小さな変化
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「なるほどね……そんなことが試合前にあったんだ」
「でも、瞬木はやっていないって言っているんです。前科があるからって、みんな決めつけて……」
「あっ。それについてなんだけど――」
「――ダメだと言ったらダメだ!」
「「!」」
瑞貴があることを話す前に突然警備員の声が聞こえきた。天馬と瑞貴が振り向くと、警備員に訴える瞬と雄太を発見する。
「なんでダメなんだよ!」
「関係者以外は入れないんだ!」
「雄太くん! 瞬くん!」
「知り合いかい?」
「チームの弟くんです」
瑞貴が警備員に二人のことを説明している間、瞬と雄太は天馬に詰め寄って来た。
「お前ら! なんで兄ちゃんにボール回さないんだよ!」
「兄ちゃんが、盗みをして捕まったからか!?」
「あっ……」
「…………」
二人の言っていることは当たっていたので、天馬も瑞貴も何も言えなかった。天馬はパスを回しているほうだが、雄太と瞬にとってそれは関係ない。すると雄太は悔しそうに歯を食いしばる。
「いつもそうだ! みんな、捕まったのを知ったら兄ちゃんを白い目で見て……! でも、ホントは違うんだ! ホントは兄ちゃんが盗んだんじゃなくて――」
「――やめろ、雄太」
続く雄太の言葉を制したのは他でもない瞬木だ。現れた兄に瞬が声を上げる。
「兄ちゃん!」
「もういい。観客席に戻ってろ」
「でも、このままじゃ兄ちゃんが!」
「戻ってろ!」
「……わかったよ。行こう、瞬」
親指を立ててうしろの観客席を示す瞬木が次に強い声音でそう言った。有無を言わさないそれに雄太は瞬を連れて言われた通り観客席へと戻って行った。
「瞬木、もしかして君は……!」
「…………」
先ほどの会話で察した天馬が声をかけると瞬木は天馬を見ずに歩を進めた。それを見た瑞貴は動かない天馬の肩にポンッと手を置く。
「行って、天馬」
「瑞貴さん……」
「チームの問題を終わらせる一番の方法は、監督やコーチの言葉じゃなくチームメイト同士なの。そしてチームメイトと寄り添い、背を押し、共に走る――それがキャプテンとしての天馬の役割でしょ?」
「はい!」
瑞貴に背を押された天馬は瞬木を追って駆け出した。その間にチラッと瑞貴を見ると、彼女は前と同じ優しく微笑みながら手を振って自分を見送っている。
(やっぱり、瑞貴さんは瑞貴さんのままだ……)
神童は瑞貴が変わってしまったように言っていたが、今の言葉のように励ましてくれる。天馬には瑞貴が本当に変わったのか、それとも変わっていないのかわからなかった。
そして瞬木に追いついた天馬は走るのをやめて歩きに変え、瞬木にもう一度話しかける。今度はちゃんとハッキリ聞くために。
「何か事情があったんだな」
「…………」
「瞬木、話してくれないかな?」
天馬が再度問いかけると瞬木は黙って階段に腰を下ろしたので、天馬は瞬木を見ながら反対の階段に腰をかける。手摺の柵の間で瞬木の表情は見えないが、話す距離としては充分だ。
「ハァ……――俺たちには親父がいない」
「!」
一つ溜息を吐いた瞬木の口から出た事情に、天馬は驚いて目を見開いた。
「とっくの昔に出て行って、母さんも病気で働けなくて……弟たち、あのときよっぽど腹が減ってたんだろうな。つい食べ物を盗んでしまって。ただでさえいじめられていたのに、もしそれが周りに知れたら……もっ辛い目に遭う……!」
「それで、瞬木が弟たちの代わりに……」
「そのときから、誰ももう、俺のことは信じてくれなくなった」
「瞬木……」
「…………」
話している間、両肘を抱えていた腕が微かに震えていたのを天馬は見た。きっと真名部に責められたときだって震えるのを抑えていたのかもしれない。
弟をかばったことにきっと後悔はしていないだろうが、瞬木は無実でも汚名を持っているため周りの人々から遠巻きにされていたのだろう。それが今回も同じことが起こってしまったのだ。
☆☆☆☆☆
ハーフタイムが終わり、両チームはポジションに着く。瞬木が天馬を止めたことによって他のみんなは真実を知らないが、瞬木にとってそれはどうでもよかった。
(誰がどう思うと構わない。弟のためにも、俺は俺のプレーをするだけだ)
《さあ後半の開始です!! 得点は1対0でファイアードラゴンがリード! 追いつけるか、イナズマジャパン!?》
ゴール前で顔をしかめている井吹を神童は横目で見ていた。前半は思わずよけてしまったものの、ゴールを入れられてしまったので井吹があれだけ豪語していたのにもかかわらず結果がこれだ。
(そもそもお前たちは、この場にいるべき選手ではないんだ)
「まだまだ1点! このまま取り返していくぞ!」
