超重力! ヘビーホールを攻略せよ!
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メルクさんはリュックに入っていた包丁を切り株のテーブルに出す。それはかなりの量があった。
「これ全部包丁ですかー!?」
「いろんな形がありますね~!」
「ああ、そうだよ。世界中の料理人から研ぎの依頼を予約されてた包丁だ。だいたい一日百本近く届くかな」
「百本!? あ~……そりゃ僕の包丁は三年後なわけですね……」
「フフッ。包丁を見ると、だいたい誰の物かわかるよ」
「ええっ!? ホントですか!?」
「スッゴいです!」
似たような包丁も中にはあるのに、メルクさんは誰がどれを使っているのかわかっているんだ。
「さ、触ってもいいですか……?」
「気をつけて」
「小松さん、落としたら弁償じゃすまないですよ」
「瑞貴さん! 余計なプレッシャーかけないでくださいよ~!」
だって事実だし、気を付けておいて損はないと思う。小松さんは恐る恐る一本の包丁を手に取った。
「た、例えばこの、重厚な輝きを放つ包丁は、いったいどなたの……?」
「それは『ガッツ』のオーナー・ルルブーシェフが使ってる奴だ」
「ガ、ガガガガガッツゥ!? グルメタワー最上層階312階、七ツ星の料亭『ガッツ』! そのオーナーシェフ・ルルブー氏の使ってる包丁!? おおっ……なんと恐れ多い……! カリスマ料理人の包丁を手に取ってしまった……!」
おいおい。さっきまで普通に持っていたのに使い手が誰かわかると今度こそ震えているぞ、小松さん。
「この三日月のような包丁はどなたのですか?」
「これは『土竜』のゆうじ氏の包丁」
「ゆうじ氏って確か――」
「えー!? グルメの下町・グルメ横丁で八ツ星ホルモン焼き『土竜』! その店長・ゆうじ氏ですかぁ!?」
私が尋ねたのに、小松さんが一番驚いているぞ。しかも台詞を遮られたし。
「ちょ、超有名な方々の包丁ばっかりだ……! さすがメルクさんの研ぎ――信頼がハンパないですねぇ……!」
「ほとんどは先代からの常連だよ」
「こういう包丁の見分け方も、先代メルクさんから教えてもらったんですか?」
「いや。師匠は包丁とのみ向き合う人だったから、依頼人が誰なのかを知らないし特に興味も持たなかったと思うよ」
メルクさんはタライの中に水を入れて浸していた砥石を取り出した。
「でも俺は正直興味ある。これだけ立派な包丁を、いったいどんな料理人が使っているのか……。小松シェフの折れた包丁や瑞貴シェフが使った包丁を見たときも、そう思ったよ」
「「えっ?」」
「こんなに愛情を込めて使う小松シェフと瑞貴シェフって、いったいどんな人なんだろうって」
「「…………!」」
笑顔で言うメルクさんに私と小松さんは思わず顔を見合わせてしまった。調理しているときも思ったけど、折れた包丁や使っている包丁を見て、年月や愛情の深さまでわかるなんてメルクさんはスゴ過ぎる!
メルクさんは石段の上に砥石を置き、自らは向かい合うように座った。
「使う人のことが気になるのは、俺に集中力が足りない証拠かな? 先代に比べて、まだまだ半人前なのかもしれない」
「そ、そんなことないですよ! 包丁はやっぱり使う人の癖とかいろいろ出ますから!」
「私も自分の包丁に愛情を注いで、どのくらいの付き合いなのかって見るだけで分かってくれたので、とても嬉しかったです!」
「師匠は……ただひたすら、良い包丁のみを求めていた」
最初に手に取ったのは刺身包丁。パッと見だと傷や欠けてもないし未だに綺麗に輝いているように見える。
「き、綺麗な包丁ですね~……」
「もうほとんど、研ぐ必要もないような……」
「この包丁は、名店・『魚奇』の板前が使う刺身包丁。デリケートな特殊調理食材を多く扱う店だ。1000分の1ミリ単位の傷が調理に大きく影響する」
……通常だと肉眼ではよく見えないが、この包丁にはメルクの言う1000分の1ミリの傷ができている。研ぎ師をやっているメルクにはそれを見えていた。