まあるく、やさしく
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よく晴れた空を見上げると、苦いものが喉元に引っ掛かっている感じがした。
月島はバレーボール部に入部した。別にすごく好きというわけではなかったが、何かの力が働いて入ってしまったのだ。疲れるのは嫌いだし、汗をかくのも嫌だ。でも、小学校から続けていた。
高校に入学してから初めての土曜日である今日、1年生で3対3に分かれて試合をした。といっても1年生が4人しか入部しなかったので、実際は1年生2人と先輩1人のチームを2つ作って戦ったのだが。山口も入部しており、月島と同じチームだった。
唇を噛み締めてしまうのは、やはり悔しいからだろうか。他の1年生は、中学まで「コート上の王様」と呼ばれていた天才セッター影山飛雄と、無名だが体力底なしと思われる日向翔陽の2名であった。そんな化け物との試合なら負けたって仕方がないと頭では思うのに、心に苦いものが広がるのだった。
そんな気持ちでまだ少し冷たい4月の風に吹かれながら月島は1人、体育館傍の木陰で休んでいた。
その時、明るい声が月島を呼んだ。
「あっ、月島くん、じゃなくてツッキー!」
声のした方を見ると、久原であった。やっほーと言って月島の傍にしゃがむ。
「呼び直さなくていいから」
そんなつもりはないが、月島はやや怒ったような口調になってしまった。しかし、それを気にする様子もなく久原は言った。
「月島くんも部活だよね。お疲れ様!」
「どうも」
「私も部活!合唱部!」
「へー」
月島はどう会話を続ければいいかわからず、つい素っ気ない対応になってしまう。しかし久原は相変わらずの笑顔だった。
「今日いい天気だねぇ」
空を見上げた久原につられて月島も空を見上げる。その青さを見たら、先ほどの苦い気持ちを思い出してしまった。
「あの雲、わたあめみたいじゃない?」
まるで子供のような純粋な言葉を紡ぐ久原に、月島は「そうだね」という何のおもしろみもない返事ばかりを繰り返していた。普段なら何の意味もない会話なんて面倒くさいと思うのに、久原に対しては思わなかった。
「わたあめ食べたいなー。夏休みになったらさ、夏祭り行こうよ!」
人混みが嫌いな月島にしてはめずらしく、その誘いに「いいよ」と言った。そうさせる愛嬌のようなものが、久原にはあるのだった。
「やったー!」と言った久原は腕時計を確認すると立ち上がった。
「昼休み終わるから戻るね!午後もがんばろー!じゃあねぇ」
歌うように別れを告げると、久原は校舎の方へと走り去って行った。久原はいつも嵐のように現れては去って行く。その自由さが好きなのかな、と月島は考えたが、好きという感情を認めるにはまだ付き合いがあまりに短いと思い、その思考を打ち消した。
2019.5.24
月島はバレーボール部に入部した。別にすごく好きというわけではなかったが、何かの力が働いて入ってしまったのだ。疲れるのは嫌いだし、汗をかくのも嫌だ。でも、小学校から続けていた。
高校に入学してから初めての土曜日である今日、1年生で3対3に分かれて試合をした。といっても1年生が4人しか入部しなかったので、実際は1年生2人と先輩1人のチームを2つ作って戦ったのだが。山口も入部しており、月島と同じチームだった。
唇を噛み締めてしまうのは、やはり悔しいからだろうか。他の1年生は、中学まで「コート上の王様」と呼ばれていた天才セッター影山飛雄と、無名だが体力底なしと思われる日向翔陽の2名であった。そんな化け物との試合なら負けたって仕方がないと頭では思うのに、心に苦いものが広がるのだった。
そんな気持ちでまだ少し冷たい4月の風に吹かれながら月島は1人、体育館傍の木陰で休んでいた。
その時、明るい声が月島を呼んだ。
「あっ、月島くん、じゃなくてツッキー!」
声のした方を見ると、久原であった。やっほーと言って月島の傍にしゃがむ。
「呼び直さなくていいから」
そんなつもりはないが、月島はやや怒ったような口調になってしまった。しかし、それを気にする様子もなく久原は言った。
「月島くんも部活だよね。お疲れ様!」
「どうも」
「私も部活!合唱部!」
「へー」
月島はどう会話を続ければいいかわからず、つい素っ気ない対応になってしまう。しかし久原は相変わらずの笑顔だった。
「今日いい天気だねぇ」
空を見上げた久原につられて月島も空を見上げる。その青さを見たら、先ほどの苦い気持ちを思い出してしまった。
「あの雲、わたあめみたいじゃない?」
まるで子供のような純粋な言葉を紡ぐ久原に、月島は「そうだね」という何のおもしろみもない返事ばかりを繰り返していた。普段なら何の意味もない会話なんて面倒くさいと思うのに、久原に対しては思わなかった。
「わたあめ食べたいなー。夏休みになったらさ、夏祭り行こうよ!」
人混みが嫌いな月島にしてはめずらしく、その誘いに「いいよ」と言った。そうさせる愛嬌のようなものが、久原にはあるのだった。
「やったー!」と言った久原は腕時計を確認すると立ち上がった。
「昼休み終わるから戻るね!午後もがんばろー!じゃあねぇ」
歌うように別れを告げると、久原は校舎の方へと走り去って行った。久原はいつも嵐のように現れては去って行く。その自由さが好きなのかな、と月島は考えたが、好きという感情を認めるにはまだ付き合いがあまりに短いと思い、その思考を打ち消した。
2019.5.24