まあるく、やさしく
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ゴールデンウィーク直前にもなると、新生活に慣れてくる頃である。あずさも合唱部の雰囲気に慣れ、なじめそうなことに安心していたのであった。
一見天真爛漫に見えるあずさが「安心」というのは不思議に見えるかもしれないが、あずさはこれまで穏やかな学校生活を送ることができていたというわけではない。中学でも合唱部に所属していたが、先輩との関係や同期の派閥争いがわりと大変でうんざりしていた。
しかし同じことがまた起こるとは限らないとあずさは考える方であり、それがあずさを再び合唱部へと誘ったのだった。
幸い、今年の部員は雰囲気が良いようで、今のところ楽しく活動できている。備わった楽観主義に加え、そのことがあずさに自信を与え、天真爛漫に振る舞うことを許しているのだ。
そんなうきうきした気持ちをさらに浮上させることがあった。部活が終わり、昇降口から外へ出ると、眼鏡をかけた長身の男子と、彼に駆け寄る人影を認めたのだ。そんな長身はこの学校に多くはないし、それが彼だとしたらその隣にいる男子も当然知っている。小さい頃仲のよかった友だちの中で今もなお仲良くできる人はそう多くない。みんな変わってしまうものだ。だから、あずさは彼らと話ができるのがうれしかった。
「月島くん、山口くん!」
「久原さん!お疲れ様」
あずさに答えたのは山口だった。その隣でヘッドフォンを首に下げた月島が軽く頭を下げた。入学式の日、あずさがこのふたりに声をかけることができたのは山口のもつ柔和な雰囲気のためだろう。そのためつい調子に乗って月島を「ツッキー!」と呼んでしまったのには内心ヒヤッとしたが、月島は無愛想な態度とは裏腹にかなり普通に話してくれるので、あずさはそのことにも安堵しているのだった。
「今帰り?俺たちもなんだけど、よかったら一緒に帰らない?」
「いいの?じゃあ帰る!暗い道ひとりだと怖いんだよね~」
合唱部に途中まで一緒に帰れる人はいるが、山口たちは小学校の学区が同じであるためもっと近くまで一緒に帰れる。そう考えてあずさは彼らと共に帰ることにした。
山口が誘いの言葉を口にしたとき、月島の目に動揺の色がひらめいたのがあずさには見えた。
◇
「俺、ちょっと用事あるからここで抜けるね」
授業がどうとかテストがああだとか他愛のない話をしながら3人で歩いていたら、山口が曲がり角を指差して言った。
「そっか。お疲れ!」
「お疲れ」
あずさは残念そうに、でも明るく、月島は淡白にそれぞれ別れの言葉を山口に告げた。
「別々に帰る?」
山口の姿が見えなくなると、月島はあずさに聞いた。
「え、なんで」
「山口と帰りたかったんデショ」
「月島くんとも帰りたいよ?」
あずさには月島の思考回路が理解できなかった。あずさはそもそも嫌いになるほど月島のことを知らない。むしろ小学校の頃から周りのことなど気にも止めず飄々と我が道をゆく月島に憧れていたものだ。
あずさがそんな憧れの気持ちを月島に伝えると、月島は「そう」と言ってそっぽを向いてしまった。
「だから一緒に帰ろうよ!もう暗いのにひとりで帰るのもやだ!」
あずさがそう言うと月島は頷いて歩き出した。なんだかよくわからないが、怒ってはいないようだ。月島くんは難しいなぁ、とあずさは思った。そこであずさはふと、山口が自分を誘ったときに月島が微妙な顔をしていたことを思い出した。
「もしかして、さっき微妙な顔してたのって、それ?」
「別に」
「うふ」
食いぎみに返事をする月島をあずさは思わず笑ってしまった。月島が、実はかなりのあまのじゃくなのではないかと思ったからだ。先ほどの発言といい、月島は意外と臆病で繊細で、素直じゃない男のようだ。いわゆるツンデレというやつかな、とあずさは心の中で呟いてみる。
「ちょっと、何笑ってるの」
「なんでもないでーす!」
「......」
頬の弛みを隠せないあずさに、月島が文句をつけたが、それでもニコニコと笑うあずさを見ると、何も言わなくなった。あずさの笑顔を見ると、どうでもよくなってしまうようだ。
