた。それに私も苦手だし」
意外である。だったらなんで誘ったんだ、と月島は思った。月島の表情にその疑問が表れていたようで、久原は続けて言った。
「お祭りの食べ物が食べたかったの!わたあめとかりんご飴とかはその辺で売ってないもん」
月島が非難したわけでもないのに、久原は頬を膨らませた。その顔が食べ物を口いっぱいに詰めたリスのようで、月島は思わず吹き出した。
「子どもっぽいとか思ってるんでしょ!」
「うん」
子どもっぽいとは思っていなかったが、むくれている久原がかわいくて月島は肯定した。
笑っている月島が本気で久原をばかにしているわけではないことを久原もわかっており、久原もむくれるのをやめて笑った。
月島と久原はこのような部分の感覚が不思議と合うのだった。
「食べ終わったら花火やろう!うちに花火セットとバケツあるからこのあと持ってくる」
「いいよ」
久原の楽しい誘いは断らない月島だった。
2019.6.10