剣城の秘密
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すると弾んで来たボールが優一の足の間に止まった。先ほど二人の前を駆けていた少年が声をかける。
「すいませーん! ボール取ってくださーい!」
「オウッ! よし……!」
「…………」
快く引き受けた優一は気を引き締めてボールを蹴ろうとするが、力を入れても両足は動かなかった。その光景を剣城は悲しげに見つめて目を逸らすと、優一は手でボールを拾って少年たちに投げた。
少年が「ありがとー!」と礼を言うと、優一は剣城に顔を向ける。
「ここのところ、毎日見舞いに来てくれるけど、サッカーの練習はいいのか?」
「ああ」
「本当だな?」
「大丈夫だ」
「そうか……」
頬に手を当てて顔を背ける剣城に優一は苦笑しつつも、それ以上追求することはなかった。そして駆け回ってサッカーをする少年たちに顔を向け、懐かしむように昔わ思い出す。
「俺たちもあのくらいの頃、日が暮れるまでサッカーしてたな」
「…………」
――六年前のある日、二人はいつも通り公園でサッカーをしていた。憧れの選手の必殺技を叫びながらボールを蹴り合う……そんな楽しい日々がずっと続くと思っていた。
『ファイアトルネード!』
『爆熱スクリュー!』
優一が蹴ったボールを剣城も蹴り返そうとしたが、勢いがあり過ぎたのかボールは高い木の枝に挟まってしまった。
『あーあ……』
『俺、取って来る!』
『やめろ、危ないぞ京介!』
『大丈夫だよ、兄ちゃん!』
優一が止めるもスルスルと木を登った剣城は、ボールに向かって一生懸命手を伸ばす。しかしボールを触れる手とは反対の手がつかんでいた枝は細く、力を入れているせいでミシミシと言っている。そして――。
バキッ!
『うわっ! わああぁぁあああ!』
『京介!』
枝が折れた衝撃で落ちていく剣城を、優一は駆け出して受け止めた。しかし木の高さや弟とはいえ少年を受け止めるにはムチャもあり、剣城は無事だったものの優一は激痛に顔をしかめていた。
『ウッ、ウウッ……!』
『兄ちゃん? 兄ちゃん!?』
すぐに両親に知らせて病院に行き、両親が部屋で医師の話を聞いていると、剣城も扉に隙間を開けて中の様子を伺っていた。
『残念ながら、息子さんの足は……』
『嘘だよね……? 兄ちゃんがサッカーできないなんて……嘘だよね!? 先生――っ!!』
――医師が告げた結果に両親も悲しんでいたが、それ以上に自分のせいだとわかった剣城は大きな声を上げて涙を流していた。
六年経った今でも自分を責める剣城に、優一は苦笑する。
「まだ気にしてるのか? あれは事故だぞ」
「兄さん!」
叫ぶように立ち上がる剣城を、優一は気にするなという意味を込めて告げる。
「お前はサッカーを続けろ。そして世界に行くんだ。二人の夢だろ? 世界のフィールドで戦うのは。あの豪炎寺さんと――井上さんのように」
「っ!」
優一は瑞貴が剣城のいる雷門中サッカー部でコーチをしているなど知らないのだ。剣城は当然伝えていない――いや、伝えられない。彼女が願うサッカーを否定し、所属するサッカー部を敵として見張っているのだから。
「だからお前が井上さんとの約束を果たしてくれ。あの人は忘れてるかもしれないが、俺たちが覚えていればそれでいい」
「…………」
優一の言葉に肯定も否定もできなくて剣城は拳を握り締める。十年という月日は長くて忘れても不思議ではなく、ましては子供の口約束なのだ。しかし瑞貴は覚えており、剣城に自分に兄はいないか、約束を覚えているか話しかけてきた。
『京介くん。サッカー好き?』
『うん!』
『じゃあその気持ちを忘れないで。そしたらきっとまた会えるら。――約束』