両太腿を叩いた天馬が気合いを入れて声を上げると、ホイッスルが鳴ってファイアードラゴンのキックオフで後半開始。
「でも、瞬木はやっていないって言っているんです。前科があるからって、みんな決めつけて……」
「あっ。それについてなんだけど――」
「――ダメだと言ったらダメだ!」
「「!」」
瑞貴があることを話す前に突然警備員の声が聞こえきた。天馬と瑞貴が振り向くと、警備員に訴える瞬と雄太を発見する。
「なんでダメなんだよ!」
「関係者以外は入れないんだ!」
「雄太くん! 瞬くん!」
「知り合いかい?」
「チームの弟くんです」
瑞貴が警備員に二人のことを説明している間、瞬と雄太は天馬に詰め寄って来た。
「お前ら! なんで兄ちゃんにボール回さないんだよ!」
「兄ちゃんが、盗みをして捕まったからか!?」
「あっ……」
「…………」
二人の言っていることは当たっていたので、天馬も瑞貴も何も言えなかった。天馬はパスを回しているほうだが、雄太と瞬にとってそれは関係ない。すると雄太は悔しそうに歯を食いしばる。
「いつもそうだ! みんな、捕まったのを知ったら兄ちゃんを白い目で見て……! でも、ホントは違うんだ! ホントは兄ちゃんが盗んだんじゃなくて――」
「――やめろ、雄太」
続く雄太の言葉を制したのは他でもない瞬木だ。現れた兄に瞬が声を上げる。
「兄ちゃん!」
「もういい。観客席に戻ってろ」
「でも、このままじゃ兄ちゃんが!」
「戻ってろ!」
「……わかったよ。行こう、瞬」
親指を立ててうしろの観客席を示す瞬木が次に強い声音でそう言った。有無を言わさないそれに雄太は瞬を連れて言われた通り観客席へと戻って行った。
「瞬木、もしかして君は……!」
「…………」
先ほどの会話で察した天馬が声をかけると瞬木は天馬を見ずに歩を進めた。それを見た瑞貴は動かない天馬の肩にポンッと手を置く。
「行って、天馬」
「瑞貴さん……」
「チームの問題を終わらせる一番の方法は、監督やコーチの言葉じゃなくチームメイト同士なの。そしてチームメイトと寄り添い、背を押し、共に走る――それがキャプテンとしての天馬の役割でしょ?」
「はい!」
瑞貴に背を押された天馬は瞬木を追って駆け出した。その間にチラッと瑞貴を見ると、彼女は前と同じ優しく微笑みながら手を振って自分を見送っている。
(やっぱり、瑞貴さんは瑞貴さんのままだ……)
神童は瑞貴が変わってしまったように言っていたが、今の言葉のように励ましてくれる。天馬には瑞貴が本当に変わったのか、それとも変わっていないのかわからなかった。
そして瞬木に追いついた天馬は走るのをやめて歩きに変え、瞬木にもう一度話しかける。今度はちゃんとハッキリ聞くために。
「何か事情があったんだな」
「…………」
「瞬木、話してくれないかな?」
天馬が再度問いかけると瞬木は黙って階段に腰を下ろしたので、天馬は瞬木を見ながら反対の階段に腰をかける。手摺の柵の間で瞬木の表情は見えないが、話す距離としては充分だ。
「ハァ……――俺たちには親父がいない」
「!」
一つ溜息を吐いた瞬木の口から出た事情に、天馬は驚いて目を見開いた。
「とっくの昔に出て行って、母さんも病気で働けなくて……弟たち、あのときよっぽど腹が減ってたんだろうな。つい食べ物を盗んでしまって。ただでさえいじめられていたのに、もしそれが周りに知れたら……もっ辛い目に遭う……!」
「それで、瞬木が弟たちの代わりに……」
「そのときから、誰ももう、俺のことは信じてくれなくなった」
「瞬木……」
「…………」
話している間、両肘を抱えていた腕が微かに震えていたのを天馬は見た。きっと真名部に責められたときだって震えるのを抑えていたのかもしれない。
弟をかばったことにきっと後悔はしていないだろうが、瞬木は無実でも汚名を持っているため周りの人々から遠巻きにされていたのだろう。それが今回も同じことが起こってしまったのだ。
☆☆☆☆☆
ハーフタイムが終わり、両チームはポジションに着く。瞬木が天馬を止めたことによって他のみんなは真実を知らないが、瞬木にとってそれはどうでもよかった。
(誰がどう思うと構わない。弟のためにも、俺は俺のプレーをするだけだ)
《さあ後半の開始です!! 得点は1対0でファイアードラゴンがリード! 追いつけるか、イナズマジャパン!?》
ゴール前で顔をしかめている井吹を神童は横目で見ていた。前半は思わずよけてしまったものの、ゴールを入れられてしまったので井吹があれだけ豪語していたのにもかかわらず結果がこれだ。
(そもそもお前たちは、この場にいるべき選手ではないんだ)
「まだまだ1点! このまま取り返していくぞ!」
両太腿を叩いた天馬が気合いを入れて声を上げると、ホイッスルが鳴ってファイアードラゴンのキックオフで後半開始。