ホーリーロード全国大会初戦を突破し、かつての雷門の一員である南沢篤志とも和解した雷門中サッカー部。その翌日、新たな入部希望者が現れた。

彼の名は影山輝――その名字に、円堂守や鬼道有人を始めとする大人組に衝撃を与えることになった。


「影山って……」

「まさか……」

「君、もしかして影山零治さんの血縁者？」

「はい……」


円堂瑞貴が顔を合わせるように少ししゃがむと、輝は先ほどのように戸惑いながらも頷いた。


「影山零治は……僕の叔父です」

｢｢！｣｣

「兄さん……」


円堂と瑞貴と音無春奈は、影山零治に一番関わりが深い鬼道に顔を向けると――彼は微笑んでいた。


「そうか……」


話に追いつけずすっかり蚊帳の外にされているので、浜野海士は天城大地に尋ねる。


「ちゅーか、『影山零治』って誰っスか？」

「知らないド」

「だが、何故隠そうとした？」

「あっ……それは……」


鬼道がそう訊くと輝はまた口ごもった。名前を聞いたときも下の名前しか答えず、名字を告げようとしなかった。その理由を輝は顔を少しうつむけながらも懸命に答える。


「……叔父は雷門サッカー部に、いろいろとご迷惑をおかけしたと聞いています。だから……名前を言うと入部を許されないと思って……。やっぱりダメですよね！　ハハハッ……。じゃあ、お騒がせしました……」

「ちょっと――」

「待て」

「っ！　えっ……？」


踵を返し退場しようと足を進める輝を松風天馬が止めようとすると、円堂が制止の声を上げた。振り向けば円堂は真剣な表情をしており、輝の目の前に立つ。


「影山輝。――サッカーは好きか？」

「！」


まさかそう聞かれるとは思わなかったようだ。輝は答えていいものかと迷ったようだが、嘘偽りのない表情をした顔を上げる。


「はい！」

「だったら迷うことはない」


その答えに満足したように円堂が微笑むと、次いで鬼道が言葉を続ける。


「確かに……影山零治が雷門サッカー部にしたことは、許されることではない。だが、本当は心からサッカーを愛していた。俺たちと同じくらいにな。何も恥じることはない」

「えっ……？」

「サッカーを心から愛せないと、できないプレーも采配もある。影山さんの采配を受けたチームと戦った私たちは、あの人の本当の気持ちが伝わっていたの」


瑞貴は輝に向けてそう言うと、円堂と鬼道と顔を見合わせて懐かしむように微笑んだ。そして鬼道は輝に告げる。


「あの人が行きつけなかった所まで、お前が行ってみせるんだ」

「影山輝。今日からお前は、雷門サッカー部の一員だ！」

「あっ……ありがとうございます！」


入部の許可をもらえて輝はとびっきりの笑顔を浮かべると円堂たちに一礼をし、次に部員たちに体を向けて再び一礼をする。


「影山輝です！　よろしくお願いします！」

「こっちこそよろしく、輝！」

「よろしくね！」

「で、どのくらいサッカーできるんだ？」


明るく挨拶する天馬と西園信助に対し、品定めするように見る剣城京介の視線に輝は肩を上げた。


「グッ！　どのくらいと言われても……ボール蹴り始めてまだ二ヶ月なので……」

｢｢ええっ!?｣｣

「自分じゃよくわかりません……」

「たった二ヶ月ですかぁ!?」


輝の返事に、天馬と信助だけでなく速水鶴正たちにまでも驚かせた。


「な～んだ。初心者かよ」

「誰だって最初は初心者だぞ？」


呆れるように言う狩屋マサキを霧野蘭丸が咎めると、彼は「へっ」と口角を上げて笑った。月山国光戦から二人は若いとまでは言わないが、いいコンビになれるだろう。