脳裏に浮かぶ幼い頃の約束……肯定すれば優一は瑞貴が稲妻町にいることを知り、否定すれば兄と約束を楽しみにしていた過去の自分を裏切る気持ちになる。――いや、もう裏切っているだろう。
「すいませーん! ボール取ってくださーい!」
「オウッ! よし……!」
「…………」
快く引き受けた優一は気を引き締めてボールを蹴ろうとするが、力を入れても両足は動かなかった。その光景を剣城は悲しげに見つめて目を逸らすと、優一は手でボールを拾って少年たちに投げた。
少年が「ありがとー!」と礼を言うと、優一は剣城に顔を向ける。
「ここのところ、毎日見舞いに来てくれるけど、サッカーの練習はいいのか?」
「ああ」
「本当だな?」
「大丈夫だ」
「そうか……」
頬に手を当てて顔を背ける剣城に優一は苦笑しつつも、それ以上追求することはなかった。そして駆け回ってサッカーをする少年たちに顔を向け、懐かしむように昔わ思い出す。
「俺たちもあのくらいの頃、日が暮れるまでサッカーしてたな」
「…………」
――六年前のある日、二人はいつも通り公園でサッカーをしていた。憧れの選手の必殺技を叫びながらボールを蹴り合う……そんな楽しい日々がずっと続くと思っていた。
『ファイアトルネード!』
『爆熱スクリュー!』
優一が蹴ったボールを剣城も蹴り返そうとしたが、勢いがあり過ぎたのかボールは高い木の枝に挟まってしまった。
『あーあ……』
『俺、取って来る!』
『やめろ、危ないぞ京介!』
『大丈夫だよ、兄ちゃん!』
優一が止めるもスルスルと木を登った剣城は、ボールに向かって一生懸命手を伸ばす。しかしボールを触れる手とは反対の手がつかんでいた枝は細く、力を入れているせいでミシミシと言っている。そして――。
バキッ!
『うわっ! わああぁぁあああ!』
『京介!』
枝が折れた衝撃で落ちていく剣城を、優一は駆け出して受け止めた。しかし木の高さや弟とはいえ少年を受け止めるにはムチャもあり、剣城は無事だったものの優一は激痛に顔をしかめていた。
『ウッ、ウウッ……!』
『兄ちゃん? 兄ちゃん!?』
すぐに両親に知らせて病院に行き、両親が部屋で医師の話を聞いていると、剣城も扉に隙間を開けて中の様子を伺っていた。
『残念ながら、息子さんの足は……』
『嘘だよね……? 兄ちゃんがサッカーできないなんて……嘘だよね!? 先生――っ!!』
――医師が告げた結果に両親も悲しんでいたが、それ以上に自分のせいだとわかった剣城は大きな声を上げて涙を流していた。
六年経った今でも自分を責める剣城に、優一は苦笑する。
「まだ気にしてるのか? あれは事故だぞ」
「兄さん!」
叫ぶように立ち上がる剣城を、優一は気にするなという意味を込めて告げる。
「お前はサッカーを続けろ。そして世界に行くんだ。二人の夢だろ? 世界のフィールドで戦うのは。あの豪炎寺さんと――井上さんのように」
「っ!」
優一は瑞貴が剣城のいる雷門中サッカー部でコーチをしているなど知らないのだ。剣城は当然伝えていない――いや、伝えられない。彼女が願うサッカーを否定し、所属するサッカー部を敵として見張っているのだから。
「だからお前が井上さんとの約束を果たしてくれ。あの人は忘れてるかもしれないが、俺たちが覚えていればそれでいい」
「…………」
優一の言葉に肯定も否定もできなくて剣城は拳を握り締める。十年という月日は長くて忘れても不思議ではなく、ましては子供の口約束なのだ。しかし瑞貴は覚えており、剣城に自分に兄はいないか、約束を覚えているか話しかけてきた。
『京介くん。サッカー好き?』
『うん!』
『じゃあその気持ちを忘れないで。そしたらきっとまた会えるら。――約束』
脳裏に浮かぶ幼い頃の約束……肯定すれば優一は瑞貴が稲妻町にいることを知り、否定すれば兄と約束を楽しみにしていた過去の自分を裏切る気持ちになる。――いや、もう裏切っているだろう。