（っ、パパ……！）


観客席から自分を見る両親……特に陣介の視線に真名部は視線を揺らしながら過去を思い出した。


『なんだこの解法は。グラフを用いる方法を使えば５分は短縮できたはずだ。ただ答えを出せばいいというモノじゃない。効率よく解答を導き出さなければ。まったく……この程度の問題に手間取るようでは、先が思いやられる』

『……ごめんなさい』


どんなテストで100点を取っても、解答方法に問題があれば指摘をして呆れられる。陣介が指摘したその解法は正しいモノで決して理不尽ではないが一度たりとも褒めてもくれないのだ。


「クッ……！」

「真名部……？　あっ！」


ギュッと目を閉じて首を振る真名部に天馬は不思議に思うと、タムガンがゴールに向かっていることに気づいて顔を向けた。


「うらああっ！」

｢｢あっ！｣｣


ジャンプしたガオランはそのままボールを蹴ったので皆帆と真名部はハッとする。ボールは真っ直ぐ好葉に向かっているがいるが、また曲がる恐れがあると思い真名部は即座に計算に入った。


「ボールの回転数、先ほどと同じパターン！　そのボールは右に曲がります！」

「！」


真名部の指示を受けて好葉は右に走っていくが、ボールはなんと全く逆方向に曲がったのだ。


「ああっ！」

「逆!?　そんな！」

「うおおおっ！　ふっ！」


好葉が驚いて真名部がショックを受ける中、飛び込んできた九坂がヘディングでボールをラインの外に出したのでピンチは脱出できた。


「九坂くん……！」

「へっ！」


自分のミスをカバーしてくれた九坂に好葉は微笑むと、九坂はニッと笑い親指を立てて返した。

しかし計算に慎重深い真名部にしては早急過ぎなのではと思い、皆帆は顎に手をかけながら真名部に声をかける。


「どうしたのかな、真名部くん？」

「っ、君が余計なことを僕に伝えさえしなければ！」

「真名部くん？」

「…………」


声を荒げる真名部に皆帆は不思議に思うと、真名部は皆帆の後方の観客席にいる両親に視線をやる。


（パパ……）

「真名部くん？」

「！」

「もしかして、お父さんと……」

「君には関係ありません！」


図星を突かれた真名部は再び声を荒げてポジションに戻る。だが、それを見た皆帆は何故か笑っていた。

真名部の計算ミスが始まったのはこれだけではなかった。ドリブルするサラナに向かってさくらが走り出すと、真名部は声を上げる。


「右です！」

「あっ！」


真名部の指示通り右に向かったさくらだが、サラナは左にかわしたのだ。真名部の両親……特に陣介は真名部の一挙一動を黙って見据えていた。

次に真名部はボールが回って来たのでドリブルしていると、ガオランがスライディングをかけて来た。


「ホワッチャオ！」

「この速度ならかわせる！　――うわあっ！」


ガオランのスライディングに真名部はかわせず、ボールを奪われてしまった。


「右……いいや、左です！」

「だあっ！」

「フッ」

「そんな……！」


ナパのドリブルに鉄角がスライディングを入れるが、ボールを左に持って軽々とジャンプでかわされてしまった。

度々と起こる計算ミスに、真名部はショックを受けて両膝を地に当てて座り込むと、両手を膝に当てて体を震わせる。


「僕の計算は……完璧なはずなのに……」

「真名部くん」

「！」

「確かこの間、君はこう言ったよね。『親なんてみんな、自分の価値観を押し付けて子供を支配することしか考えてないんですよ』って」

「っ……」


出張から帰ってきた両親と再会したあとの自分の台詞を言われ、真名部は顔を逸らしたが皆帆は顎に手をかけたまま言葉を続ける。


「あのときの言葉と、両親が観客席にいると知ってからの君を見てわかったよ。君は両親に……いや、お父さんに自分のことを認めてもらいたい、そう思ってるんじゃないかな」

「根拠もなく、憶測だけで言わないでほしいです」

「君はお父さんを嫌っているんじゃない……――お父さんの期待に応えられない自分が嫌いなんだ」

「っ！」


そう断言した皆帆に向かって、真名部は力強く睨みつけた。