瀕死状態だった自分の前に宝石の肉(ｼﾞｭｴﾙﾐｰﾄ)がすがを見せた。トリコはそれに感謝することと食す以外の感情はなかった。


「おおっ……ありがとう！　古代の食宝・リーガルマンモスよ！　そして……この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます！」


両手を合わせて挨拶したトリコは、もう一度宝石の肉(ｼﾞｭｴﾙﾐｰﾄ)に手を伸ばして触れる。今度は感触も味わうかのように。


「柔らかい……しっとりと肌に吸い付くようだ……！　ナイフ……！」


トリコがナイフで宝石の肉(ｼﾞｭｴﾙﾐｰﾄ)を少し切ると、輝く肉汁が飛び散った。それすらも目を奪われる。


「スゲェ……飛び散る肉汁が、まるで線香花火みてぇだ！　あーむ……」


一切れの肉を一気に口の中に入れると……まるで電流が走ったかのような衝撃にトリコは目を見開いた。そして味わうように噛んでいき涙を流すと飲み込んだ。

その味と食感に感動したトリコは大量の涙と鼻水を流していく。


「あぁ～うめぇ～……うめぇ……！　うっめぇ――っ!!」


今度はナイフで切らずに宝石の肉(ｼﾞｭｴﾙﾐｰﾄ)にかぶりついた。まるで野生の本能の赴くままに。


（さっきの部位はしっとり柔らかかったが、ここは逆にワイルドな歯ごたえ！　砂肝を噛んだようなゴージャスな快音！　同時に口いっぱいに溶け出す肉汁のうまみとコク！　たまらねぇ……たまらねぇ！）

「あっ!?」

〈クポッ!?〉


宝石の肉(ｼﾞｭｴﾙﾐｰﾄ)を噛む度に、トリコの筋肉が膨れ上がったのをティナとクルッポーは見た。



☆☆☆☆☆


……一方、トリコを吹っ飛ばしたＧＴロボはキャノン砲の口を閉じて涙を流す小松と睨みつけるリンを見る。


《結局オ前ラガ一番利口ダッタナ、小僧、小娘》

「あ、あわわ……！」

「っ！」


再びフレグランスバズーカを構えようとしたリンだが、ＧＴロボが顔を向けると動きを止めた。最初から自分じゃ勝てないことは予想していたが、その迫力に体が動かなかった。


《慌テナクトモ、人間ハソノ内死ヌ。ワザワザ死ニ急グ必要ハナイノダカラナ。――ン？》


ＧＴロボは落としたショックで、小松のリュックから散乱した物の中からグルメスパイサーを見つけて手に取る。


《オ前、料理人カ》

「あ……！」


ポイッと投げ捨てたグルメスパイサーは、小松がトリコにおいしいものを作ると約束した大切な品だ。それを存外に扱われて涙を流しながらも目を見開く。


《イイ包丁ダ。包丁ヲ見レバ料理人ノ腕ハ大体ワカルガ……ナルホド、一流ノ料理人ダッタカ。サラニ腕ヲ磨クガイイ。イツノ日カ、我々美食會ニトッテ利用価値ノアル存在ニナルコトヲ祈ルゾ。コノ包丁ハ私ガモラッテオコウ。フフッ、使エソウダ。ソシテ……》


小松の包丁を持ったＧＴロボは次いで倒れている瑞貴に顔を向けるとそばに座り込み、瑞貴のリュックの中から包丁を取り出した。


《コノ包丁モイイ。コノ小娘モ料理人カ？　洞窟ノ砂浜ノトキモソウダッタガ、ナカナカ面白イ技ヲ使ウナ。コイツハ美食會ニ連レテ行ッテ調ベテモラオウ》

「なっ！」


リンは瑞貴の笑顔を思い出した。自分と友達になってくれて、身を犠牲にしてまで守ってくれる大切な人だ。その瑞貴が連れ去られてしまう。


ドクン……ッ!!


その際、瑞貴の心臓が高鳴ったことは誰も知らなかった。