「いや、こいつらはオラの仲間たちだ。みんなどうしたんだ？」

〈クアアァァアアア！〉

「トーチャン？」


一匹のトロオドンの頭に手を置いてトーブが尋ねると、空からトーチャンがやって来た。地面に降りたトーチャンはトーブに話しかける。


〈クアアアッ、クアアッ〉

「えっ！　ホントか!?」

「なんて言ったの？」

「オラたちの特訓、協力するって言ってるぞ！」

「特訓って……恐竜とか？」


天馬の問いにトーチャンの通訳したトーブが答えると、確かにこの時代しかできないだろうが、恐竜が相手という現代では規格外な特訓に剣城京介は不安に思った。


「ねぇ、トロオドンって肉食だよね？」

「に、肉食!?」

「気を抜くと食われっぞ！　それが万物の掟だ！」

「なんだよそれ……」

「く、食われるって、おおお俺たちがですか!?」


雷門メンバーの恐竜博士である信助がふと思い出し、速水は顔を真っ青にした体を強張らせた。

しかし食べられるのは当然だとトーブが言う。自然の摂理だろうが特訓に命をかけられて狩屋マサキが呆れると、彼を盾にするように速水は背後に回る。


「ビビったらダメだ！　ますます狙われっぞ」

〈〈〈〈〈グルルルル………〉〉〉〉〉

「ムチャクチャ過ぎるぜ。っていうか、恐竜にサッカーなんてできるのかよ？」

「試してみようか」


物は試しだと瑞貴は一匹のトロオドンにボールを渡す。するとトロオドンたちは器用にパス回しができているので、天馬や神童や霧野たちは目を見開いた。


「パスしている……！」

「しかも、速い……！」

「ああ……！」

〈クアアアッ！〉

「こいつらオラたちの試合、見てたみたいだぞ」

「見様見真似でここまで……!?」

「トロオドンは体の大きさに対して脳が大きいんです。中生代で一番頭がいい動物って言われてます」

「つまり、こんなの朝飯前ってわけか」


見事なプレーをする理由をトーチャンとトーブが言うと、霧野たちは驚きながらも感心した。そして信助の説明に水鳥が納得し、天馬はこれならやれると声を上げる。


「よし！　いこうみんな！」

「ええっ!?　本当にやるんですかー!?　瑞貴さん、止めてくださいよー！」


いつの間にか今度は瑞貴のうしろに隠れている速水が必死になって、彼女にみんなを説得するよう訴えるが……。


「う～ん……他に特訓メニューは思いつかないし、むしろ必死になるから逆に刺激になるんじゃない？」

「そんなー！」


頼みの綱である瑞貴までも同意したので速水は地面に崩れ落ちた。それを一度見た瑞貴はトーブとトーチャンの元に向かい、小声で話しかける。


「一応訊くけど、本当に食べたりしないよね？」

〈クアッ、クアッ〉

「もちろんだ。けど、そんぐれーの気持ちでやんねぇと特訓にならねぇってトーチャンが言ってんぞ」

「うん、わかってる。ありがとう」


命の心配はないとわかって瑞貴は頷いてトーチャンとトーブに礼を言った。

まずはドリブルする天馬を中心に剣城とフェイが左右に並んで走る。その向かいには三匹のトロオドンが走って来る。


「フェイ！」


シュンッ！


｢｢｢あっ！｣｣｣


天馬は横にいるフェイにパスをしようとしたが、トロオドンがいつの間にか二人の間を通ってパスカットした。

他のみんなも別のトロオドンと特訓をするが、相手にボールを取られたり、パスカットされたり、突破されたりと、トロオドン相手に四苦八苦している。


「やっぱり、危険過ぎるんじゃ……？」

「さっきも言ったけど、付け焼刃な特訓じゃパーフェクト・カスケイドには勝てないの」

「だが、この特訓を乗り切ればパーフェクト・カスケイドとの戦いに必要なスピードと瞬発力がもっともっと上がるはず！　がんばれ、みんなー！」


先ほどの瑞貴とトーブたちの会話を知らないため、恐竜相手に特訓は危険だと空野葵は危惧するが、瑞貴もワンダバも短期間でレベルアップするために仕方ないと思いつつ、ビッグやマネージャーやトーチャンと共にみんなの応援をしていた。