「そういえば、どうして瑞貴さんは料理人も兼業されているんですか？」

「えっ？」


閉店したホテルグルメの厨房で明日の仕込みの手伝いをしている私に、料理長・小松さんから唐突に言われた。思わず反応できず目をパチクリしたら「大したことないんですけど……」と小松さんは苦笑する。


「だって瑞貴さんは美食屋四天王でしょう？　でも料理人としてもスゴい腕を持っているので、スゴいなぁと思って」

「ああ、なるほど……」


小松さんの言葉に私は思わず過去を振り返る。――私は孤児だけど施設で育った普通の女の子だった。だけど、施設の隣にある薙刀道場でいつも通り稽古していたらいつの間にか視界がブラックアウトし、目が覚めたら転生していたってオチだった。

しかもそれがただの転生ではなく、元の世界で好きな作品の『トリコ』に出て来る登場キャラクター・サニーに成り代わっていた。それがわかったのは自分の髪が嫌にカラフルなこと、あとから生まれてきた妹の名前がリンということ、さらに月日が流れてＩＧＯに姉妹共々引き取られたから、もう確定だなって思ったんだ。

前世(?)の記憶があるから私は本来いる『サニー』と全く同じ人生を歩んでいるわけでもない。だから料理人としてもいる。ココを『毒』とも呼ばないし、戦うときグルメ細胞を人前で出すことにも抵抗ない。だけど四天王の中では唯一の紅一点だから、リンと一緒に結構甘やかされながら育ったんだよね。


「美食屋って、どんなにスゴい捕獲レベルの猛獣を捕獲しても、それを調理できなくちゃ意味がないでしょ？　ほら、フグ鯨とか」

「確かに……トリコさんと旅をしてから僕も学ばないといけないことがいっぱいあると痛感します」


小松さんは鍋をかき混ぜる手を動かしつつも、トリコとココとフグ鯨を捕獲した時を思い出しているんだろう。話を聞いたら十匹は捕獲したのに食べられたのは一匹だけだったって言うし。


「まだ私はコンビを決めていないから、相手がいない間は自分でできる限り調理しようと思っているの。せっかく捕獲した命なのにちゃんと食べられないなんて美しくないからね」

「命を粗末にすることは、瑞貴さんの美しさの信条が許せないんですね」

「うん」


それほど美に強く執着しているわけじゃないけど、美術品を見たり、綺麗な食器を見たりするのは心が穏やかになるときもあるし、美しいのを見るのは好きだ。そして命を大切に想うことも美しいと思っている。この辺はサニーへ成り代わったから前世より美意識が強いんだろうなぁ。