最後のサッカー
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「優一さんの……後輩だ」
「兄さんの? サッカー部か……なんの用だ」
「どうして優一さんの誘いを断ったんだ?」
「何?」
「俺もいたんだ、さっき」
「……関係ねぇだろ、お前には」
「優一さんはお前にサッカーを返すつもりで……いや、なんでもない」
「何が言いてぇのかわかんねぇけどよ、俺はとっくにやめたんだ。もう飽きたんだよ」
そう言い残して剣城は天馬に背を向けて足を進める。だが……。
「俺の知ってる剣城は、サッカーに飽きたりしない」
「なんだと?」
「サッカーやりたいんだろ? 好きなんだろ!?」
「っ、フンッ! 俺のことを知りもしないくせに、お前に何がわかる!」
「知って――……」
知ってると天馬はそう言いたかった。だけどそれは『サッカー部に所属する剣城』のことで、『今の剣城』に話しても余計に混乱させるだけだと気づいて口を紡ぐ。
「サッカーが好きなのにやらないなんて……サッカーだって待ってるはずだ。お前のことを!」
「しつこいんだよ! ……サッカーサッカー言うんじゃねぇ」
「…………」
そして今度こそ剣城は去って行ってしまった。天馬は自分が言いたいことをちゃんと言えたし、あとは剣城が優一の元へ来ると信じるだけだ。
☆☆☆☆☆
一方、河川敷で瑞貴と優一はボールを蹴り合っていた。天馬と別れたあと、瑞貴が『せっかくだから一緒に練習しよう』と誘ったからである。
「すみません、瑞貴さん。気を遣わせちゃって」
「なんのこと? 私は単に優一くんとサッカーできる時間を逃したくないだけだよ。それに本当は、優一くんだって京介くんが来てくれるって信じてるんだよね」
「!」
「じゃなきゃ練習場所を河川敷に選択しないよね。いつ京介くんが来てもいいように、ここで待ってるつもりだったんでしょ?」
「……瑞貴さんにはお見通しですね」
まさか見破られていると思わなかったのか優一は微笑むが、逆に瑞貴は苦笑して優一にボールを蹴る。
「今の京介くんね、昔の私に似ているんだ」
「似ている?」
「私も一時はサッカーをやめようとしていたから」
瑞貴は優一に中学一年生のとき起こったことを話した。その発端が試合に活躍したことで監督のプライドを傷つけてしまい、サッカー部から学校全体でいじめが起こったことを。
「そんなことが……」
「頭では『サッカーのせいじゃない』って理解している。でも、心は『サッカーのせいだ』って思っていた。自分の中で二つの意見がぶつかり合うと、疲れるなんてものじゃない……苦しかった」
いじめの首謀者がわかり、自分を救ってくれた親友から『もう一度サッカーをやろう』と言われても拒否した。だが……。
「でもね、こうやって一度ボールを蹴ると勝手に体が反応しちゃうんだ。そして同時にわかる――私がどれだけサッカーが大好きなのかってね」
「瑞貴さん……」
「京介くんが迷っているなら、優一くんの想いをこめたボールをこうしてパスしてあげて。どんなに否定してもプレーは嘘を突かない……彼はあと一歩だから」
親友がボールを自分に蹴ったとき、思わず体が反応して不可抗力とはいえトラップしてしまった。そして……それが答えなのだと気づかされたように、剣城もきっと気づいてくれるはずだ。
――それから夕方になった。優一がセンターラインでリフティングをしているのを、瑞貴はベンチでドリンクを飲んで見ていた。ふと顔を上げると遠くから見覚えのある人影に気づいて笑みを浮かべる。
「……待ち人来たり、ってとこかな」
「えっ?」
「優一くん。私、もうすぐフェイくんに呼ばれた時間だから戻るね。また明日!」
「あっ、はい! ありがとうございました!」
突然の帰宅の挨拶にも関わらず、優一は律儀にペコッとお辞儀をしてくれた。そして瑞貴と入れ替わりに来たのは――優一が待っていた人物・剣城京介だ。
「来たか!」
「……俺、うまくやれるかどうかわからないぜ。もうずっとやってないから――」
タンッ!
