「ボールを蹴るって気持ちいいね！」

「太陽！」


現れた雨宮に天馬は嬉しそうに笑った。彼と再会するのはホーリーロード以来なので雷門イレブンも練習を中断し、雨宮の周りに集まってきた。


「久しぶりだね！　体の調子はもういいの？」

「うん。すっかりね」

「よかった！」


雨宮は『十年に一人の天才』と言われた代わりに重い病気を患っていた。しかしそれでもサッカーが好きなので病気を抑えつつも雷門との試合に出たのだ。これが最後の試合にするつもりだと。

しかし、それでもまだまだ『サッカーがしたい』という気持ちは抑えられず、懸命に治療に取り組んだので順調に回復し、こうして完治したようだ。元気になってサッカーを自由にやれるようになったので、天馬もまた自分のことのように嬉しくなって笑った。


「ちぃーっす！　久しぶりやんね！」

「ああ」

「えっ？　この二人、知り合いだったの？」

「タイムパラドックスか……」


黄名子と雨宮が挨拶を交わす姿に信助や神童拓人は不思議に思う。もともと黄名子は雷門中サッカー部の化身使いとフェイ＝ルーンとクラーク＝ワンダバットと瑞貴とマネージャー組を除いて、他のみんなは彼女が元からサッカー部に所属していたと言う。雨宮ともこうして普通に会話しているので、黄名子の影響はどこまであるのかはわからない。


「あっ。フェイ、紹介するよ」

「うん」

「ホーリーロードの準決勝で雷門と戦った、新雲学園のエースストライカー・雨宮太陽」

「よろしくね！」

「太陽、彼は――」

「フェイ＝ルーン……だよね？」

｢｢!?｣｣


フェイは未来から来たので雨宮とは初対面のはずだ。しかし彼はフェイの名前をズバリ当てたので天馬とフェイは目を見開くと、雨宮はその理由を神童たちに話す。


「豪炎寺さんから聞いたんだ」

「豪炎寺さんから？」

「はい。天馬がサッカーを取り戻すために戦ってるって聞いて、どうしても力になりたくて。――天馬、一緒にサッカーを取り戻そう！」

「太陽……！　ああ！」


ホーリーロードでは相手のチームだったが、こうして味方のチームになってくれるという頼もしい言葉に、天馬たちは誰一人反対することなく、雨宮を快く迎え入れるのだった。

雨宮にユニフォームを渡すため天馬がロッカールームへ案内していると、彼から道に迷ったことを告げられた。


「えっ!?　雷門中まで迷ってしまったの!?」

「うん。稲妻町は病院以外あまり行かなかったからね」

「大丈夫だったの!?　あっ、大丈夫だからここに来れたんだよね……」

「うん。昔の瑞貴さんそっくりの女の子に助けてもらったんだよ。彼女とはサッカー棟に着いてこのグラウンドを教えてもらったら別れちゃったけど」

「あっ……」


天馬は雨宮を案内してくれた少女が、そっくりどころか瑞貴本人だということにすぐ気づいた。



――雷門の18番のユニフォームに着替えた雨宮と天馬がグラウンドに戻ると、瑞貴がマネージャー組と話し合いをしていたのを見つけた。


「あっ。瑞貴さ――」

「君！」

「ちょっと太陽！」


天馬が声をかける前に雨宮が駆け出したので、天馬は止めることができなかった。


「ここまで案内してくれてありがとう。君は雷門の新しいマネージャーだったんだね」

「えっ？」

「昔の瑞貴さんに似ているし、もしかして親戚とかかな？」

「あっ、いや、その……」

｢｢｢フフフフッ｣｣｣


押してくる雨宮に瑞貴は戸惑っていると、空野葵も山菜茜も瀬戸水鳥もクスクスと笑っているので、雨宮は頭に「？」マークを浮かべた。


「なんか惜しいけど違うよ」

「この人は円堂瑞貴さん」

「今はちっこくなっちまったが、このサッカー部のコーチだぜ」

「ちっこくなったは余計だよ、水鳥ちゃん……」


雷門イレブンの仲間になったので瑞貴は事情を話すと、雨宮は話が進むにつれて目を見開き、勢いよく頭を下げた。


「す、すみません！　俺、瑞貴さん本人とは知らず失礼なことを！」

「いやいや、全然大丈夫だよ。この姿になったらわからないのはムリもないし、これから一緒に戦ってくれるんでしょ？」

「もちろんです。僕も大好きなサッカーを取り戻したいんです！」

「じゃあよろしくね。期待しているよ、太陽くん！」

「はい！」


瑞貴と雨宮は改めて握手を交わし、これからの戦いに意気込むのだった。

雨宮を交えて練習を再開する雷門イレブン。病気を克服した雨宮のテクニックはホーリーロードからパワーアップしており、あっという間にディフェンス陣を抜いて攻め上がって行く。その表情はとても生き生きしていた。


（これだよ、この感覚……！　みんなが一つのボールを追いかけて！）

（やるな……天馬が言った通りだ！）


フェイもまた強い選手だとは聞いていたが、実際の実力を目の当たりにすると心強い味方ができて嬉しく思った。


「あっ、修也！」

〈おおっ！　帰ってきたな！〉


次のアーティファクトを手に入れて来た豪炎寺修也がやって来たのを瑞貴と大介が気づき、全員ベンチに集合するように呼びかけた。