トリコと小松さんはそれぞれ最後の一枚を手に取り、私たちは顔を見合わせて頷く。


「いくよ、二人共」

「はい」

「息を合わせろよ」

「せーの！」


ベリッ！　パアアァァアアア――！


最後の一枚をそれぞれが剥いたとき、中心に綺麗に丸まっていた一枚の葉が現れた。


「こ、これが！」

「オゾン草……！」


トリコも私も小松さんも感動していると、丸まったオゾン草が包む葉がなくなったせいか葉を広げた。どれだけの水分があったのか水飛沫になって飛び散る。


「少し動いただけで、なんて水飛沫！」

「ほとばしるみずみずしさです！」

「肌に当たる度に気持ちいい！」

「スゲー……なんて肉厚の葉！　しっかり実が詰まって、今にもパンクしそうだ！」

「うわー……！　よく見ると葉脈が光って、脈打ってますよ！」

「耳を澄ますと、葉の鼓動が聞こえてくるみたい！　こんなイキイキとした野菜、初めて見た～！」


キャベツや白菜と違ってたった一枚しか食べられない葉なのに、この一枚が全ての葉のおいしさを詰め込んだものだと思ったら味への好奇心のドキドキが止まらない！


「サンサンと降り注ぐ太陽の光、ミネラルいっぱいの灰の雲の栄養分、たっぷりと吸収した葉だ！」

「トリコさん！　ヨダレ、ヨダレヨダレ！」

「あっ！」


近くで匂いを嗅いだトリコがヨダレを垂らしたので小松さんが注意すると拭った。まあ、私もさっきのように味への好奇心があるからわからなくもないよ。


「アハハッ、葉一枚だけでも充分いい匂いだもんね」

「ああ。異常なまでに食欲をそそる新鮮な食物の香り……いや、食欲をそそるって言うより、まるで俺の体が一方的に欲しているようだ！」

「『一方的に欲している』？　ねぇ、この食材はもしかしてトリコにとって！」

「たぶんな……――いや、間違いねぇ」


今までだってトリコの食欲はトリコ自身が欲していたけど、食べる前からここまでなんて滅多にない。私が思い浮かべた過程を、トリコも感じてくれたみたい。


「さっそくいただこうぜ！」

「えっ？　でも、これは会長に……」

「取り出し方はわかったんだ。会長(ｵﾔｼﾞ)に持って行く奴はまた収穫すればいいだろ？」

「さっきと言ってること違うし……」

「大丈夫だよ、小松さん。幸いまだオゾン草はあるんだし、一龍会長だってトリコに『フルコースのサラダに』ってオススメしてたくらいだもん」

「そういうこった。まずは俺らで味見だぜ」

「……はい！」


小松さんも小松さんで味が気になるようだ。眉は下げたけと、それ以上に反論することなくトリコに賛成する。


「今回オゾン草を捕獲できたのは、小松と瑞貴のおかげだ。お前らが先に食え」

「私はあとでいいよ。合図出しただけだし、作業していた小松さんが先に食べるべきだって」

「えっ？　ああ、いやいや、トリコさんがいなければこの雲の上まで来られませんでしたし、ここは当然トリコさんから――」

「そうか！　よしわかった！」

｢｢全然遠慮ないし……｣｣


いや、確かに先に食べたらいいって言ったけど、譲ったのは最初だけでトリコは意気揚々とオゾン草に顔を近づけた。