そっぽ向く剣城に向けて優一はボールを蹴った。その音に反応した剣城はオーバーヘッドの要領で蹴り上げると、落ちてきたボールを見事にトラップして足で止めた。
「覚えてるじゃないか」
「!」
「まだ好きなんだろ? サッカー」
「兄さん……」
どんなに否定してもプレーは嘘をつかない――瑞貴の言った通りだと優一は密かに思った。
「兄さんの? サッカー部か……なんの用だ」
「どうして優一さんの誘いを断ったんだ?」
「何?」
「俺もいたんだ、さっき」
「……関係ねぇだろ、お前には」
「優一さんはお前にサッカーを返すつもりで……いや、なんでもない」
「何が言いてぇのかわかんねぇけどよ、俺はとっくにやめたんだ。もう飽きたんだよ」
そう言い残して剣城は天馬に背を向けて足を進める。だが……。
「俺の知ってる剣城は、サッカーに飽きたりしない」
「なんだと?」
「サッカーやりたいんだろ? 好きなんだろ!?」
「っ、フンッ! 俺のことを知りもしないくせに、お前に何がわかる!」
「知って――……」
知ってると天馬はそう言いたかった。だけどそれは『サッカー部に所属する剣城』のことで、『今の剣城』に話しても余計に混乱させるだけだと気づいて口を紡ぐ。
「サッカーが好きなのにやらないなんて……サッカーだって待ってるはずだ。お前のことを!」
「しつこいんだよ! ……サッカーサッカー言うんじゃねぇ」
「…………」
そして今度こそ剣城は去って行ってしまった。天馬は自分が言いたいことをちゃんと言えたし、あとは剣城が優一の元へ来ると信じるだけだ。
☆☆☆☆☆
一方、河川敷で瑞貴と優一はボールを蹴り合っていた。天馬と別れたあと、瑞貴が『せっかくだから一緒に練習しよう』と誘ったからである。
「すみません、瑞貴さん。気を遣わせちゃって」
「なんのこと? 私は単に優一くんとサッカーできる時間を逃したくないだけだよ。それに本当は、優一くんだって京介くんが来てくれるって信じてるんだよね」
「!」
「じゃなきゃ練習場所を河川敷に選択しないよね。いつ京介くんが来てもいいように、ここで待ってるつもりだったんでしょ?」
「……瑞貴さんにはお見通しですね」
まさか見破られていると思わなかったのか優一は微笑むが、逆に瑞貴は苦笑して優一にボールを蹴る。
「今の京介くんね、昔の私に似ているんだ」
「似ている?」
「私も一時はサッカーをやめようとしていたから」
瑞貴は優一に中学一年生のとき起こったことを話した。その発端が試合に活躍したことで監督のプライドを傷つけてしまい、サッカー部から学校全体でいじめが起こったことを。
「そんなことが……」
「頭では『サッカーのせいじゃない』って理解している。でも、心は『サッカーのせいだ』って思っていた。自分の中で二つの意見がぶつかり合うと、疲れるなんてものじゃない……苦しかった」
いじめの首謀者がわかり、自分を救ってくれた親友から『もう一度サッカーをやろう』と言われても拒否した。だが……。
「でもね、こうやって一度ボールを蹴ると勝手に体が反応しちゃうんだ。そして同時にわかる――私がどれだけサッカーが大好きなのかってね」
「瑞貴さん……」
「京介くんが迷っているなら、優一くんの想いをこめたボールをこうしてパスしてあげて。どんなに否定してもプレーは嘘を突かない……彼はあと一歩だから」
親友がボールを自分に蹴ったとき、思わず体が反応して不可抗力とはいえトラップしてしまった。そして……それが答えなのだと気づかされたように、剣城もきっと気づいてくれるはずだ。
――それから夕方になった。優一がセンターラインでリフティングをしているのを、瑞貴はベンチでドリンクを飲んで見ていた。ふと顔を上げると遠くから見覚えのある人影に気づいて笑みを浮かべる。
「……待ち人来たり、ってとこかな」
「えっ?」
「優一くん。私、もうすぐフェイくんに呼ばれた時間だから戻るね。また明日!」
「あっ、はい! ありがとうございました!」
突然の帰宅の挨拶にも関わらず、優一は律儀にペコッとお辞儀をしてくれた。そして瑞貴と入れ替わりに来たのは――優一が待っていた人物・剣城京介だ。
「来たか!」
「……俺、うまくやれるかどうかわからないぜ。もうずっとやってないから――」
タンッ!
そっぽ向く剣城に向けて優一はボールを蹴った。その音に反応した剣城はオーバーヘッドの要領で蹴り上げると、落ちてきたボールを見事にトラップして足で止めた。
「覚えてるじゃないか」
「!」
「まだ好きなんだろ? サッカー」
「兄さん……」
どんなに否定してもプレーは嘘をつかない――瑞貴の言った通りだと優一は密かに思った。