木戸川清修を破り、雷門中はホーリーロード準々決勝へと駒を進めた。革命の成功も近づくので選手たちは張り切って練習をしていたが――ただ一人、天城大地だけは浮かない顔で突っ立っていた。


『結果を信じて汗を流せば、なんとかなるってことだ』

（そんなの、信じられないド）


雷門中サッカー部のＯＢで錦龍馬の師匠である染岡竜吾の言葉も、天城には何も響かなかった。逆に一乃七助と青山俊介は練習に積極的になっている。


（だったら、どうして同じ練習をしてる俺がレギュラーを取られて、試合にも出られないんだド？　みんなで始めた革命……一緒に成功させたいけど――）

「天城先輩！」

「！」


影山輝の声が聞こえて振り向くとボールが迫ってきた。とっさにトラップしてみたものの、ミスして別の方向に弾いてしまう。


「す、すまんド！」

「天城先輩……？」


いつもなら指示を出したり足りないことを教えてくれる天城の様子に、輝は不思議に思った。そして天城はサッカーを辞めようと思ってしまうほど思い詰めていた。


（辞めようかな…サッカー……）

「…………」


それを円堂瑞貴はベンチから何かを思うように見ていると、次いで一度目を閉じてコーチとしての顔に戻ってピッチの中に入る。


「輝くん」

「あっ、はい」


呼び出したのは影山輝だ。彼は瑞貴に呼ばれて驚いたものの、すぐに駆け寄って二人は対面する。


「そろそろ必殺技を作ってみようか」

「必殺技……僕が……!?」

「うん。君もだいぶ実力を付けてきたし、ＦＷとして必殺シュートをゴールに決めてみたいと思わない？」


イタズラっ子のようにウィンクする瑞貴。だんだんと実感が湧いてきた輝は、瞳を輝かせて背筋を伸ばし元気よく言う。


「よろしくお願いします！」



☆☆☆☆☆


――部活が終わったあと、瑞貴は久しぶりに雷雷軒へ訪れ、飛鷹征矢が注文したラーメンを作っている間に部活のことを語る。ピーク時をズレて来たため、幸い他の客はいないので二人は旧友として時間を過ごしている。


「そいつなら、鬼道さんが監督に就任した頃にも来ていたな。でも、文句は垂れてもサッカーは大好きという気持ちはあったぞ」

「この間の木戸川清修の試合でスタメンに出れなかったから、だいぶ落ち込んでいるの」


天城のがんばりは瑞貴だってもちろん知っている。だが、対戦相手との実力が合わなかったら試合に出れないし、平等に出してしまえばフィフスセクターと同じことだ。


「瑞貴があいつらと同じ頃、レギュラーに下げられたことがなかったからな」

「なかった……というか性別が違う分、なんとしても技術でカバーしないとって必死だったんだよ」


今思えば、一度もベンチに下げられなかったのが奇跡だと思う。しかしそれは自分の実力を監督たちが認めてくれて、副キャプテンという重要なポジションも与えてくれた。それに応えるためにも自分のためにも、瑞貴は毎日欠かさず特訓に励んでいたのだ。


「あれから、円堂さんと連絡は？」

「全然。でも、一度だけでも会えて本当に嬉しかった」


突如フィフスセクターの指示でゴッドエデンへ向かうことになったが、そこでかつての仲間や元気な姿の円堂に心底ホッとした。


「お前は相変わらず、円堂さんが絡むといい顔になるな」

「えっ？」

「日本代表候補が集まった日から、俺は二人を見ていたからな」


……ただでさえ男子の中に女子がいるのだ。自然と目が向いてしまうのは仕方のないことだろう。サッカーをするときも、仲間と過ごすときも、瑞貴は楽しそうで笑顔がなくなることはない。――しかし、円堂と一緒のときはひと際とてもいい笑顔をしていた。