ふたりはお互いの部活のことを少し話したりして帰ったのだった。
一見天真爛漫に見えるあずさが「安心」というのは不思議に見えるかもしれないが、あずさはこれまで穏やかな学校生活を送ることができていたというわけではない。中学でも合唱部に所属していたが、先輩との関係や同期の派閥争いがわりと大変でうんざりしていた。
しかし同じことがまた起こるとは限らないとあずさは考える方であり、それがあずさを再び合唱部へと誘ったのだった。
幸い、今年の部員は雰囲気が良いようで、今のところ楽しく活動できている。備わった楽観主義に加え、そのことがあずさに自信を与え、天真爛漫に振る舞うことを許しているのだ。
そんなうきうきした気持ちをさらに浮上させることがあった。部活が終わり、昇降口から外へ出ると、眼鏡をかけた長身の男子と、彼に駆け寄る人影を認めたのだ。そんな長身はこの学校に多くはないし、それが彼だとしたらその隣にいる男子も当然知っている。小さい頃仲のよかった友だちの中で今もなお仲良くできる人はそう多くない。みんな変わってしまうものだ。だから、あずさは彼らと話ができるのがうれしかった。
「月島くん、山口くん!」
「久原さん!お疲れ様」
あずさに答えたのは山口だった。その隣でヘッドフォンを首に下げた月島が軽く頭を下げた。入学式の日、あずさがこのふたりに声をかけることができたのは山口のもつ柔和な雰囲気のためだろう。そのためつい調子に乗って月島を「ツッキー!」と呼んでしまったのには内心ヒヤッとしたが、月島は無愛想な態度とは裏腹にかなり普通に話してくれるので、あずさはそのことにも安堵しているのだった。
「今帰り?俺たちもなんだけど、よかったら一緒に帰らない?」
「いいの?じゃあ帰る!暗い道ひとりだと怖いんだよね~」
合唱部に途中まで一緒に帰れる人はいるが、山口たちは小学校の学区が同じであるためもっと近くまで一緒に帰れる。そう考えてあずさは彼らと共に帰ることにした。
山口が誘いの言葉を口にしたとき、月島の目に動揺の色がひらめいたのがあずさには見えた。
◇
「俺、ちょっと用事あるからここで抜けるね」
授業がどうとかテストがああだとか他愛のない話をしながら3人で歩いていたら、山口が曲がり角を指差して言った。
「そっか。お疲れ!」
「お疲れ」
あずさは残念そうに、でも明るく、月島は淡白にそれぞれ別れの言葉を山口に告げた。
「別々に帰る?」
山口の姿が見えなくなると、月島はあずさに聞いた。
「え、なんで」
「山口と帰りたかったんデショ」
「月島くんとも帰りたいよ?」
あずさには月島の思考回路が理解できなかった。あずさはそもそも嫌いになるほど月島のことを知らない。むしろ小学校の頃から周りのことなど気にも止めず飄々と我が道をゆく月島に憧れていたものだ。
あずさがそんな憧れの気持ちを月島に伝えると、月島は「そう」と言ってそっぽを向いてしまった。
「だから一緒に帰ろうよ!もう暗いのにひとりで帰るのもやだ!」
あずさがそう言うと月島は頷いて歩き出した。なんだかよくわからないが、怒ってはいないようだ。月島くんは難しいなぁ、とあずさは思った。そこであずさはふと、山口が自分を誘ったときに月島が微妙な顔をしていたことを思い出した。
「もしかして、さっき微妙な顔してたのって、それ?」
「別に」
「うふ」
食いぎみに返事をする月島をあずさは思わず笑ってしまった。月島が、実はかなりのあまのじゃくなのではないかと思ったからだ。先ほどの発言といい、月島は意外と臆病で繊細で、素直じゃない男のようだ。いわゆるツンデレというやつかな、とあずさは心の中で呟いてみる。
「ちょっと、何笑ってるの」
「なんでもないでーす!」
「......」
頬の弛みを隠せないあずさに、月島が文句をつけたが、それでもニコニコと笑うあずさを見ると、何も言わなくなった。あずさの笑顔を見ると、どうでもよくなってしまうようだ。
ふたりはお互いの部活のことを少し話したりして帰ったのだった。