愛する者たちのために
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フルーツスカイにあった他の果物も採って家に帰る頃には昼になっていた。家には小松だけで、リンとティナは今朝まではいたようだが、仕事の都合で二人は今朝に出ていったようだ。
小松にクリアフルーツたちの調理を頼み、俺は衛生上のためシャワーを浴びてから瑞貴の元へ向かう。ちょうど起き上がったようで瑞貴も俺に気づいた。
「トリコ……?」
「ああ。ただいま。ごめんな、何日も家を空けて」
「ううん……おかえり……」
弱々しく笑った瑞貴は出かける前と変わらない。小松の料理と、リンとティナが世話してくれたから、悪化するのは防げたようだ。
コンコン。
「トリコさーん! 瑞貴さーん! できましたー!」
「おっ、来たか!」
俺が扉を開けると、小松が料理の入ったメインの器と小分け用器とスプーンを乗せたトレイを手に入って来た。
「クリアフルーツをメインに、フルーツスカイの果物を合わせて作ったフルーツポンチです。炭酸水じゃなくてシロップでまとめてみました!」
「サンキュー小松! 瑞貴、ゆっくりでいい。食べてみてくれるか」
「うん……」
俺は小分け用の容器にフルーツポンチを入れ、スプーンにクリアフルーツとオレンジを一緒にすくって瑞貴の口元に運ぶ。どの果物もひと口よりもさらに小さく切られていたから、大きく口を開けなくても食べやすい。それは小松が瑞貴にゆっくり食べられるようにとした配慮だ。
瑞貴はパクッと口に入れる。ど、どうだ……?
「おいしい……! シロップが甘過ぎず、フルーツ本来の味が楽しめるよ。それにクリアフルーツは単体で食べてもおいしいけど、こうやって他の果物と一緒に食べると、甘さと酸味がさらに強まって栄養が体全体に行き渡る感じがする……!」
「そうか! もうひと口食べるか?」
「うん!」
「……っ!」
元気よく頷いた瑞貴に、俺は感慨深さと安心が相まって涙が出そうになったがなんとか堪え、スプーンにクリアフルーツと今度は桃と一緒に差し出した。これも瑞貴は嬉しそうに食べる。あっという間に器になくなったと思ったら、おかわりも所望してくれた。
――その日、瑞貴はリビングまで移動できるほど回復し、夕飯も全部食べた上に、俺が帰ってからは悪阻が全くなかった。
「ヴヴッ……! 瑞貴ざん…本当によかっだでず~!」
「小松さん、心配かけてごめんね。それに今朝まで全部食べられなくてごめんなさい」
「ぞんなのいいんでずよー!」
久しぶりに瑞貴がおいしく食ってくれたおかげか、小松は大号泣していた。料理人として食事を残されたら嫌な気分だろうが、ムリして食べられるほうがお互い辛いモンな。
小松は洗い物もやるから休んでくれと言われたので、俺たちは言葉に甘えることにした。念のために瑞貴を寝室まで運び、俺はとなりの椅子に座って尋ねる。
「で、体調はどうだ?」
「それが嘘のように快調! お腹の子も喜んでいるみたい」
「わかるのか?」
「不思議だけど、なんとなくね」
お腹をさすって笑う瑞貴は、今までとどこか違った。きっとあれが『母親の顔』なんだろう。
「なあ、俺も当ててみてもいいか?」
「うん? いいよ」
許可をもらったので俺はそっと手を瑞貴の腹に当てた。まだ手足ができてないから蹴ったりしないが、不思議とこの場所が暖かい気がした。
これからも、俺は妻の瑞貴と、産まれて来る子供を愛し続けよう。紛れもなく二人は俺の宝物だ。
――それから数ヶ月後、元気な男の子が産まれたのだった。
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