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8月。東北とはいえ強い日射しの下、自転車で烏野高校へ向かっている。前カゴには親戚から送られてきたスイカが1玉載っていた。
ご近所で付き合いが長く、弟のように可愛がってきた旭くんが、まだ引退せずバレー部で練習していると聞いていたので、前々から差し入れを持っていってあげたいと思っていたのだ。
そんな折り、親戚からスイカが届いたので、仕事がお休みである今日、こうして烏野高校に向かっているのだった。
校門のところで自転車を降りた。私の母校でもあるこの高校は、私が通っていた時と外観は全く変わっていない。懐かしいな。
自転車を押して体育館の脇まで移動する。自転車を停め、体育館の入り口からのぞくとちょうど休憩中だった。
「こ、こんにちは!どなたにご用でしょうか・・・?」
小さくてかわいらしい女の子がこちらに気づいて駆け寄ってきた。マネージャーかな。
「こんにちは!旭くんを呼んでほしいんだけど・・・」
女の子は「はいっ!」というと、旭くんを呼びに行ってくれた。
「あずさちゃん!」
「旭くん、おつかれさま~。スイカ持ってきたよ」
旭くんが駆けてきた。手に持っていたスイカを旭くんに渡す。
「なんだ!?旭、彼女か!?」
「スガ!違うよ、近所のお姉さん。昔よく遊んでもらったんだよ。小学生の頃から知ってるから呼び方抜けないだけで・・・」
部員の子たちがわらわらと集まってくる。よかったらみんなでスイカ食べてね~と言うと、「あざーっす!」と運動部らしい返事が返ってきた。
がやがやと騒がしいみんなを見ていると自然と頬がゆるむ。
「おーし、休憩終了ー!」
私の後ろから男性の声がした。みんな「うっす!」と言って体育館に散らばった。
顧問の先生かと思われたその男性は、入り口付近に佇む私の横をすり抜けていく。仄かに煙草の匂いがした。わっ、金髪だ。ってことは先生ではない・・・?
その後ろ頭を見ていたら、男性が振り返った。彼は大きく目を見開いた。
「久原!?」
「!?もしかして烏養くん?」
金髪で最初こそわからなかったが、その顔と声には覚えがある。烏養繋心くん。高校2年と3年で一緒のクラスだった。でも、私と烏養くんはタイプが違ったせいか、高校生の時に話をした記憶はほとんどない。
「なんでここに?」
「えと、スイカを差し入れに。旭くんと知り合いだから」
「付き合ってんのか!?」
「いや、高校生とは付き合わないから」
みんなどうして私を犯罪者にしたいんだ。あと旭くんは本当に弟みたいなもんだし。
「そうか・・・」
「じゃあ私はこれで」
そう言って体育館から出ようとすると、烏養くんが「ちょっと待ってろ!」と言って私を引き留め、部員たちに大きい声で指示を出した。バレーのことなどさっぱりな私は、何のことかわからなかったけど。
烏養くんがふたたび私に向き直ると、口を開きかけたがやめ、目を反らして頭をがしがしとかいた。
「?どうしたの?」
痺れを切らしてそう聞くと、烏養くんはやっと言葉を発した。
「連絡先、教えろ」
「へ?」
何故に命令?そしてなぜ連絡先?今後連絡を取る用事なんてなさそうだけど・・・。
「卒業の時に聞きそびれたんだよ。俺の知り合いでお前の連絡先、知ってるやついねーし」
「いいけど・・・なんで?」
そう尋ねると、烏養くんは目を丸くして、呆れたように言った。
「わかんねーの?」
「うん、まったく」
「お前、勉強はできるくせに意外とばかなんだな」
「え、ひどい」
軽口を叩いていた烏養くんが、急に照れくさそうな顔をした。
「もっと、久原と話してみたかったんだよ。高校生の頃からずっと。初恋って、忘れらんねーもんだな」
はつこい。ハツコイ?誰が、誰に?話の流れとしてはそういうこと、か?
