short
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
パリンッ・・・
あれ、何か踏んだな。
おそるおそる足をどけてみると、そこにはバキバキになった眼鏡があった。
昼休みも終わる時間。自分の席に戻ろうと、机と机の間の狭い通路をいつものように通っただけなのに、なんということだ。
「えっ!ちょ、これ誰の!?どうしよ・・・」
俺が焦って顔をあげると、眼鏡が落ちているすぐ横の席で昼寝をしていたらしき久原さんが眠そうに顔を上げた。
なんかいつもと印象が違うな、と思ったら眼鏡をしていない。
この眼鏡、久原さんのか。
きっと寝ている間に手が当たったりして落ちたんだろう。
久原さんは机の上をぼんやりと眺めて、固まった。
眼鏡がないことに気付いたようだ。
ふいに俺の方を見て、目を見開く。
「久原さん!ごめんな!眼鏡、俺がふんじゃった!ほんとにゴメン!」
顔の前で手を合わせて謝った。
久原さんは自分の机の横に立つ俺と床の見るも無残な眼鏡を交互に見て小さな声で言った。
「私がうっかり落としちゃったのが悪いから大丈夫。気にしないで。」
「いやそういうわけにはいかないから。眼鏡って高いっしょ」
「・・・これ、度が入ってない、雑貨屋さんで買ったやつだから高くないよ。」
「え。伊達眼鏡なんだ?知らなかったー。だとしても、モノ壊しちゃったし、弁償するよ。いくら?」
久原さんとは高2で初めて同じクラスになった。それが今や1月の下旬で、もうすぐ高3になるわけだけど、伊達眼鏡だなんて全く知らなかった。毎日眼鏡だから目が悪いんだと思ってたわ。
眼鏡の値段聞いた俺に、久原さんは予想外の返答をしてきた。
「部活がない日ってある?」
「へ?」
「弁償はいいから、ちょっと一緒に来てほしいところがあるんだけど・・・。でも、自主練とか忙しいならいい。」
少し儚げな久原さんの笑顔を初めて見た。不覚にも、きれいだと思ってしまった。
「月曜日の放課後なら大丈夫、だけど」
「本当?じゃあ来週の月曜日に2時間くらい付き合ってほしいな」
「っ、おっけー・・・」
明らかにそういう意味じゃないのに、付き合ってという言葉にどきっとしてしまった。
◇
月曜日。久原さんと校門を出て数分のコンビニの前で待ち合わせし、繁華街の方へ歩き出した。
ほとんど話したことがないので話題選びに困るかと思ったけど、意外と普通に話ができて思いの外楽しい。
「眼鏡はもうしないの?」
「うーん、どうしても必要なわけじゃないから。」
「つーか何で伊達眼鏡?」
「なんか、顔を隠すものがあるとちょっと、落ち着くような・・・。」
困ったように笑う久原さんは可愛かった。
眼鏡があった時はまじめっぽい印象が強くて、あまり注目したことがなかった。もったいないことしたな。
雑談をしていると、久原さんが「ここ」と言って立ち止まった。目的地に着いたらしい。
そこはケーキ屋だった。
「ここのシュークリーム、おいしいんだよ。」
「こんなとこに店あるの知らなかったわー。俺シュークリームめっちゃ好き。」
「うん、知ってる。」
えっ。にこっと笑う久原さんになんで?って聞こうとしたけど、久原さんは入ろう、と言って店のドアを開けたのでその言葉は飲み込んだ。
店に入ると目の前のショーケースにたくさんのケーキが並んでいて、奥にはイートイン席もあった。久原さんが飲み物と好きなケーキ選んで、というので久原さんの注文に続き俺も注文した。もちろんシュークリーム。
「じゃあ花巻くんは空いてる席行ってて。」
「え、いや払うって。もともと俺が眼鏡弁償するんだったんだし。」
「大丈夫。ここの無料券もってるから。」
ここの周年企画の抽選で当てたんだ~、とふわりと笑いながらケーキセット無料券と書かれた2枚のクーポンをひらり出した。
「いいから!行ってて。」
「え、あ、うん。」
背中まで押されてしまったので仕方なくイートイン席へ腰を下ろした。
久原さんも席へ着くと、すぐにケーキセットも運ばれてきた。つーか2人ともシュークリームだけど。
うまそうだし超うれしいけど、眼鏡のお詫びなのに申し訳なさすぎる・・・と思い謝罪の言葉を口にしようとすると、久原さんがまっすぐに俺のを見て言った。
「誕生日おめでとう!って言っても、昨日だけどね。」
あまりに予想外の言葉だったから、一瞬放心してしまった。
でもうれしくて、少し鼓動が速くなった。
確かに昨日が俺の誕生日で、部活の後みんなに祝ってもらったのだけど。
「おー、ありがと。え、何で知ってるの?」
「岩泉くんに教えてもらった。及川くんと岩泉くんは小学校から一緒だから、話しやすくて。花巻くんの誕生日、聞ける人がいてよかった。」
「シュークリームが好きってのも岩泉に?」
「そう。」
「なるほどね。でも、申し訳ないなー・・・」
眼鏡を弁償する代わりなのに、と続けようとしたら久原さんが遮った。
「だから、眼鏡弁償の代わりに、花巻くんの誕生日を祝う権利、ください。」
顔を少し赤らめて、でも目をそらさない久原さん。
そんな彼女を意識し始めるのに、時間はかからなかった。
