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「あ、国見くん」
「どうも」
春休みもそろそろ終わるという3月末。学校からの帰り道、偶然出くわしたのは同じクラスの久原さんだった。私服姿のその手には近所のスーパーのビニール袋が下がっている。おつかいの帰りかなにかだろうか。
久原さんは、俺が少し気になっていた人だ。久原さんは静かな方で、あまり自己主張しない。周りに流されるタイプかと思っていたので最初は興味無かった。
それが変わったのは学園祭の時だ。うちのクラスは仮装カフェをやることになって、俺は海賊の格好をさせられるハメになった。クラスの女子には「かっこいいよ!」とおだてられたが、そう言われれば言われるほど嫌になった。
学園祭2日目、嫌気が差したので宣伝に行くふりをして更衣室で着替え、逃げ出した。とりあえず見つからない場所で休憩を、と思って人があまりいない校舎一階の端、職員室横の外へ繋がる扉前のスペースへ向かった。そこには先客がいた。それが久原さんだったのだ。
横たえた宣伝用のプラカードの横でしゃがむ久原さん。スマホをいじっていたところを見ると彼女もサボりだろう。久原さんが「ヤバい、見つかった」という顔をしたので「俺もサボりだから内緒ね」と言うと、彼女は目を見開いてからほっとした顔をして頷いた。この時から、俺は久原さんを目で追うようになった。
控えめだけど、意外と自分の意思が強いところが気に入ったんだよな。
そんなことを思い出していたら久原さんが口を開いた。
「今日も部活?お疲れ様」
部活関連で学校に行っていたけれど、部活かと聞かれれば違う。今日は月曜日で部活は休み。俺の誕生日を祝うというそれだけのために矢巾さんが部員を部室に集めたのだ。普段は誰かの誕生日は学校がある日なので、学校に行くついでに祝うことができる。しかし、今年の俺の誕生日は春休みな上に部活のオフが重なってしまったのだ。正直めんどくさかったけど、俺が主役だし先輩の誘いは断れないので、めずらしくわざわざ学校に赴いたのだった。
「うん、まぁそんなとこ」
「なんか煮え切らないね」
本当に久原さんの言う通りだ。部活のジャージを着ているから部活だと思うのは当然だ。世間話なんだから素直に部活と言えばいいのに、嘘がつけなくて曖昧な返事をしてしまった。
「誕生日、おめでとう」
久原さんが突然言った。何で知ってるんだろう。俺は驚いて久原さんを見つめた。久原さんが「今日だよね?」と不安そうな顔をしたので、俺は慌てて首を縦に振った。
「何で知ってるの」
ありがとうと言うのも忘れ、俺は聞いた。俺は何かに期待しているのかもしれない。
「国見くんは覚えてないかもしれないけど小4の時、私、国見くんと同じクラスだったんだよ。その年はクラスみんなの誕生日を先生が教室のカレンダーに書き込んでたから」
そうだったのか。同じクラスだったなんて全然覚えていない。たぶんあまり話さなかったんだろう。
「よく覚えてたね」
「国見くんの誕生日は春休み中だから、お祝いできないなーって思ってたんだよね」
確かにそうだ。だから家族と部活の知り合い以外に祝われたことはほとんどない。いや、誕生日なんていちいち他人に言ったりしないから、というほうが大きいか。
期待した“何か”などないのか、と少し気分が沈んだ時、久原さんは「っていうのもあるけど」と言ってにこっと笑った。
「国見くんのこと、好きだったから」
心臓がどくん、と鳴った。欲しかった“何か”に浮かれそうになった。しかし、「好きだった」ということは小学生の時のことか?
