「あっ、ごめんごめん！」

「チッ。なんだよ、人を付き合わせといて。――あっ」


舌打ちした狩屋は何かを閃くと、イタズラっ子のようにニヤリと笑った。


「あっ、なんだあれ！　スッゲー！」

｢｢えっ？｣｣

「ふっ！」


狩屋が大声を上げてピッチを指差したので、天馬と信助はつられてピッチを見る。そこへすかさず狩屋はボールを一直線に蹴ると、二人を巻き込んで倒れさせた。


｢｢うわあっ！｣｣

「エヘヘ。ごめんごめん」


後頭部に手を当ててウィンクする狩屋は謝罪するが、実はイタズラが成功したと思っている。しかし蹴ったボールが行った先は……。


「マ～サ～キ～く～ん？」

「ゲッ！」


片足でボールを押さえている瑞貴が黒い笑みを浮かべて名前をゆっくり呼んだので、狩屋はビクッと肩を跳ねた。どうやらボールはベンチまで向かったらしく、それに気づいた瑞貴がトラップして止めたようだ。

このあと狩屋は瑞貴から説教をくらい、天馬と信助も自分たちの練習に集中するように共に叱られた。



☆☆☆☆☆


空がオレンジ色になる夕方、頃合いとなった所で鬼道がみんなに声をかける。


「よし。今日の練習はここまでだ」

「明日の時間について伝達するね」


瑞貴の伝達事項を聞いて後片付けをしたあと、部員たちはロッカールームに向かって各々で制服に着替え出す。


「効きますよね……。鬼道監督と瑞貴さんの練習メニュー」

「俺、もうクタクタ……」


速水や浜野たちが最初は不満を持った練習メニューも、今では自分たちのレベルアップ向上につながるとわかればやり甲斐がある。


「錦。お前、安定感が増したよな。向こうでかなり鍛えられたんだろ」

「いやー、まだまだぜよ」

「…………」


三国はゴールからでもプレーがよく見えていたので褒めたが、錦は自分はまだ未熟だと苦笑いする。それを聞いていた車田は厳しい顔をしていた。


「それじゃあ、お先ぜよ」

｢｢！｣｣


着替え終わった錦がみんなに挨拶して部室を出ようとすると、顔を見合わせて頷いた天馬と信助が錦に声をかける。


「錦先輩！」

「あ？」

「イタリアの話、聞かせてもらえませんか？」

「イタリアのサッカーってどんな感じなんですか？　やっぱり全然違うんですか？」

「イタリアのサッカーか……」


キラキラとした目で訊いて来る二人に、錦は言葉を繰り返すとウィンクして答える。


「あれはパスタぜよ！」

｢｢えっ……パスタ……？｣｣


てっきりイタリアでの武勇伝やサッカーについて教えてくれると思ったが予想と反した言葉だったので、天馬と信助は顔を見合わすともう一度錦に問いかける。


「それって、あのスパゲティの？」

「どういうことですか？」

「まっ、よっく考えるぜよ。アッハッハッハッ！」


人差し指と中指を立てて豪快に笑って部屋を出る錦。彼が残した謎に二人は目をパチクリするのだった。