2019.1.27
title:恋したくなるお題
あれ、何か踏んだな。
おそるおそる足をどけてみると、そこにはバキバキになった眼鏡があった。
昼休みも終わる時間。自分の席に戻ろうと、机と机の間の狭い通路をいつものように通っただけなのに、なんということだ。
「えっ!ちょ、これ誰の!?どうしよ・・・」
俺が焦って顔をあげると、眼鏡が落ちているすぐ横の席で昼寝をしていたらしき久原さんが眠そうに顔を上げた。
なんかいつもと印象が違うな、と思ったら眼鏡をしていない。
この眼鏡、久原さんのか。
きっと寝ている間に手が当たったりして落ちたんだろう。
久原さんは机の上をぼんやりと眺めて、固まった。
眼鏡がないことに気付いたようだ。
ふいに俺の方を見て、目を見開く。
「久原さん!ごめんな!眼鏡、俺がふんじゃった!ほんとにゴメン!」
顔の前で手を合わせて謝った。
久原さんは自分の机の横に立つ俺と床の見るも無残な眼鏡を交互に見て小さな声で言った。
「私がうっかり落としちゃったのが悪いから大丈夫。気にしないで。」
「いやそういうわけにはいかないから。眼鏡って高いっしょ」
「・・・これ、度が入ってない、雑貨屋さんで買ったやつだから高くないよ。」
「え。伊達眼鏡なんだ?知らなかったー。だとしても、モノ壊しちゃったし、弁償するよ。いくら?」
久原さんとは高2で初めて同じクラスになった。それが今や1月の下旬で、もうすぐ高3になるわけだけど、伊達眼鏡だなんて全く知らなかった。毎日眼鏡だから目が悪いんだと思ってたわ。
眼鏡の値段聞いた俺に、久原さんは予想外の返答をしてきた。
「部活がない日ってある?」
「へ?」
「弁償はいいから、ちょっと一緒に来てほしいところがあるんだけど・・・。でも、自主練とか忙しいならいい。」
少し儚げな久原さんの笑顔を初めて見た。不覚にも、きれいだと思ってしまった。
「月曜日の放課後なら大丈夫、だけど」
「本当?じゃあ来週の月曜日に2時間くらい付き合ってほしいな」
「っ、おっけー・・・」
明らかにそういう意味じゃないのに、付き合ってという言葉にどきっとしてしまった。
◇
月曜日。久原さんと校門を出て数分のコンビニの前で待ち合わせし、繁華街の方へ歩き出した。
ほとんど話したことがないので話題選びに困るかと思ったけど、意外と普通に話ができて思いの外楽しい。
「眼鏡はもうしないの?」
「うーん、どうしても必要なわけじゃないから。」
「つーか何で伊達眼鏡?」
「なんか、顔を隠すものがあるとちょっと、落ち着くような・・・。」
困ったように笑う久原さんは可愛かった。
眼鏡があった時はまじめっぽい印象が強くて、あまり注目したことがなかった。もったいないことしたな。
雑談をしていると、久原さんが「ここ」と言って立ち止まった。目的地に着いたらしい。
そこはケーキ屋だった。
「ここのシュークリーム、おいしいんだよ。」
「こんなとこに店あるの知らなかったわー。俺シュークリームめっちゃ好き。」
「うん、知ってる。」
えっ。にこっと笑う久原さんになんで?って聞こうとしたけど、久原さんは入ろう、と言って店のドアを開けたのでその言葉は飲み込んだ。
店に入ると目の前のショーケースにたくさんのケーキが並んでいて、奥にはイートイン席もあった。久原さんが飲み物と好きなケーキ選んで、というので久原さんの注文に続き俺も注文した。もちろんシュークリーム。
「じゃあ花巻くんは空いてる席行ってて。」
「え、いや払うって。もともと俺が眼鏡弁償するんだったんだし。」
「大丈夫。ここの無料券もってるから。」
ここの周年企画の抽選で当てたんだ~、とふわりと笑いながらケーキセット無料券と書かれた2枚のクーポンをひらり出した。
「いいから!行ってて。」
「え、あ、うん。」
背中まで押されてしまったので仕方なくイートイン席へ腰を下ろした。
久原さんも席へ着くと、すぐにケーキセットも運ばれてきた。つーか2人ともシュークリームだけど。
うまそうだし超うれしいけど、眼鏡のお詫びなのに申し訳なさすぎる・・・と思い謝罪の言葉を口にしようとすると、久原さんがまっすぐに俺のを見て言った。
「誕生日おめでとう!って言っても、昨日だけどね。」
あまりに予想外の言葉だったから、一瞬放心してしまった。
でもうれしくて、少し鼓動が速くなった。
確かに昨日が俺の誕生日で、部活の後みんなに祝ってもらったのだけど。
「おー、ありがと。え、何で知ってるの?」
「岩泉くんに教えてもらった。及川くんと岩泉くんは小学校から一緒だから、話しやすくて。花巻くんの誕生日、聞ける人がいてよかった。」
「シュークリームが好きってのも岩泉に?」
「そう。」
「なるほどね。でも、申し訳ないなー・・・」
眼鏡を弁償する代わりなのに、と続けようとしたら久原さんが遮った。
「だから、眼鏡弁償の代わりに、花巻くんの誕生日を祝う権利、ください。」
顔を少し赤らめて、でも目をそらさない久原さん。
そんな彼女を意識し始めるのに、時間はかからなかった。
2019.1.27
title:恋したくなるお題
15/17ページ