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『何時頃に駅につく?』
部活を終えて部室を出ると、おれは毎回スマホを取り出す。みんな自主練をしてから帰るので、毎日この時間はだいたいひとりだ。今日はめずらしくメッセージが来ていることを、ポップアップ画面が告げていた。
大学生のお姉さんからのメッセージ。
なんとなく甘美な響きのするその言葉を、心の中でつぶやいてみた自分がおかしくて、おれはひとり笑うのだった。
◇
何ということはない。
おれの彼女であるあずさは確かに大学生だ。しかし大学生になったのはこの春で、おれとはたったの2歳差。昨年はおれと同じ学校の制服に身を包む高校3年生だった。
あずさはクロこと黒尾鉄朗よりも1年くらい後に近所に引っ越してきた。明るくにこやかな性格であるあずさは人の輪に入るのが上手で、すぐに友だちができる子だった。当時は引っ込み思案だったクロや今も引っ込み思案のおれと仲良くなるのにも時間はかからなかった。もちろん、登校班が一緒でなければそんなことにはなってないと思うけど。
おれがあずさと急速に仲良くなったのは、出会って1年ほど経ったある日の学校帰りだった。クロは学校でドッジボールをしてから帰るというので、ひとり帰り道をとぼとぼ歩いていたら、おれの横をあずさが突風のように追い越していった。そして漫画のようにおれの目の前で石につまずいて転んだのだ。
「だいじょうぶ...?」
声をかけないわけにはいかず、手を差し出して問いかけると、あずさは「いてて」と言っておれの手を取った。
「研磨!ありがとー」
幸いけがをしている様子はなかった。
「気を付けてよ」
「ハーイ」
注意を促すもまったく反省の色が見えないあずさに、おれは呆れながら聞いた。
「何を急いでたの」
「...昨日買ったゲームを早くやりたくて」
言いにくそうなあずさの口から出たのは意外な言葉だった。
ゲームと聞いて、おれの口からも自然と言葉が漏れる。
「それって、昨日発売のやつ...?」
聞いてみると、あずさが買ったのと同じゲームをおれも買っていたことがわかった。
その時からゲーム仲間になるまで時間はかからなかった。クロに誘われない限り、そしてあずさが友だちから遊びに誘われない限り、おれたちは放課後をゲームに費やした。
あずさが中学に上がって忙しくなるまでの、短い時間だったけど。
そしておれが中学に上がってから初めての大晦日、やっぱりふたりでゲームをしているときにあずさが切り出したのだ。
「ねー研磨、わたし研磨のこと好きなんだけど、よかったら付き合いません?なかなか優良物件だと思うよー?研磨のこと適度に放置できるタイプだし」
あずさはそんな素振りをまったく見せていなかったから、おれはかなり驚いた。
まぁおれも遊ぶ女の子と言えばあずさだけで、あずさの言う「優良物件」も事実だったから、まんざらでもなかったわけだけど。
それから3年近く付き合っている。
◇
「研磨ー!おつかれー」
最寄り駅の改札を出ると、あずさが軽く手を上げて立っていた。服のことはよくわからないけど、ワイドパンツに厚めの黒いカーディガンをさらりと羽織ったその姿は、高校生の時の私服よりもかなり大人っぽくなっている。おまけに最近はメイクまでしていて、唇がぷるぷるだ。それを見ると、なんだか少し寂しい気もする。
「お待たせ」
「ぜーんぜん。じゃ、帰ろっか」
駅を出て人通りが少なくなってくると、あずさはおれの左手に自然と指を絡めてきた。
「誕生日おめでとう」
あずさはおれの手をぎゅっと握って言った。あずさは毎年誕生日を祝ってくれるけど、毎回気恥ずかしくてつい目線を足元に固定してしまう。
「ありがと」
「そしてそして!今年のプレゼントは、これでーす!」
あずさが小さめの紙袋を渡してきた。そう、ちょうどゲームソフトが入りそうな大きさだ。
「もしかしてこれ、この間おれが欲しいって言った...」
「そうそう」
「高いやつじゃん。さすがに悪い気がするんだけど」
「バイトという資金源があるから大丈夫!ていうか私もそのゲームやるに決まってるじゃん」
ホントは自分のために買ったんだよー、と意地悪な顔を作って見せるけれど、触れた手の優しさから、やっぱりおれのためなんだってことがわかる。
あずさのそういうふんわりとした優しさが愛しくて、おれは繋いでいないほうの手であずさの頬を包み、軽く唇を重ねた。
「ん!?」
おれがめずらしく道端でキスなんかするものだから、あずさは目を丸くしていた。
「あずさ、ありがと」
おれがそう言ったらめずらしく照れたのはあずさのほうで、俺に抱きついてしばらく離れなかった。
