オフェンスチームもディフェンスチームも一進一退の攻防が続き、それぞれがいい動きをし始めて来ている。次いでボールを持つ真名部陣一郎がさくらと競り合うと皆帆が声を上げる。


「こっちだこっち！」

「こっちじゃわかりません！　もっと正確に言ってください！」

「ああっ、正確にって……」

「ふっ！」


その隙を逃さず、さくらは足を伸ばして真名部からボールを奪った。サポートに入ろうとした皆帆が駆け寄ったが一歩間に合わなかった。


「遅いですよ！」

「そんなこと言われても……」

「――皆帆！　真名部！」

｢｢！｣｣

「気にすんな！　取り返していくぞ！」

「あ、ああ」

「だね！」


険悪な空気になると思ったが、鉄角が励ましの声を上げたので二人の表情に笑みが戻った。

声をかけ合うこともチームにとって大きな変化だと天馬は思う。


（みんな、ちょっとずつだけどまとまってきている……うん、いけるよ！　このチームなら！）

「九坂！」

「あっ……」


さくらがサイドを走る九坂にパスを出すが、九坂はボールを取り損なってしまった。


「惜しい惜しい！　いい感じだぞ！」

「ハハハッ……――」


励ます天馬に苦笑して返す九坂。しかしポジションに戻るとき、どこかその表情が思わしくないことに気づいたのは誰もいなかった。

――休憩を挟みつつ、練習は夕方まで続いていった。ドリブルする天馬はゴール前の剣城京介にパスを出す。


「剣城！」

「はあっ！」

「来い、今度こそ止めてやる！　ふっ！」


ガンッ！


「がっ！」

｢｢｢｢｢！｣｣｣｣｣


剣城のシュートをパンチングで跳ね返したが、勢いのあまりゴールポストに右肩をぶつけてしまった。


「大丈夫か!?」

「ああ……」


駆け寄る鉄角に井吹は右肩を左手で抑えつつ口角を上げて応えると、次いで自分を一瞥して去って行く神童を見て歯を食いしばった。


「よーし！　今日の練習はここまでにしよう！　みんな、明日に備えてゆっくり休んで！」

｢｢｢｢｢はい！｣｣｣｣｣

「…………」


天馬のかけ声に返事をしたメンバーは少しその場で休憩したり、今日の練習について話し合ったりなど行動が様々だ。しかし九坂だけフィールドに残りボールをジッと見つめていた。


「井吹くん、手当てするからちょっと来て」

「別にこれぐらいなんともな――……イテテテッ！」

「来・な・さ・い」

「ハイ……」


自分を呼ぶ瑞貴になんともないと井吹はその場を去ろうとしたが、瑞貴が容赦なく痛めた右肩をつかんで抑えつけ、さらに有無を言わさない迫力で告げたため井吹は逆らうことができなかった。


「井吹、瑞貴さんに逆らうと明日の練習が個人別として倍になるぞ」

「京介くん、人を常に職権乱用するような言い方するのやめてよ！　あっ、拓人くん。今日の練習はパス回しがよかったけど、次はもう少し前にボールを出しても大丈夫だと思うよ」

「はい、わかりました」

「…………」


手当ての道具を取り出しながら瑞貴は剣城と神童にそれぞれ言うと、肩を抑える井吹がジッと自分を見ていることに気づいた。


「さっき強くつかみ過ぎた？　まだ痛い？」

「いえ……あの、俺のことも名前でいいですよ」

「どうしたの？　急に？」

「なんか雷門や女子の奴らと差を感じるんで」

「差別したつもりはないんだけど……」


瑞貴が天馬たち雷門メンバーに名前を呼ぶのはいつものことだし、さくらや森村好葉は同じ女として自然と出たようなモノだ。

それに井吹が差別を感じるなんて珍しいと思ったが、中学生は難しい年頃でもあるので特に追及することはなかった。むしろ名前で呼んでいいと許可をもらえただけで充分である。


「わかった。宗正くん……でいいかな？」

「はい」

「――それなら僕のことも名前で呼んでください、瑞貴さん」

「――名を呼ぶことは仲間意識の表れが強く出ますからね」

「――んじゃ、俺も便乗するかな」

｢｢！｣｣


横から声が掛かって顔を向ければ、眼鏡を押し上げる真名部と顎に手を当てている皆帆とドリンクを持つ鉄角がそこにいた。井吹に乗じてかもしれないが、少しずつメンバーが自分に心を許してくれるのを瑞貴は嬉しく感じる。


「それじゃあ陣一郎くん、和人くん、真くんだね。改めてよろしく」

｢｢｢｢はい！｣｣｣｣