ニワトラの卵! よっち爺さんと妻の記憶
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「わしは……わしは何をしとったんじゃ……! 銭ばかり追いかけて……わしは……最低じゃ……!」
「……美食屋は手段であって、目的ではない。一番大切な『食を楽しむこと』を忘れていたんだな」
私もそんな場面を何度も目撃している。被災地や貧しい国に食材を配ったり料理を作ってあげると涙を流す人が大半だった。一般家庭でもできる料理だとしても、『食事ができる』ということに感動していたからだ。
だからこうして『食事ができる今』と『食を楽しむ今』を決して忘れてはならない。
「女房が好きだった食材は、情けないことにたった一つしか思い出せんかった……。それがニワトラの卵じゃ……。女房はいつもおいしそうに食べとったよ……。ニワトラの雛を見つけたときは運命だと思った……。何故ならそこは――女房と初めて二人で食事をした場所。しかも――」
『まろやかな中に強い腰がある味、本当においしいわ』
「一緒に食べたのはニワトラの卵じゃった。そんな思い出があったから、わしは思わず女房が生まれ変わったと思った。女房の名は『美子』――雛に『ミーコ』と名付け、わしは育てようと決めたんじゃ。今度こそ大切に…大切に…片時も離れないように。五十年以上も前の話じゃがな」
……美食屋も引退して、ずーっとニワトラに付きっきりだったから当然しのぎもなくなった。
「土地を少しずつ手放して食いつないでおったら、あのひと坪だけ残ったというわけじゃ」
「それで……強暴なニワトラも懐いたんですね……」
「あのニワトラ――ミーコにとってよっちさんは親も同然だったんだ……」
「そんな大切な土地を、何故今回手放そうと?」
「簡単じゃ。――わしももうすぐ死ぬからな」
「「「ええっ!?」」」
「よっちじいさん、死ぬって……!」
「フッフッフッ、驚かんでいい。わしも自分の命の終わりくらいわかる。それで思いきってあのひと坪を誰かに譲ろうかなと」
確かにおじいさんだけど、こんなに元気に見えるのに!? 一緒に料理をしたりこうして話したりしたけど、そんな雰囲気は微塵も感じなかった。
「ところでトリコや。お主ら、いくら用意したんじゃ?」
「俺らは――100万だな」
「「ええっ!?」」
「小松が宝くじで当てた」
「あっ、いや、あの……」
「ひゃ、100万?」
トリコがサラリと言った金額に私たちだけでなくよっちさんも目を見開いている。じゃあ、このデッカいジュラルミンケースは!?
「でもトリコさん、あの100万は瑞貴さんにも何か買ってあげるためのお金でもあるんですよ!? ここに来る前に言いましたよね!」
「あっ! そういやそうだった!」
「いや、私は構わないよ。特に今欲しいのはないし、小松さんのその気持ちだけで嬉しいから」
「瑞貴さん……」
「それよりトリコ! あんたが持ってきたケースにお金入ってないの!?」
「ん? これは、じいさんへの土産のビックリアップルだよ」
「「えー!」」
トリコが開いたジュラルミンケースの中には、大量のビックリアップルが入っていた。
ということは、もともと無一文でここに来る気だったの!? そういやトリコが大金を現金で使ったところを見たことがない……。防犯関係もあるだろうけどいつもカードだったからね……。
「……美食屋は手段であって、目的ではない。一番大切な『食を楽しむこと』を忘れていたんだな」
私もそんな場面を何度も目撃している。被災地や貧しい国に食材を配ったり料理を作ってあげると涙を流す人が大半だった。一般家庭でもできる料理だとしても、『食事ができる』ということに感動していたからだ。
だからこうして『食事ができる今』と『食を楽しむ今』を決して忘れてはならない。
「女房が好きだった食材は、情けないことにたった一つしか思い出せんかった……。それがニワトラの卵じゃ……。女房はいつもおいしそうに食べとったよ……。ニワトラの雛を見つけたときは運命だと思った……。何故ならそこは――女房と初めて二人で食事をした場所。しかも――」
『まろやかな中に強い腰がある味、本当においしいわ』
「一緒に食べたのはニワトラの卵じゃった。そんな思い出があったから、わしは思わず女房が生まれ変わったと思った。女房の名は『美子』――雛に『ミーコ』と名付け、わしは育てようと決めたんじゃ。今度こそ大切に…大切に…片時も離れないように。五十年以上も前の話じゃがな」
……美食屋も引退して、ずーっとニワトラに付きっきりだったから当然しのぎもなくなった。
「土地を少しずつ手放して食いつないでおったら、あのひと坪だけ残ったというわけじゃ」
「それで……強暴なニワトラも懐いたんですね……」
「あのニワトラ――ミーコにとってよっちさんは親も同然だったんだ……」
「そんな大切な土地を、何故今回手放そうと?」
「簡単じゃ。――わしももうすぐ死ぬからな」
「「「ええっ!?」」」
「よっちじいさん、死ぬって……!」
「フッフッフッ、驚かんでいい。わしも自分の命の終わりくらいわかる。それで思いきってあのひと坪を誰かに譲ろうかなと」
確かにおじいさんだけど、こんなに元気に見えるのに!? 一緒に料理をしたりこうして話したりしたけど、そんな雰囲気は微塵も感じなかった。
「ところでトリコや。お主ら、いくら用意したんじゃ?」
「俺らは――100万だな」
「「ええっ!?」」
「小松が宝くじで当てた」
「あっ、いや、あの……」
「ひゃ、100万?」
トリコがサラリと言った金額に私たちだけでなくよっちさんも目を見開いている。じゃあ、このデッカいジュラルミンケースは!?
「でもトリコさん、あの100万は瑞貴さんにも何か買ってあげるためのお金でもあるんですよ!? ここに来る前に言いましたよね!」
「あっ! そういやそうだった!」
「いや、私は構わないよ。特に今欲しいのはないし、小松さんのその気持ちだけで嬉しいから」
「瑞貴さん……」
「それよりトリコ! あんたが持ってきたケースにお金入ってないの!?」
「ん? これは、じいさんへの土産のビックリアップルだよ」
「「えー!」」
トリコが開いたジュラルミンケースの中には、大量のビックリアップルが入っていた。
ということは、もともと無一文でここに来る気だったの!? そういやトリコが大金を現金で使ったところを見たことがない……。防犯関係もあるだろうけどいつもカードだったからね……。