その妹、強烈につき
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部活が休憩時間に入る。体育館の熱気から少しでも逃げたくて外に出ると、水道で手を洗っている彼女を見つけた。
「及川さん!こんにちは!」
「ん?あ、金田一君こんにちは」
って言うか私に対してそんな気張った挨拶しなくて良いよ~、と及川さんは笑ってくれた。
青葉城西男子バレー部が誇る、超攻撃型セッターである及川さんの妹の及川ハルさん。男前なお兄さんに似て、彼女もとても美人だと周りから評判だ。俺は人の容姿にそんなに敏感じゃないけど、彼女がとても良い人だというのは知ってる。国見は何故か「ハルさんが良い人……?え……?良い人………?いや、真っ向から否定はしないけど………え………?」と言って盛大に顔を歪めていたけど…あれは何でだ?
「休憩中?」
「はい!及川さんも休憩中ですか?」
「そうそう~。あ、金田一君、出会った当初から言ってるけど私の事はハルで良いよ。呼び方が同じだからお兄ちゃんと混同してややこしくなる」
「は、はい!」
「またそうやって畏まる。私はバレー部の先輩じゃないからそんなに気を使わないで。ね?」
国見、ハルさんはやっぱり良い人だぞ!
来週の日曜にサッカー部が公式試合に出るらしく、ダンス部はその応援の為の練習をしてるんだとか。豪快に顔を洗ったハルさんは「互いにもうひと踏ん張りしようか!」と俺に笑いかけてくれた。飛び散る水滴に太陽が反射が、ハルさんの全開笑顔と重なって眩しかった。鈍感な俺でも分かる。モテるんだろうなぁ…。
「そうだ、今度烏野高校が練習試合で来るんですよ」
「烏野…?」
「あ、えーっと、影山が進学した学校です」
「トビオちゃんも来るの?」
「はい」
「そっかぁ……私も見に行こうかな」
「是非!」
ただの練習試合だからいつもの公式戦みたいな派手な応援は無いけど、ハルさんはよく個人的に応援に来てくれる。他校チームがアウェー感をあまり感じないように、あくまでも見守るだけの応援に徹しているらしい。国見!やっぱハルさん良い人だって!!
「頑張ってね、応援してる!」
「はい!及川さ…じゃなかった、ハルさんも部活頑張って下さい!」
「ありがとう」
ニコリと微笑まれて、思わず緊張してしまった。この人ほんとに綺麗過ぎる時があるんだよなぁ…。性格も優しいし、物腰も柔らかいし、下級生に対しても偉そうじゃないし……矢巾さんが「俺とハルは仲良いぜ」とか言ってたけど、あれあの人の気のせいじゃないかな。だって、チャラチャラしてる矢巾さんと、こんにしっかりしてるハルさんの仲が良いだなんて……。
――騙されるな金田一
あれ?急に矢巾さんの声が……これは確か入学したての頃、矢巾さんに言われた言葉……
――中学の頃のハルがどれだけ天使だったかは知らねぇが、高校生になったハルは変人だ。いいか繰り返す、只の恋する変な乙女だ
何言ってんだろ矢巾さん。ハルさんが変な人だなんて……。
「おーい金田一、そろそろ休憩終わ……」
「あ、矢巾じゃん。お疲れー」
「おーハル、お疲れー」
後輩に見せる顔とは違う、素の二人の挨拶。仲が良いというのはあながち間違いでは無かったのかもしれない。
「ハルよ」
「なに」
「俺の右頬がうずく」
ん?何の話だ?
「どうして」
「とぼけんじゃねぇぞ!!今日の昼休みの出来事を忘れたか!!」
昼休み?喧嘩でもしたのかな。そういや矢巾さんの右頬が赤く腫れてたから、国見がどうしたんですかソレって聞いてたな。事情を説明してたら何故か及川さんが疲れ切った顔で謝ってたっけ……。何で部活前に疲れてたんだ?っていうかあれは及川さんの仕業なのか?
「あれは只の照れ隠しである」
「ざけんな!!」
体育館に体を向けた矢巾さんは、ありったけの大きな声で岩泉さんの名前を呼んだ。……どうして岩泉さん?
「岩泉さぁあああぁぁん!!!」
「!!こら矢巾!!」
「ちょっと来てもらっても良いですかぁぁああぁあああ!!!!!」
「致し方ない…!」
致し方ない?今ハルさん不思議な言葉づかいだったなぁと思った瞬間、彼女はどんな手を使ったのか一瞬で矢巾さんの目の前まで移動し、細長いあの足で強烈な膝蹴りをお見舞いしていた。
「ぐへぇっっ!!!!!」
「あーっはっはっはっはっは!!」
「矢巾さん!!大丈夫ですか矢巾さん!!!ちょ、ハルさん、これは一体……!?」
「金田一君、部活頑張ってね」
ニッコリスマイルのハルさんは、何事も無かったかの様に部活へと戻っていってしまった。
「分かったか金田一」
「!国見」
「ハルさんは、二重人格なんだ」
「はあ…?」
「やっぱハルちゃん凄ぇわー……」
「ウン……ホントにね……純粋に可愛かった頃のハルちゃんを返して欲しいよまっつん…」
「おい、今トイレ行ってたら俺の名前を誰かが呼んでるのが聞こえた気が…」
「安心して岩ちゃん。嵐は去ったからサ…」