考え込んでいたら、「変な顔ー」と久原さんに笑われた。言われて初めて、眉間にシワが寄っていることに気づいた。
顔の力を抜いて俺は興味なさげに「ふーん」と言った。もう少しかわいげのある人間に生まれてたらよかったのに。
「中学は別々だったし、もう会わないかなーって思ってたけど、高校でまた一緒になったんだよね」
でも春休み中だからやっぱり祝えないっていうね、と眉尻を下げて笑う久原さん。
待てよ。今でも祝う気があるということは、肯定的に捉えてもいいのではないか。奥手なのはお互い様らしい。控え目な久原さんにしては今日はかなり赤裸々に話してくれたと思う。俺も勝負に出ることにした。
「久原さん、スマホ持ってる?」
「うん」
久原さんは目をぱちくりさせてスマホを取り出す。俺は無料通話アプリのQRコードを画面に表示させて久原さんに見せた。
「これ、俺の連絡先」
「いいの?」
「来年も俺の誕生日祝って」
あと俺にも久原さんの誕生日祝わせてね、と言うと久原さんは少し驚いてから「了解」と笑って連絡先を教えてくれた。
2019.3.25
title:ユリ柩
「どうも」
春休みもそろそろ終わるという3月末。学校からの帰り道、偶然出くわしたのは同じクラスの久原さんだった。私服姿のその手には近所のスーパーのビニール袋が下がっている。おつかいの帰りかなにかだろうか。
久原さんは、俺が少し気になっていた人だ。久原さんは静かな方で、あまり自己主張しない。周りに流されるタイプかと思っていたので最初は興味無かった。
それが変わったのは学園祭の時だ。うちのクラスは仮装カフェをやることになって、俺は海賊の格好をさせられるハメになった。クラスの女子には「かっこいいよ!」とおだてられたが、そう言われれば言われるほど嫌になった。
学園祭2日目、嫌気が差したので宣伝に行くふりをして更衣室で着替え、逃げ出した。とりあえず見つからない場所で休憩を、と思って人があまりいない校舎一階の端、職員室横の外へ繋がる扉前のスペースへ向かった。そこには先客がいた。それが久原さんだったのだ。
横たえた宣伝用のプラカードの横でしゃがむ久原さん。スマホをいじっていたところを見ると彼女もサボりだろう。久原さんが「ヤバい、見つかった」という顔をしたので「俺もサボりだから内緒ね」と言うと、彼女は目を見開いてからほっとした顔をして頷いた。この時から、俺は久原さんを目で追うようになった。
控えめだけど、意外と自分の意思が強いところが気に入ったんだよな。
そんなことを思い出していたら久原さんが口を開いた。
「今日も部活?お疲れ様」
部活関連で学校に行っていたけれど、部活かと聞かれれば違う。今日は月曜日で部活は休み。俺の誕生日を祝うというそれだけのために矢巾さんが部員を部室に集めたのだ。普段は誰かの誕生日は学校がある日なので、学校に行くついでに祝うことができる。しかし、今年の俺の誕生日は春休みな上に部活のオフが重なってしまったのだ。正直めんどくさかったけど、俺が主役だし先輩の誘いは断れないので、めずらしくわざわざ学校に赴いたのだった。
「うん、まぁそんなとこ」
「なんか煮え切らないね」
本当に久原さんの言う通りだ。部活のジャージを着ているから部活だと思うのは当然だ。世間話なんだから素直に部活と言えばいいのに、嘘がつけなくて曖昧な返事をしてしまった。
「誕生日、おめでとう」
久原さんが突然言った。何で知ってるんだろう。俺は驚いて久原さんを見つめた。久原さんが「今日だよね?」と不安そうな顔をしたので、俺は慌てて首を縦に振った。
「何で知ってるの」
ありがとうと言うのも忘れ、俺は聞いた。俺は何かに期待しているのかもしれない。
「国見くんは覚えてないかもしれないけど小4の時、私、国見くんと同じクラスだったんだよ。その年はクラスみんなの誕生日を先生が教室のカレンダーに書き込んでたから」
そうだったのか。同じクラスだったなんて全然覚えていない。たぶんあまり話さなかったんだろう。
「よく覚えてたね」
「国見くんの誕生日は春休み中だから、お祝いできないなーって思ってたんだよね」
確かにそうだ。だから家族と部活の知り合い以外に祝われたことはほとんどない。いや、誕生日なんていちいち他人に言ったりしないから、というほうが大きいか。
期待した“何か”などないのか、と少し気分が沈んだ時、久原さんは「っていうのもあるけど」と言ってにこっと笑った。
「国見くんのこと、好きだったから」
心臓がどくん、と鳴った。欲しかった“何か”に浮かれそうになった。しかし、「好きだった」ということは小学生の時のことか?
考え込んでいたら、「変な顔ー」と久原さんに笑われた。言われて初めて、眉間にシワが寄っていることに気づいた。
顔の力を抜いて俺は興味なさげに「ふーん」と言った。もう少しかわいげのある人間に生まれてたらよかったのに。
「中学は別々だったし、もう会わないかなーって思ってたけど、高校でまた一緒になったんだよね」
でも春休み中だからやっぱり祝えないっていうね、と眉尻を下げて笑う久原さん。
待てよ。今でも祝う気があるということは、肯定的に捉えてもいいのではないか。奥手なのはお互い様らしい。控え目な久原さんにしては今日はかなり赤裸々に話してくれたと思う。俺も勝負に出ることにした。
「久原さん、スマホ持ってる?」
「うん」
久原さんは目をぱちくりさせてスマホを取り出す。俺は無料通話アプリのQRコードを画面に表示させて久原さんに見せた。
「これ、俺の連絡先」
「いいの?」
「来年も俺の誕生日祝って」
あと俺にも久原さんの誕生日祝わせてね、と言うと久原さんは少し驚いてから「了解」と笑って連絡先を教えてくれた。
2019.3.25
title:ユリ柩
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