『つべこべ考えるんじゃねぇ。とにかく無心になれ』

『無心……』

〈アﾞァﾞ！〉

『無意識……』


立ち上がったサニーは目を閉じ深呼吸をする。そして迫り来るフライシャークに触覚を広げると仕留めることができた。


『やるじゃねぇか！』

『まあな。俺(ﾚ)だってそれなりに戦いの経験積んでるし』

『だが……』

〈アﾞー！〉

『えっ!?』


なんと倒したと思ったフライシャークは起き上がり、再び宙を舞い始めた。


『まだ来るか！　ふっ！』


サニーはもう一度仕留めるために髪を伸ばして捕まえようとするが、先ほどのフライシャークは無論、奥で飛んでいた別のフライシャークを捕まえることもできなかった。

愚衛門との実力の違いがわかったのか、フライシャークはサニーに集中して襲いかかるようになった。サニーはかわしながらも倒そうと試みるが隙がなく動けない。すると……！


ズバッ！


愚衛門があっという間にサニーの周りを飛んでいたフライシャークを一閃した。


『とっさにどう動くか考えたな』

『クッ！』


まさにその通りだ。サニーは次こそ仕留めようと思ったのが焦りと考えを生んでしまった。そしてまた愚衛門がボーッとし始める。


『俺は今や初めて会う猛獣はもちろん、水や自然物……目に見えないフェロモンのような気体にまで直観が働くようになった』


そうして全てのフライシャークを愚衛門は一人で片付けていったのだ。



――石や薪で作った釜戸に巨大な大鍋を置き、今回仕留めたフライシャークを捌いてフカヒレスープを作る愚衛門。サニーはフライシャークの骨を見ながら、己の実力の無さに落ち込んでいた。


（水や気体にまで……やっぱり俺には足りないのか？　戦いの経験値が……!?　クッ！）

『よーし、できた！　いただきまーす！　ズズッ……うまい！　これがあるから三途の道の警備はやめられねぇ！　――ん？』


愚衛門はさっそくフカヒレスープをかき混ぜていたお玉で飲むと、真剣な表情をするサニーから悔しさが伝わってきた。


『言っただろ。直観は天性のモノではないと』

『っ……！』

『まっ、戦闘においてはバトルウルフのように天性の直観を持つ者もいるが……基本的には直観力は膨大な訓練と経験が生み出すモノだ』

『膨大な……訓練と経験……』

『ズズッ…ンクッ……早く食っておけ。次の猛獣が来る前にな』

『えっ？』


フカヒレスープをもう一度飲んだ愚衛門はそう告げた。


『ここは多い日で数百匹の猛獣がやってくる。いい修業になるだろう。――お前が考えることをやめたとき、直観と共にその能力はさらに素晴らしい力を発揮するだろう』

『あっ……！』


それはこの三途の道をサニーの修業場として使っていいと了承したのだ。そしてそのために自分が鍛えてあげるということも。