顔が熱い。混乱して何も考えられなくなったので、とりあえず情報を整理しようと口を開いた。
「どういう、意味・・・?」
「連絡先教えてくれたら、教えてやる」
いたずらっ子のようににやっとした烏養くんが突然気になり始めるなんて、私ってこんなに節操なしだったっけ。
2019.3.7
title:誰花
ご近所で付き合いが長く、弟のように可愛がってきた旭くんが、まだ引退せずバレー部で練習していると聞いていたので、前々から差し入れを持っていってあげたいと思っていたのだ。
そんな折り、親戚からスイカが届いたので、仕事がお休みである今日、こうして烏野高校に向かっているのだった。
校門のところで自転車を降りた。私の母校でもあるこの高校は、私が通っていた時と外観は全く変わっていない。懐かしいな。
自転車を押して体育館の脇まで移動する。自転車を停め、体育館の入り口からのぞくとちょうど休憩中だった。
「こ、こんにちは!どなたにご用でしょうか・・・?」
小さくてかわいらしい女の子がこちらに気づいて駆け寄ってきた。マネージャーかな。
「こんにちは!旭くんを呼んでほしいんだけど・・・」
女の子は「はいっ!」というと、旭くんを呼びに行ってくれた。
「あずさちゃん!」
「旭くん、おつかれさま~。スイカ持ってきたよ」
旭くんが駆けてきた。手に持っていたスイカを旭くんに渡す。
「なんだ!?旭、彼女か!?」
「スガ!違うよ、近所のお姉さん。昔よく遊んでもらったんだよ。小学生の頃から知ってるから呼び方抜けないだけで・・・」
部員の子たちがわらわらと集まってくる。よかったらみんなでスイカ食べてね~と言うと、「あざーっす!」と運動部らしい返事が返ってきた。
がやがやと騒がしいみんなを見ていると自然と頬がゆるむ。
「おーし、休憩終了ー!」
私の後ろから男性の声がした。みんな「うっす!」と言って体育館に散らばった。
顧問の先生かと思われたその男性は、入り口付近に佇む私の横をすり抜けていく。仄かに煙草の匂いがした。わっ、金髪だ。ってことは先生ではない・・・?
その後ろ頭を見ていたら、男性が振り返った。彼は大きく目を見開いた。
「久原!?」
「!?もしかして烏養くん?」
金髪で最初こそわからなかったが、その顔と声には覚えがある。烏養繋心くん。高校2年と3年で一緒のクラスだった。でも、私と烏養くんはタイプが違ったせいか、高校生の時に話をした記憶はほとんどない。
「なんでここに?」
「えと、スイカを差し入れに。旭くんと知り合いだから」
「付き合ってんのか!?」
「いや、高校生とは付き合わないから」
みんなどうして私を犯罪者にしたいんだ。あと旭くんは本当に弟みたいなもんだし。
「そうか・・・」
「じゃあ私はこれで」
そう言って体育館から出ようとすると、烏養くんが「ちょっと待ってろ!」と言って私を引き留め、部員たちに大きい声で指示を出した。バレーのことなどさっぱりな私は、何のことかわからなかったけど。
烏養くんがふたたび私に向き直ると、口を開きかけたがやめ、目を反らして頭をがしがしとかいた。
「?どうしたの?」
痺れを切らしてそう聞くと、烏養くんはやっと言葉を発した。
「連絡先、教えろ」
「へ?」
何故に命令?そしてなぜ連絡先?今後連絡を取る用事なんてなさそうだけど・・・。
「卒業の時に聞きそびれたんだよ。俺の知り合いでお前の連絡先、知ってるやついねーし」
「いいけど・・・なんで?」
そう尋ねると、烏養くんは目を丸くして、呆れたように言った。
「わかんねーの?」
「うん、まったく」
「お前、勉強はできるくせに意外とばかなんだな」
「え、ひどい」
軽口を叩いていた烏養くんが、急に照れくさそうな顔をした。
「もっと、久原と話してみたかったんだよ。高校生の頃からずっと。初恋って、忘れらんねーもんだな」
はつこい。ハツコイ?誰が、誰に?話の流れとしてはそういうこと、か?
顔が熱い。混乱して何も考えられなくなったので、とりあえず情報を整理しようと口を開いた。
「どういう、意味・・・?」
「連絡先教えてくれたら、教えてやる」
いたずらっ子のようににやっとした烏養くんが突然気になり始めるなんて、私ってこんなに節操なしだったっけ。
2019.3.7
title:誰花
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