「はっ！」

「!?」


なんと坂本が沖田にスライディングをかけ、ボールはラインの外へと転がって行った。坂本は地に座ったままウィンクして沖田を見上げる。


「そう簡単にやらせやしねぇよ？」

「チッ……」


忌々しげに見下ろす沖田がその場から去って行くと、坂本は変なこと言ったかと思い頭をかいてその背を見送った。

続けて坂本にボールが回ってドリブルして行く。練習の成果が出たのか足元のボールを見ずに真っ直ぐドリブルができていた。


「こっちぜよ！」

「オウッ！」

「うおおおっ！」


サイドに走っていた錦が坂本からパスを受け取ると、そのままゴールの隅へとノーマルシュートを打ち込む。だが、それをシュテンがジャンプしてガッシリとキャッチをしたのだ。


「あっ！　クソッ！」

「錦先輩、気合い入ってますね！」

「ああ。憧れの坂本龍馬と一緒にサッカーをやってるんだからな」


悔しがる錦だが、そのやる気はいつもよりもスゴいと輝が感嘆の声を上げていると、神童がタイムジャンプする前から張り切っていたのを思い出した。

それからも両チームは一進一退の攻防が続いていく。どちらも譲らないというようにゲームが進む中、ドリブルする錦が坂本にパスを上げた。


「坂本さん！」

「オウッ！」

「させるか！」


しかし坂本に渡る前に沖田がスライディングし、ボールをラインの外に出してしまった。少々危ないプレーで坂本は転びそうになったが、左手だけで前転するという身軽さを見せると沖田に顔を向ける。


「おめぇ、なかなかやるな！」

「貴様に負けるわけにはいかないんだ……！」


それからも沖田は特に坂本を徹底にマークしていた。いくらザナークから力を与えてもらっても、その迫力はもっと別モノだろうとラインの外にいる瑞貴や大介にも伝わっている。


「沖田さんの迫力は坂本さんのこともあるけど、新選組としてのプライドと幕末の動乱を駆け抜けているからでしょうね……」

〈ウム。それは平和な現代を生きるわしらに想像もつかんほどじゃろう。それがサッカーだけでもよう伝わる〉


もともと素早い沖田と、身軽とはいえ坂本は体力がなくなってきたのか肩で息をし始めるようになったので天馬たちが駆け寄る。


「龍馬さん！」

「へっ…へっ…へへっ……。悪いな、失敗ばっかりで」

「いえ。沖田さんが龍馬さんを徹底的に狙っているからです」

「ああ。執念を感じるぜよ」

「沖田さんをかわすにはどうしたら……」

「――みんな、ちょっといい？」


まず沖田の攻略が必要だろうと信助が思っていると、近くのラインの外からフェイがやってきた。


「こんな作戦はどうかな？」

「作戦？」


何か切り抜ける方法があるのかと天馬たちは近くに行って聞いていると、その様子を土手の上から見ているザナークはニヤリと笑っていた。


「フッ、そろそろ動くようだな」

「……というアイディアでどう？」

「なるほど！」

「いけるぜ、そいつは！」

「ああ！」

「よし、やろう！」


フェイの作戦に錦も坂本も剣城も信助も賛成のようで、天馬は頷いて実行に移すことにした。

雷門のスローイングからゲーム再開し、ボールを受け取った天馬はドリブルをして行くと横を走る坂本に目を向ける。


「龍馬さん！」

「オウッ！」


予想通りというかボールを受け取った坂本の前にすかさず沖田が現れた。しかし坂本は動揺することはなく沖田にボールを渡す。


「そんなに欲しけりゃやるよ」

「何!?」

「見せてもらおうじゃねぇか。新選組一番隊隊長のお手並み……いや、足並みか？」

「っ……後悔するぞ」


そのまま沖田はドリブルをして信助のいるゴールを目指そうとすると、うしろから坂本が追って来て前に回り込まれた。


「その程度なのかい？」

「グッ……！」


今までと逆の立場になってしまい、さらに今回がサッカーをするのを初めてな沖田はどうすればいいか思考すると、カバーをするためにエンギルが走って来た。