目的のルートには川を渡る予定だったらしく、温泉鮫のいる川にある橋をトリコたちが渡っていると鉄平が他の温泉鮫の説明をしてくれる。


「ちなみに、こっちの温泉には免疫テトラが泳いでいる。体の中のどんなウィルスも吸い出してくれる魚だ」

「ここはなんだ？」

「美白湯(ﾄｳ)さ」

「美白？」

「ああ。この温泉にはメラニングラミーが泳いでるんだ。確かその魚が肌の黒ずみを吸い取ると美白になるらしい」

「フ～ン、サニーが好きそうだな。今度教えてやっか」


川に渡った先にある『美』と書かれた東屋(ｱｽﾞﾏﾔ)のような温泉を鉄平が説明すると、トリコは美にうるさい四天王・サニーが好みそうだと思った。……その温泉に、カラフルな長髪をした一人の男が入っているとは知らずに。


「フ～フフン～極楽～～。ふっ！」

｢｢どわっ!?｣｣


髪を下ろしたまま縁にもたれかかっていたので、起き上がったときに髪に付いていたお湯が反射で外にいるトリコや鉄平たちにかかってしまった。


「なんだ!?」

「ごめっ！　――あっ！」

「あっ！」

｢｢サニー/トリコ!?｣｣｣


噂をすればなんとやらというのか、温泉に浸かっていたのはサニーだった。サニーもトリコもお互いの存在に驚く。

――マザーウッドに併設されたカフェにサニーも含めて全員移動し、再会の喜びと共に休憩をする。


「まさかお前とこんなとこで会うとはな、サニー。どっか、怪我でもしたのか？」

「ンなわけねーし」

「お待たせいたしましたー。キューティクルベリーでございます」


店員が運んできたのは、人工栽培も可能だが自然界では捕獲レベル20の果実類・キューティクルベリーだ。


「おお～！　食べると髪の毛がツヤツヤになるイチゴか！」

「ライフは別に怪我や病気を治すためだけに来るとこじゃねーし。もぐっ、こうやって美容に良い食材のために来る価値ＭＡＸじゃね？」

「ハッ、美容目的かよ。四天王・サニーがこんなナヨナヨした貧弱くんとはな」

「あ？」

「やめとけ、マッチ。髪(ﾍｱ)パンチでぶっ飛ばされっぞ」

「フンッ」


初対面のマッチに言われてサニーは少し反応したが、トリコが止めたことにより髪(ﾍｱ)パンチを出さずにすんだ。


「つか、トリコ。お前(ﾏ)も一人だったか」

「ん？　どういうことだ？」

「前に瑞貴をライフに誘おうとして断られたんだ。てっきり一緒にいるかと思ったが……杞憂だったようだし」

「瑞貴さんなら、ついさっきまで僕たちと一緒でしたが……」

「何ー!?」


ホッとしたサニーだが、滝丸のひと言により眉をしかめてトリコに怒鳴りかかる。


「トリコ！　お前(ﾏ)、また抜け駆けかよ！」

「いいだろ別に！　それに今回は瑞貴自身がちゃんと了承したから文句言うな！」

「てか、その肝心の瑞貴はどこだ!?」

「今、小松とホテルグルメに向かってる」

「今度は松かよ!?」

「……まさか四天王サニーまでとはな」

「……僕、勝てる自信がなくなりそう」


二人の言い合いでサニーが瑞貴に好意を持つと知ったマッチと滝丸は、どれだけ瑞貴が大勢の男に好かれているかわかったと同時に複雑な気持ちでいた。


「あのお嬢ちゃんのどこがいいんだか。確かに顔は可愛いほうだけど」

「お前、それを瑞貴が聞いたら本当にぶっ飛ばされっぞ」

「それは勘弁。……だけど」


鉄平の脳裏に浮かぶのは、アイスヘルでトリコの無事を見て弱々しく笑う瑞貴の表情だ。ここに来るまでも強気で明るい表情ばかり見ていたせいか頭から離れなかった。


「鉄平？」

「いや、なんでもねぇ。で……――本当に、それだけが目的か？」

「ん？」

「俺は何人も美食屋を見てきたかわかる……。お前の目は完全な何かを狩りに来ている目だ……」

「…………」


図星なのかサニーはそのことについて言い返すこともなく、ジッと鉄平を見据えたが……。