感謝あるのみ! 食義の極意‼
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夜、ローズハムを使った料理を食べて今日の修業は終わった。修業に不満があるトリコのことも気になるし、本当なら明日も早いから休んだほうがいいんだけど、私は部屋の前の廊下で空を眺めていた。
この方向は前からしている第六感が反応する方向……修業がなかったらやっぱりこっちが気になってしまう。
「――お主も気になるのか。リムジンよ」
「瑞貴です、それは車の名前です。『お主も』ってことはあなたも気づいていたんですか? ――珍師範」
「まあな。胸騒ぎしてならんわい」
そう言って珍師範は私と同じ方向の空を見上げた。本当ならシュウさんの修業が終えるまで会えなかったんだろうけど、自分が感じたことを私も感じたってわかったから確かめに来たんだろう。
「本来ならばその考えも未熟な内は雑念に入ってしまうのじゃが、シュルリンから聞けばお主はあの二人より一歩先へ行っておる。胸騒ぎを抱きつつも食義を極められるじゃろう」
「シュルリンじゃなくてシュウさんですね。でも、まだまだですよ……」
「わしはトランに奥義を伝えなければならん。万が一そのときに来てしまった場合……――お主にこの寺を任せたい」
「トランじゃなくてトリコです。でも、任せるって……?」
「食義を身に付けば、お主の中にある秘めた力も確実に使いこなせる。その力で守ってほしいということじゃ。お主らが来たときもこの寺は隠れておったが隠れきれないときもあるやもしれん」
私の中にある秘めた力って……珍師範は私が四神を宿っていることをわかってる? いや、わからなくても感じるんだろう。
今までの修業の成果で攻撃の軌道を操れるようになったし、その繊細さは大技を放つことよりも遥かに難しい。それに守護結界も思わず念じただけで発動していた。四神の力と私の力が一体化しつつあるんだ……。
私たちが感じている胸騒ぎが現実になれば、それは食義の修業の成果を試すことにもなる。
「いいんですか? 私はここに来たばかりでまだ食義を身につけていない未熟な門下生……。それに修業の合間にシュウさんから聞きました。師範代は何人もいて、コッポウさんという方がこの食林寺ではナンバー2の存在だと。その方にこのことは?」
「伝えとらん。これでも人を見る目は曇ってないつもりでな、お主が食義を身に付けるのはそう遠くないとわしは感じておる。できるだけ被害を最小限にするのはどうすればいいか、そのためには誰を任せばいいか……それがたまたまお主だったってわけじゃ」
珍師範は『見込んだ人しか名前を間違えない』って原作でも書いてあったっけ……。師範代を務めるシュウさんですら名前を町が言えるし、私の名前を未だに間違えるのは見込みがないってことだろうけど、希望はあるって思っていいのかな?
「わかりました。私の力がどこまで通用するかわかりませんが、精一杯がんばります」
「そうか……頼んだぞ」
「でも、私の本当の力はかなり巨大なモノです。巻き込まれないように門下生たちを避難してくれると助かるんですが……」
「それは大丈夫。これを見せるといい」
すると珍師範は懐から何かを取り出して私に差し出した。受け取ってよく見ると年季が入っているのか古く、表面には『食義』とデッカく書いていて、裏には『食林寺』と書いてあった。
「これは食林寺の師範だという証でな。これを見せればシャッピーを始め他の師範代もお主に従うじゃろう」
「シャッピーじゃなくてシュウさんです……。でも、ありがとうございます。絶対にムダにはしません」
「ウム。ではそのときが来るまでしっかり修業に励むんじゃぞ、アールグレイよ」
「……瑞貴です。それは紅茶の名前です」
本当に名前すら覚えてない相手に寺を任せていいのか!?
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……時は少しさかのぼり、トリコはシャボンフルーツが出ている池の前に立った。相変わらず美しいシャボン玉が浮かんでいるが、手に触れると全て弾けてしまうので肩を落として溜息を吐いた。
「やっぱりダメか……。目の前にあるのに……」
池の表面からまた新たなシャボンフルーツが浮かんできた。きっとこれを捕獲しようとしてもさっきの二の舞だろう。
「あんな修業で、この実を捕獲できるとは思えねぇ……」
「――やっぱりここでしたか」
「小松……」
うしろを振り向くと小松がそこにいた。恐らく部屋に戻らない自分がここにいるとわかって来たのだろうとトリコは思った。
――部屋の前の縁側に移動すると小松は正座で、トリコは胡坐をかいて並んで座ると庭を眺めていた。
「心配なんですか? 修業」
「お前はどうなんだ」
「僕は……――楽しいです」
「ん?」
あんなに大変な目に遭っているのに、まさか小松の口から『楽しい』なんて言葉が意外だったのか、トリコは小松に顔を向ける。
「確かに……やってることは地味だし、辛い……とも思います。けど、楽しいです。トリコさんと瑞貴さんと歩幅を合わせて一緒に成長している……そう思うと嬉しくて」
「まっ、成長してりゃあいいけどな」
「……僕」
「あん?」
さっきまで楽しそうな顔をしていた小松だが、トリコが次に見ると今度は真剣な顔になっていた。
「トリコさんと瑞貴さんが師範代に負けたとき、なんていうか……とっても悔しくて。情けないけど…泣きそうになったくらい……! あんな気持ち、初めてでした……!」
「…………」
小松はずっとトリコと瑞貴の強さを目の当たりにしていた。片や美食四天王の一人、片や美食屋兼料理人・舞獣姫、強い彼らとコンビや仲間になれたことを誇りに思っていた。だけどシュウに負けて二人を見て、幻滅するよりシュウを敵視したのだ。