2019.10.17
部活を終えて部室を出ると、おれは毎回スマホを取り出す。みんな自主練をしてから帰るので、毎日この時間はだいたいひとりだ。今日はめずらしくメッセージが来ていることを、ポップアップ画面が告げていた。
大学生のお姉さんからのメッセージ。
なんとなく甘美な響きのするその言葉を、心の中でつぶやいてみた自分がおかしくて、おれはひとり笑うのだった。
◇
何ということはない。
おれの彼女であるあずさは確かに大学生だ。しかし大学生になったのはこの春で、おれとはたったの2歳差。昨年はおれと同じ学校の制服に身を包む高校3年生だった。
あずさはクロこと黒尾鉄朗よりも1年くらい後に近所に引っ越してきた。明るくにこやかな性格であるあずさは人の輪に入るのが上手で、すぐに友だちができる子だった。当時は引っ込み思案だったクロや今も引っ込み思案のおれと仲良くなるのにも時間はかからなかった。もちろん、登校班が一緒でなければそんなことにはなってないと思うけど。
おれがあずさと急速に仲良くなったのは、出会って1年ほど経ったある日の学校帰りだった。クロは学校でドッジボールをしてから帰るというので、ひとり帰り道をとぼとぼ歩いていたら、おれの横をあずさが突風のように追い越していった。そして漫画のようにおれの目の前で石につまずいて転んだのだ。
「だいじょうぶ...?」
声をかけないわけにはいかず、手を差し出して問いかけると、あずさは「いてて」と言っておれの手を取った。
「研磨!ありがとー」
幸いけがをしている様子はなかった。
「気を付けてよ」
「ハーイ」
注意を促すもまったく反省の色が見えないあずさに、おれは呆れながら聞いた。
「何を急いでたの」
「...昨日買ったゲームを早くやりたくて」
言いにくそうなあずさの口から出たのは意外な言葉だった。
ゲームと聞いて、おれの口からも自然と言葉が漏れる。
「それって、昨日発売のやつ...?」
聞いてみると、あずさが買ったのと同じゲームをおれも買っていたことがわかった。
その時からゲーム仲間になるまで時間はかからなかった。クロに誘われない限り、そしてあずさが友だちから遊びに誘われない限り、おれたちは放課後をゲームに費やした。
あずさが中学に上がって忙しくなるまでの、短い時間だったけど。
そしておれが中学に上がってから初めての大晦日、やっぱりふたりでゲームをしているときにあずさが切り出したのだ。
「ねー研磨、わたし研磨のこと好きなんだけど、よかったら付き合いません?なかなか優良物件だと思うよー?研磨のこと適度に放置できるタイプだし」
あずさはそんな素振りをまったく見せていなかったから、おれはかなり驚いた。
まぁおれも遊ぶ女の子と言えばあずさだけで、あずさの言う「優良物件」も事実だったから、まんざらでもなかったわけだけど。
それから3年近く付き合っている。
◇
「研磨ー!おつかれー」
最寄り駅の改札を出ると、あずさが軽く手を上げて立っていた。服のことはよくわからないけど、ワイドパンツに厚めの黒いカーディガンをさらりと羽織ったその姿は、高校生の時の私服よりもかなり大人っぽくなっている。おまけに最近はメイクまでしていて、唇がぷるぷるだ。それを見ると、なんだか少し寂しい気もする。
「お待たせ」
「ぜーんぜん。じゃ、帰ろっか」
駅を出て人通りが少なくなってくると、あずさはおれの左手に自然と指を絡めてきた。
「誕生日おめでとう」
あずさはおれの手をぎゅっと握って言った。あずさは毎年誕生日を祝ってくれるけど、毎回気恥ずかしくてつい目線を足元に固定してしまう。
「ありがと」
「そしてそして!今年のプレゼントは、これでーす!」
あずさが小さめの紙袋を渡してきた。そう、ちょうどゲームソフトが入りそうな大きさだ。
「もしかしてこれ、この間おれが欲しいって言った...」
「そうそう」
「高いやつじゃん。さすがに悪い気がするんだけど」
「バイトという資金源があるから大丈夫!ていうか私もそのゲームやるに決まってるじゃん」
ホントは自分のために買ったんだよー、と意地悪な顔を作って見せるけれど、触れた手の優しさから、やっぱりおれのためなんだってことがわかる。
あずさのそういうふんわりとした優しさが愛しくて、おれは繋いでいないほうの手であずさの頬を包み、軽く唇を重ねた。
「ん!?」
おれがめずらしく道端でキスなんかするものだから、あずさは目を丸くしていた。
「あずさ、ありがと」
おれがそう言ったらめずらしく照れたのはあずさのほうで、俺に抱きついてしばらく離れなかった。
2019.10.17
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