まあるく、やさしく
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校長先生の話は、いつになっても長いものだ。入学式を終えたものの新生活への緊張をはらんだ教室の中、月島蛍は席に着いてそんなことを考えていた。簡単なホームルームの後すぐに帰れるはずだが、担任の教師がまだ来ない。そのことに多少イラつきながらなんとなく窓の方へ視線を向けると、女の子と目があった。こういう時、人は不自然に視線をそらしてしまう。月島も案の定、視線を外してしまった。もう目線が外れたかなと思い、確認のためもう一度そちらを見ると、まだその子は月島を見ていた。
なぜか次はそらしてはいけないという義務感に駆られた月島がその目を見ていたら、女の子はふいに笑った。ひだまりのような笑顔とでも言ったらよいのだろうか。目が合ったことが嬉しい、と言っているような表情だ。
本来なら笑顔で返したいところだが、表情筋の乏しい月島にはそれができず、軽く会釈をしただけだった。
その瞬間、担任が教室に入ってきたのでお互い前に向き直ったのだった。
◇
一通り自己紹介も終わり、ホームルームが終了した。高校も小、中学校同様、入学式の日は学校が半日で終わる。月島はさっさと荷物をまとめると立ち上がって廊下へ出た。その後ろを小学校からの友人である山口忠が「ツッキー!」と追い掛ける。
いつものごとく「うるさい山口」と振り返ろうとしたら、「ツッキー!」と山口のものよりも高めの声が聞こえた。
それは先ほど月島と見つめ合っていた女の子であった。慌てて追いかけてきた彼女は月島たちの前で立ち止まると、息を整えて言った。
「あと山口くん!」
もっと違う言葉が飛んでくると思っていた二人は一瞬たじろいだが、山口が先に口を開いた。
「久原さん、お疲れさま。俺のことついでみたいに言わないでよ」
苦笑してそう言った山口に、もう名前を覚えたのか、と月島は感心した。
「ごめん、ほんとは二人とも呼ぶつもりだったんだけど、山口くんの呼び方まねしたくなっちゃって」
そう言って屈託なく笑う久原という女の子があまりに山口と親しげなので、月島は怪訝に思った。
それが顔に出ていたらしく、山口が説明を始めた。
「ツッキー、覚えてない?小学校で一緒だった久原さん」
月島には全く覚えがなく、何回かまばたきをを繰り返した。
「久原あずさです!月島くんとは同じクラスになったことないから、しょうがないよ。山口くんとは小3と小4で一緒だったよね」
山口と目を合わせてふふふと笑う久原。
「何で僕のこと知ってるの」
月島が訊くと、久原は月島を見上げて言った。
「なんでだろうね!廊下とかで見たのかな?なんか覚えてる!」
運動会の時に見たのかも、と言いながらまたしてもひだまりのような笑顔を見せる久原。普段なら知らない奴に知られているなんて気持ち悪い、と思うのだが久原は不思議とそんなことを思わせない存在だった。
月島があっそう、と答えると久原は腕時計を見て「あ」と呟いた。
「友だちと帰る約束してたんだった!またね、月島くん、山口くん!」
そう叫ぶや否や久原はあっという間に走り去って行った。
「何、アレ」
「久原さんは昔からあんな感じで元気だよ。存在に気づいてなかったのはツッキーくらいじゃない?」
微妙に疲れたような気になりながら月島が訪ねると、山口が眉尻を下げながら答えた。
結局何の用だったわけ。なんだろうね~。そんな会話をしながらまだ柔らかな春の日差しの下を、二人は帰るのだった。
2019.5.22
なぜか次はそらしてはいけないという義務感に駆られた月島がその目を見ていたら、女の子はふいに笑った。ひだまりのような笑顔とでも言ったらよいのだろうか。目が合ったことが嬉しい、と言っているような表情だ。
本来なら笑顔で返したいところだが、表情筋の乏しい月島にはそれができず、軽く会釈をしただけだった。
その瞬間、担任が教室に入ってきたのでお互い前に向き直ったのだった。
◇
一通り自己紹介も終わり、ホームルームが終了した。高校も小、中学校同様、入学式の日は学校が半日で終わる。月島はさっさと荷物をまとめると立ち上がって廊下へ出た。その後ろを小学校からの友人である山口忠が「ツッキー!」と追い掛ける。
いつものごとく「うるさい山口」と振り返ろうとしたら、「ツッキー!」と山口のものよりも高めの声が聞こえた。
それは先ほど月島と見つめ合っていた女の子であった。慌てて追いかけてきた彼女は月島たちの前で立ち止まると、息を整えて言った。
「あと山口くん!」
もっと違う言葉が飛んでくると思っていた二人は一瞬たじろいだが、山口が先に口を開いた。
「久原さん、お疲れさま。俺のことついでみたいに言わないでよ」
苦笑してそう言った山口に、もう名前を覚えたのか、と月島は感心した。
「ごめん、ほんとは二人とも呼ぶつもりだったんだけど、山口くんの呼び方まねしたくなっちゃって」
そう言って屈託なく笑う久原という女の子があまりに山口と親しげなので、月島は怪訝に思った。
それが顔に出ていたらしく、山口が説明を始めた。
「ツッキー、覚えてない?小学校で一緒だった久原さん」
月島には全く覚えがなく、何回かまばたきをを繰り返した。
「久原あずさです!月島くんとは同じクラスになったことないから、しょうがないよ。山口くんとは小3と小4で一緒だったよね」
山口と目を合わせてふふふと笑う久原。
「何で僕のこと知ってるの」
月島が訊くと、久原は月島を見上げて言った。
「なんでだろうね!廊下とかで見たのかな?なんか覚えてる!」
運動会の時に見たのかも、と言いながらまたしてもひだまりのような笑顔を見せる久原。普段なら知らない奴に知られているなんて気持ち悪い、と思うのだが久原は不思議とそんなことを思わせない存在だった。
月島があっそう、と答えると久原は腕時計を見て「あ」と呟いた。
「友だちと帰る約束してたんだった!またね、月島くん、山口くん!」
そう叫ぶや否や久原はあっという間に走り去って行った。
「何、アレ」
「久原さんは昔からあんな感じで元気だよ。存在に気づいてなかったのはツッキーくらいじゃない?」
微妙に疲れたような気になりながら月島が訪ねると、山口が眉尻を下げながら答えた。
結局何の用だったわけ。なんだろうね~。そんな会話をしながらまだ柔らかな春の日差しの下を、二人は帰るのだった。
2019.5.22
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