――時間になって両チームはそれぞれポジションに着く。先攻はイナズマジャパンからだ。


《さあ一回戦を勝ち上がって来たビッグウェイブスとイナズマジャパンの一戦！　まもなく試合開始です!!》


ホイッスルが鳴ると同時に剣城が蹴ったボールを天馬が受け取ってドリブルしていく。試合が始まったので井吹もまた構えていると、神童がペナルティエリア内までやって来て背を向けてきた。


「神童、下がり過ぎだ！」

「ここでいい」

「クッ！」


やはり神童はゴールを任せるつもりはないようだ。それがわかった井吹は歯を食いしばる。

ドリブルする天馬の前にコールが立ち塞がり、天馬はかわそうとするも抜けれない。


「お前たちの戦力はすでに掌握している！」

「っ、ファイアードラゴン戦のことか！」

「お前たちは……我々が必ず倒す！」

「あっ！」


コールが足でボールを弾くと、天馬が反応する前にコールがいち早くボールを追いかけた。


「クッ、手強いな！」


序盤から激しい攻防が続く。しかしイナズマジャパンは脱退試験のあと本格的な特訓を受けたとはいえ、まだ付け焼刃も同然なので今回も苦しい戦いが続いている。ドリブルするさくらの前にスクィド＝ホワイトが立ち塞がり、ボールをラインの外に出した。

イナズマジャパンのスローイングになるので、さくらがボールを両手に取ると、ふと昔のことを思い出す。


『あっ……』

『もう一度！』


幼少期の頃からさくらは母親に新体操の練習を強いられてきた。失敗しても成功するまで何度も続けるよう言われる。


『グスッ…ウウッ……できないよぉ……』

『泣いている暇なんかないわ。続けなさい。あなたは世界一になるのよ！』


涙ぐむさくらに母親は厳しい口調で告げた。そして自分は今、競技は違えど世界と戦う舞台にいる。


（世界で…一番に……！）


近くにいるチームメイトはそれぞれビッグウェイブスのマークがついている。しかし鉄角真はロブ＝スタークのうしろで華麗なフットワークをしてマークから抜け出すと、それを見たさくらが真っ直ぐボールを渡した。


「こっち！」

「オウッ！」

「……フッ」


さくらの声かけにより鉄角はボールを上げる。しかしニヤリと笑ったさくらはわざと走るテンポを一歩遅くすると、ボールは少し前に落ちてしまった。

パスミスと判断されて瞬木をマークしていたマーシャがボールを追いかける。するとさくらは新体操の演技のように華麗な動きでマーシャよりも先にボールを取った。その動きに天馬も瞬も雄太も声を上げる。


「あっ！　そんな……！」

「スゴい！」

「何!?　今の何!?」

「あの姉ちゃん、カッコいいー！」

《野咲、抜群の身体能力でピンチを救ったー！》


ホッとした顔をするさくらはチラリと観客席を見ると、両親が微笑んで顔を見合わせて頷いていた。


「やっぱり圧されている……」

「でも、みんなスゴくうまくなっていますよ！」

「そうだといいがな」

「ええ……」

「？」


予想通りの展開だと水川みのりが言うと、空野葵は上達ぶりに目を見張っていた。しかし黒岩流星と瑞貴は未だ厳しい表情のままだった。


「キャプテン！」

「ああ！」

（なんとかこのチームを使いこなすんだ！）


鉄角からパスを受け取った天馬。フィールドにいる以上、素人だらけとはいえ今のイナズマジャパンで勝ち進むしかない。


「勝つために！」


そう言葉にして誓った神童はゴールから離れ、ドリブルする天馬の元へと向かって言った。


「天馬！」

「っ！　はい！」

「神のタクト！」


意図がわかった天馬は神童にボールを回すと、神童は必殺タクティクス・神のタクトを発動させた。神童の手から放たれた光は最初にさくらの近くを通る。


「野咲！」

「えっ!?　私!?」

「走れ！」

「は、はい！」

「九坂！」

「ウ、ウッス！」


さくらも九坂も戸惑いながらも光の示す道を走り、神童からさくらへ、さくらから九坂へとパスが回った。