結局何も言われないままヒールフォレストの外でヘリに乗って待っているトムさんと対面した。


「トムさん、久しぶりー！」

「元気そうだな、瑞貴ちゃん！」


私とトリコはトムさんのうしろの席に乗り込むんだけど……なんで中は食材でいっぱいなんだろう？


「瑞貴ちゃんも災難だな！」

「止めてくださいよ！　トムさん！」


トムさんも私を呼んで来ると聞いて全然止めなかったみたいだし、この現状すらもとても面白がっている。クソォ……今度奥さんに言いつけてやる！


「って、あれ？　小松さんはいないの？」

「ああ。修業食材の目的地がハッキリわかったわけじゃないから、今は連絡していない。それにあいつも料理長の仕事で忙しいだろうしよ」


わかっているように言ってるけど……小松さんを連れ回しているから、支配人のスミスさんがいつも頭を悩ませているんだよね。


「ん？　ならなんで私を連れて来たの？」

「い、いや、その……細かいことは別にいいじゃねぇか！」

「おいおい、トリコ。まだ言ってねぇのか？　早くしねぇと他の奴にかっさらわれてしまうぞ」

「うるせぇ！　余計なお世話だ！」


……小松を呼ばなかった理由に嘘はついていないが、トリコはただ単に瑞貴と二人きりで行きたかったのだ。その様子に全く進展していないと気づいたトムは呆れるように言うと、トリコは少し顔を赤くし慌てて文句を言った。


「えっ!?　まさかこれから行く場所は競争率早いの!?　だったら早く行かなきゃ！　トムさん、離陸して！」

「……そういう意味じゃねぇんだよ」

「ある意味この鈍感の高さこそ瑞貴ちゃんだな」

「？」


二人の言っている意味がわからなくて私は首を傾げると、トムさんは離陸してどこかに向かってヘリを飛ばす。


「聞いたぜ、トリコ、瑞貴ちゃん。またひと暴れしたらしいな！」

「ああ？」

「えっ？　なんのことですか？」

「市場じゃ今、ジダル王国の噂でもちきりよ！」

「もう話が広がってんのか？　早いな」


あれからあんまり日が経っていないのに、もうワールドキッチンにまで届いているとは。


「トリコたちが行ってから、あの国はめっきり治安がよくなったって話だぜ」

「グルメマフィアのマッチさんが残って、カジノを仕切っているんです。違法食材も完全に締め出してくれたんでしょう」

「ホォ！」

「これでジダルだけでなく、ネルグも安心して暮らせる国になるだろう」

「国王が消えてもちゃんと統治されてるとは、大したモンだぜ！」

「街の治安のほうはライブベアラーが引き受けてたが、キッチリやってるみたいだな」

「最近じゃ、犯罪は激減されて特に身寄りのない子供たちに優しい国になったみたいだね」


グルメカジノを中心にマッチさんたちは違法食材の排除や統治のため忙しなく動いているし、それにライブベアラーたち地下料理界も治安維持に勤しんでくれているみたい。