「さっきも言ったように貴重なモンなんだ。味わって食えよ」

「いいの？」

「もちろんさ」

「あー！　なんで瑞貴にはよくて俺にはダメなんだよ！」

「瑞貴とお前(ﾏ)なんて、比べるほうがおかしくね？」


言い争いを始めちゃったので、私はミラーライチの中身を取り出すと半分に割り、鱗にしがみついている小松さんの口元に持って行く。


「はい、小松さん。口開けて」

「えっ!?　瑞貴さん!?」

「その体勢じゃ、片手を出すのも難しいでしょ？　だから食べさせてあげる」

「あっ、その～……いただきます！」


やっと小松さんが口を開いてくれたので、私はその中にミラーライチを入れた。そして私も続けて自分の分を食べる。


「んぐっ！　おいしいです～！」

「あむっ。う～ん！　この甘みがなんとも言えないね！」

｢｢あー！｣｣


今度はトリコとサニーがこっちを見て叫び出した。いったいなんなの？


「おい、小松！　なんで瑞貴に『あーん』してもらってんだよ！」

「えー！」

「瑞貴、俺(ﾚ)があげたのを分けるってどういうことだし!?」

「いや、ちゃんと半分こにして食べたんだよ。おいしかったよ、ありがとう」

｢｢ムー！｣｣


またしても二人そろってふてくされた。だから、いったいなんだってのよ!?


「おー！　あれは焼き肉みてぇな味がするベビービーフ！　フライングナイフ!!」


見事に命中して一枚切り取ってこっちに飛ばすけど、クインが別の方向に動いたから飛んできたベビービーフが通り過ぎてしまった。――だけどそこはトリコの執念がスゴい。ジャンプしてベビービーフをつかみ、木を足場にして戻って来た。


ドスンッ！


「あっ、あー！　ちょちょちょー！」

｢｢｢あっ！｣｣｣


トリコが着地した反動で小松さんが手を離してしまい、どんどんうしろへ下がって行く。するとクインが体を使って胴体を小松さんに当ててこっちに向かって飛ばす。


「って、嘘でしょ～～っ!!　トリコさ～～ん!!」


悲鳴を上げながら小松さんがこっちに戻って来ると、トリコがその場を退いたおかげで小松さんは鱗の座椅子に着地するのだった。


「お帰り、小松さん」

「勘弁してくださいよ……」

「いや、サニーがこいつの動きを急に変えるから悪いんだ！」

「肌にいいコラーゲンたっぷりのコラーゲンキノコがあったんだ！　仕方ねーだろ？　あむっ！」


コラーゲンキノコを食べた途端、サニーの肌がいつもより煌めいていた。


「つーか、僕もう限界ですよ……」

「ここまで来て意識を飛ばさない小松さんは充分スゴいと思うよ」


一般人ならスピードアップした時点で気絶してもおかしくないしね。小松さんも本当にトリコとの旅で鍛えられているね。――いろいろと。

それからもクインは爆走してついに森を抜けることができた。曲線を描くように飛び出すと、下の景色はまだ森がいっぱいあって、間には湖や川が流れている。そしてその奥にはたくさん連なっている山々も見えてきたとき、クインが動きを止めた。


「着いたぜ――『モルス山脈』だ！　標高１万５千メートルを超え、人間界で第５位の高さを誇る山脈！」

「この山の麓に、サンサングラミーが住むデスフォールがあるのね……」


思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。死の滝とも言われるデスフォール……いったいどんな所なんだろう？