『聞いたことないか？　プロのスポーツ選手や将棋の棋士は最善手を考えるのではなくて、直観で動くと』

『えっ……!?』

『長い訓練や経験から自然と最善の手を選択することができるんだ。プロは考えない……感じるんだ。わかったな？　お前はまだまだアマチュアなんだよ！』

『クッ！　悔しい……なんかムカつく！』


否定したいのにできないのは的を射ているからか、それとも自分のこの様がそれを証明しているからか……サニーはとにかく悔しくてたまらなかった。


〈〈〈〈〈アﾞ――ッ!!〉〉〉〉〉

『またグルメ界から！　今度は大群！』

『おっ！　あれは初めて見るな。空飛ぶ鮫か！』


三途の道の奥から無数に現れたのは、捕獲レベル測定不能の魚獣類・フライシャークである。


『ギャッハッハッハッ!!　喜べ！　今夜はフカヒレスープだ！』

『は、初めて見る奴にも、直観は働くのか？』

『当然だ。直観ってのは決して天性のモノではない。膨大な訓練と経験が生み出すモノ！』

『！』

『俺は昔っからケンカ……戦いに明け暮れる毎日だったからな。その経験が直観を働かせている』

〈アﾞー！〉


一頭のフライシャークが愚衛門とサニーを丸呑みにせんと、大きな口を開いてこちらに向かって来る。


『ボー……』


再びボーッとし始めた愚衛門だが、飛び出したと同時に刀が一閃してフライシャークを倒した。サニーはヘラクレスドラゴンのときも見たが、彼の強さの秘密が直観と知ると尚更驚かずにいられない。


『初めて見る猛獣の急所を、直観で!?』

『フカヒレスープ、おかわりし放題ってところだな。――あっ、調理は任せる。作り方忘れたし。あっ、そもそも知ってたっけ？　それも忘れたし！』

『ハアッ!?　またボーッと……！』


続く言葉が言えないのは、この『ボー』が直観を引き出すためのルーティーンみたいなものだろう。


（よし、オッサンを見習って無意識に……！）


サニーも空に飛び回るフライシャークたちを見つめるが……無意識どころか、逆に考えてしまう。


『……クッ！』

『勘を働かせるには、「無意識になれ」と言っただろ』

『あーダメだ！　考えちまうって！』

『フッ。まっ、言われてすぐにはムリか』

『やっぱ、無意識ってあんたみたいなボーッとしたツラにならないといけないのか？』

『はい？』

『だとしたら……――無意識になるかどうか、メチャクチャ悩むんだけど！　ボーッとした顔って美(ﾂｸ)しくなくね～!?　ウウッ！』

『考えてたのそれかよ!?』


こんなときでも美意識を強く持ち、両手を顔に当ててうつむくサニー。愚衛門は呆れることもできない。


『ボー……』

『その顔、アウトじゃね？』

『やっぱボーッとムリ……。美(ﾂｸ)しくねー……』


実際にやってみたものの、愚衛門にツッコまれるほど完璧にだらけきった表情になってしまった。