しかし彼らだけではない。一人一人が厳しい練習に集中しており、その辛さすらも楽しさが垣間見えている。それを見た神童拓人が微笑むと、隣にいた霧野蘭丸が気づいて話しかける。


「フッ……」

「どうかしたのか？」

「ちょっと、思い出しただけだ」

「思い出した？」

「ついこの前まで、俺たちはいつもモヤモヤしたモノを抱えていた……。好きなサッカーをやっていても、どこか割り切れないモノがあった。でもあいつが入って来て、全てが変わった」

｢｢うわわわっ！｣｣


神童が見る先は練習している天馬だ。彼は信助と両足を合わせた際、またもバランスを崩して今度はお互いの頭をぶつけてしまったので、霧野は苦笑いした。


「いろいろあったけど……」


これまでのことを神童は思い返す。それはまだ自分たちがフィフスセクターに嫌々ながらも従っていた時期を……。

――まずは天馬を含めた入部テスト。


『ここにサッカーはない！』


――栄都学園戦でフィフスセクターについて知らせたこと。


『初めから点数まで決まってるなんて、そんなのサッカーじゃない！』

『お前に何がわかる！』


――思い詰めて練習に参加しなかった神童に、天馬が家まで訪ねてまで伝えた言葉。


『俺、あの栄都戦の１点ってスッゴく大事な１点だと思ってます！』

『っ、大事な１点……』


――自分たちと違って意志を曲げない天馬に、我慢できなくなった倉間の叫び。


『俺たちからサッカーを奪うような真似するな！』

『奪うなんて……俺はただ本物のサッカーを――』


――雷門中サッカー部のエースストライカーだった、南沢篤志の退部。


『辞めるって、本気なのか!?』

『ああ。もう付き合いきれない』


――円堂と瑞貴が、二人の思い出である旧部室の前で神童に告げたこと。


『俺たちが雷門に戻ってきた理由……それは――フィフスセクターを倒すためだ』

『あの頃のサッカーを取り戻すため、君たちが「本気のサッカー」をしたいと思うなら、私たちは何があっても味方でいる』


様々な出来事があって仲違いが起こったり葛藤があったものの、全てがこの風景を生み出しているのだ。


「今は革命という目標に向かって、みんなの心が一つになってる。――霧野」

「？」

「いいな、サッカーって！」

「神童……！　ああ！」


管理サッカーに従っていた間はこんな考えはできなかった。しかし自由なサッカーを取り戻そうと決めてからは、どんなにつらく厳しい戦いでも自然と笑顔になれる。


「足が止まってるド！」

｢｢はい！｣｣


天城に指摘されたことで、二人は練習に戻るべく走り出した。


「もらったぜよ！」

「あっ！」

「行かせるか！」

「っ！」

「今だ！」


倉間からボールを奪った錦龍馬。そこへ浜野がスライディングを仕掛けると、錦は体を斜めにしてジャンプでかわした。すかさず車田も走り出すが、錦は空中で一度ボールを上げ、素早く自信を回転して着地するとヒールリフトを使って車田も突破したのだ。


「グッ……！」


車田が悔しそうに歯を食いしばる中、錦の動きに注目していた信助と天馬は目を見開いた。


「見た!?　今の！」

「ああ！」

「あの体勢でボールをキープできるなんてスゴいよね！」

「うん！」

「――ちょっと二人共！」


そんな二人に声をかけたのは、片足でボールを抑えている狩屋だ。ピッチに夢中になっていたので、天馬は信助と共に慌てて自分たちの練習に戻る。