「その調子だ、フェイ……。自分たちの無力さを、旧い人間たちに思い知らせてやるんだ……同時に、母さんに僕ら新人類の素晴らしさを見せるために……」


ＶＩＰ席で満足そうに笑うサリュー＝エヴァンは、フェイのプレーを褒め称える。そして瑞貴を確実にフェーダに引き入れるためにも、自分たちの力をアピールする必要がある。

その後もフェイはレイ＝ルクのスライディングをジャンプでかわし、ディフェンスに来た速水と浜野をまとめて弾き飛ばした。


「フェイ、どうしちゃったの……？」

「アタタタ……」

「ヒド過ぎだって……」

「今のプレー、全然フェイらしくないよ……」


ずっと葵は不思議だった。痛む頭や体を押さえる速水と浜野にもフェイは気にしていないし、ラフプレーがかなり目立つ。マネージャーとして選手をずっと見守ってきた葵もフェイのプレーの変化に驚いた。


「あれもまたフェイくんなんだよ」

「瑞貴さん？」

「セカンドステージ・チルドレンとしての記憶を取り戻したから、旧人類に対する悪意も甦ってしまった。だから、時には危険なプレーをするのも厭わないと思う」

「そんな……！」

「じゃあ、もうフェイくんは帰って来ないんですか!?」

「それはわからないよ」

｢｢えっ？｣｣

「今までのフェイくんが全て嘘だってもちろん私にも思えない。共に過ごしてきた時間は、どんな思惑や純粋が入り交じっても決して嘘をつかないから。二人も、フェイくんが帰って来ると信じて」

｢｢……はい！｣｣

「そのために鍵を握るのは……」


一瞬目を見開いたものの力強く頷いた葵と輝にそう言った瑞貴はピッチを走る天馬に目をやる。自分と同時にフェイに出会い、そして自分以上にフェイと過ごしてきた天馬なら、フェイの目を覚ましてくれると信じて。


「フェイ……君の気持ちは、本当に俺たちから離れてしまったのか……？」

「行かせないぞ！」

「っ！　逆サイドがガラ空きだ！」

「あっ！　しまった！」


トーブと霧野蘭丸とメダムがフェイを迎え討つため固まって待ち構えるが、天馬は自分の横を通って上がるユウチに気づいて声を上げる。トーブはいつの間にか上がったユウチに気づいて慌てて追いかけるも、フェイはユウチにループパスを送った。


「ユウチ！」

「間に合わない！」


シュンッ！


行動が遅れていたためパスが繋がると思った霧野だが……――ユウチに渡る前にある人物がパスカットをしたのだ。


「フフフフッ！　ヒーローは忘れた頃にやって来るってな！」

「ザナーク!?」


いつの間に下がっていたザナーク。その素早い動きにはフェイたちだけじゃなく、天馬たちにも衝撃を与えた。


「フフフフ……驚いたか？　俺様のこの動き。だが、修業の成果はまだこんなモンじゃないぜ！」

「っ！」

「ふっ！」


歯を食いしばったフェイは、ボールを足で止めて両腕を組んでいるザナークから奪おうと走る。しかしザナークはフェイと接触する前に前線へロングパスを出した。


「任せろ！」

「ふっ！」

「ぐあっ！」

「レイザ！」


ボールを追ってレイザがジャンプすると、ヨッカがレイザの背中へ容赦のないショルダーチャージをかけた。そのまま受け身を取れずに落ちていくレイザに天馬は声を上げる。