――レストランの営業が終了し、ロッカールームで私服に着替えた小松と他のシェフたち。今日の仕事はこれで終わりなのでユンも一緒にいる。


「お先に失礼します」

〈ユンユン！〉

「お疲れ様！」

「あっ、料理長。今度はぜひ舞獣姫さんも呼んでくださいね。また会えるのを楽しみにしているんです！」

「ああ、うん。伝えとくよ……」


そう言ってにこやかに部屋から出るシェフに対し、小松は複雑な表情を浮かべていた。最初は遠慮していた瑞貴も、持ち前の技術と性格と厨房でただ一人の女性のため、今じゃ他のシェフたちに大人気である。


「最初は瑞貴さんとみんなが仲良くなって嬉しいと思ったのに、今じゃ複雑だなんて……僕って心が狭いのかな……？」

〈ユン？〉


小松はユンと目を合わせるようにしゃがみながらそう言うと、ユンはよくわからないというように首を傾げた。


「小松シェフ！　出ましたよ、今月号！」

「あっ！　月刊グルメ！」


入れ替わりで入ってきた別のシェフは、小松に『月刊GouRMET』を渡した。それを受け取った小松はさっそく椅子に座り、テーブルに雑誌を広げる。


「出た！　今月の世界料理人ランキングベスト100！」

〈ユ～ン〉

「ハァ～今月も調理王・ザウスシェフが１位か～。う～ん……上位陣は安定してる。やっぱスゴいなぁ～……――あっ、『99位・大竹』……？」

〈ユン？〉

「大竹って……もしかして！」


世界料理人ランキングで99位の名前にある『大竹』――小松はその名前を見て目を見開いた。



☆☆☆☆☆


寄付が終わって私は島の状況を見るために回っている。最初は捕獲レベルが２以下とはいえ島に住む猛獣に怯えて飢えを凌ぐか凌げるかわからないほどだったけど、私が漁や猛獣の捕獲の仕方のコツ、そしてここの土で育つ作物の種を持って来てから活気がついてきた。


「舞獣姫のお姉ちゃん、遊ぼう！」

「俺、猛獣を捕獲するための罠を考えたんだぜ！　見てくれよ！」

「もちろん。でも村長さんとお話があるから、あとでね」


集まって来る子供たちの頭を撫でて、私はこの島にある唯一の村の村長・マシラさんの家に来た。かなりお歳のおばあさんだけど、年齢の割にはとても元気である。


「お久しゅうございます、舞獣姫様」

「だから『様』なんてやめてくださいよ。お久しぶりです、村長」